異世界桃太郎 その2
山を降りていると、犬が吠えて僕に駆け寄ってくる。
いや、吠えていなかった。
「主、主~。やっと見つけました。ハァ、ハァ」
普通にしゃべってる。
そう言えば神様が言ってたな、
「地球に似ているといっても、そこは異世界。ナビとして、3匹のお供をあげよう。そして、肉体強化と、異世界言語を付与する。これで問題はないな。(ドヤッ)」
行きたくもない異世界に飛ばされた時点で、問題ありだけどな。
それに、あのドヤ顔思い出すだけでムカムカする。
「私は、神様から主に使えるようにと仰せつかまりましたポチといいます」
僕の前まで来て伏せをしてる。
見た感じ、シベリアンハスキーだと思う。
「この世界にもシベリアンハスキーはいるんだね」
「いえ、この世界には存在しません。千年後位に似たような犬種は出てくるでしょう。で、私は神様によって、賢者の加護と、この世界の知識を付与され、地球から来たのです」
「えっ、地球からきたの?」
はいと頷くポチ。
普通ナビだったら、地元の人、正確には動物だけど、なんで、地球から呼び寄せたの?しかも、異世界の知識を付与できるなら、僕に付与するのが普通じゃない?やっぱり神様は馬鹿でしょ。
それにしても、後2匹の姿が見当たらないのはなぜだろう?疑問に思い聞いてみっるとびっくりする。
猿は、遊び人の加護が与えられ、暫く待っていたが、たまたま近くに猿の群れがいたらしく、そこに遊びに行ってしまった。1時間後戻ってきたら、「ボスになったばかりで、まだ治安が悪いから、暫くこっちに留まらないといけない。ほんとゴメン。安定してきたら、かわい子ちゃん何人か連れて戻るからよろしく」と言って、又、茂みの奥に行ってしまった。
遊び人の加護って何?このパーティーにはいらないでしょ。しかも、猿は猿でも、天狗猿って、絶滅危惧種じゃん。神様は馬鹿だと思ったけど、大馬鹿だった。
そして、鳥は鶴で、「ここは今は春だから旅立たないといけない。冬になったらつがいを連れて戻ってくるから、それまで頑張ってくれ」との事。勇者の加護を付与されたが、職業が旅人。
勇者の加護こそ、僕に必要なものじゃない?しかも、その一番使える加護を持っているのに、すぐにいなくなるって、職業を考えろよ。そもそも、旅人は職業なのか?鶴じゃなく、普通にキジでよかっただろう。
ポチにツッコミを入れてもしょうがないけど、入れずにはいれなかった。
一番まともなポチがいれば何とかなると、自分に言い聞かせ、ポチを撫でてやった。
ポチは嬉しそうに、顔を舐めてきた。
「くすぐったいからやめろ」
そう言って離そうとするが、一向にやめる気配はない。だんだん鼻息も荒くなり、体中を舐め始めた。
「ハァ、ハァ、桃、桃がうまい。ハァ、ハァ」
汚された。
俺の力をもってしても、引き離す事は出来ずに、体の隅々を睨め回された。
桃のベトベトから、唾液のベトベトに変わった。
ポチは恍惚の表情をしてる。
こうして、異世界最初のトラウマができた。
ゴブリンのおじいさんを抱える気力もないので、ポチに背負わせ、トボトボと山を降りて行く。
1時間もしないうちに、村のようなものが見えた。