異世界桃太郎 その3
30分位歩くと少し開けた所に出た。
更に歩くと、遠くに煙が上がっているのが見えた。
「もう少しでゴブリンの住む村、鬼ヶ村に着きます。このまま行っても襲われる危険がありますので、このゴブリンじいさんを使って、安全に入る事をお薦めします」
ポチはそう言って、更に詳しい説明をする。
「まず、おじいさんを起こして、私たちが危険でない事を説明します。その後、怪我をさせた償いに、村で困っていることがあるなら手伝います。と言って村に入り、村を救って、それを元に昔話を創るのが良いと思います」
さすが賢者。理にかなっている。
でも、でも、何か違うでしょ。わかってる。わかっているけど、言わずにはいられない。
「この世界においては正しい判断だと思う。でも、日本人の僕からしてみたら違うんだよ。一応僕って桃太郎じゃない。桃太郎って、鬼を退治するじゃない。で、ゴブリン=小鬼。つまり、鬼なんだよ。退治するはずの鬼を救うのって、凄い違和感あるんだよ」
この世界において、人間以外の種族が多いのは理解している。
出来れば、人間に肩入れ出来るのが好ましい。人間でなくても、獣人でも良かったのに、よりによって、ゴブリンの村の近くに置かれるとは思わないよ。
本当に神様のバカヤロウ。
心の中で叫んでみた。・・・虚しかった。
「主の意見はわかります。桃太郎は鬼を退治するもの。ゴブリン=小鬼。でもこれは、日本人が決めた事なのです。ここは日本ではありません。この世界には鬼という概念もありません。この世界の桃太郎は人を救うのです。そしてゴブリンは、立派な人なのです。色々な種族の人々を、救い、導くことが、昔話へと繋がるのです」
何かスキルを使ったのではと思うほど、胸の奥にグッときた熱い話だった。
ポチも何かくるものがあったらしく、うっすらと涙が見えた。
その涙を見た瞬間、何か憑き物が落ちたように、心が軽くなった。
「うん、そうだね。僕もこの世界の一員になったわけだし、この世界をより良くするために頑張るよ。ポチが最初に提案した通りに、おじいさんを使って村に入るよ」
そう言うと、ポチは嬉しそうに頷いた。・・・頷いた時、ニヤリと笑ったような気がする。
それがちょっと気持ち悪かったのは、ポチには黙っておこう。
こうして、おじいさんを起こす運びとなった。