異世界桃太郎 その1
いきなり転生して閉じ込められて、待つこと数時間。
「まだ、おばあさんまだなの?僕をいつになったら拾ってくれるの。そもそもここ川じゃないみたいだし、神様は馬鹿なの?普通川に入れるでしょ。狭いから体動かせないし、同じ体勢で体が凝るし。本当に神様馬鹿なの?」
数時間待たされ、怒りのボルテージは上がり、独り言が多くなっていた。
動けないなりに、身をよじったり、手足を伸ばそうと頑張っている。すると、
「あっ動いた。・・・というよりも転がっているぅ~。ヤバい、ヤバい~」
転がり始めてから数分、硬い何かにぶつかり停止した。
分厚い果肉のおかげで、大きな怪我はなかった。
ぶつかった所が潰れて、うっすらと光が差し込んできた。
頑張ればそこから脱出できそうだ。必死になって、光が指す方に頭をぶつける。
5回頭をぶつけたとき、やっと頭を突き抜けた。
本来なら、産声をあげて出るはずなのだが、地獄から逃げ出すのに必死で無言で出てきた。
「グッ、ギィギィ、何だお前は」
後ろで声がする。けれど、振り向く事もできないので、
「えーっと、桃から生まれた桃太郎です」
ちゃんと聞こえるように、大きな声でそう言った。
その間に、上半身がやっと出れた。
「お前、人間だな。桃と人間の肉が手に入る。俺、運がいい」
ん、何を言ってるのかな?気になり、腕を使って後ろを向いた。
すると、そこには一人のおじいさんが、正確には一人のゴブリンのおじいさんがいた。
おじいさんは、切れ味の悪そううな、錆びた剣を持って僕に近づいてくる。
「おじいさん、もう少ししたら桃から出れるから、その剣はしまって大丈夫だよ。・・・えーっと、そう、話せばわかるから、その剣はしまってね」
そんな言葉をよそに、剣を振り下ろしてきた。
僕は身をよじり、下半身の桃を盾にして逃げた。
剣は、脚と脚の間にはさまった。後10センチ深ければ、僕の股間が潰れていただろう。
考えただけで、鳥肌が立った。
挟まった剣を抜こうとしている間に、完全に桃から抜け出した。
「おい、じじい、よくも僕を殺そうとしたな。この落とし前つけてもらうぞ」
丸腰になったゴブリンのおじいさんを1発殴った。すると、5メートル位ブッ飛んで気絶した。
ふと思ったが、園児並みの体でゴブリンを倒せるって事は、僕、かなり強いんじゃね。
神様チートありがとう。馬鹿って言ってすいません。心の中で謝罪した。
そんな事よりも、この後どうするか考えないといけない。
ベトベトした体をどうにかしたいし、第1村人から情報を聞き出さないといけないし、何よりも、昔話のストーリーをどう持っていくかが問題だ。
とりあえず、気絶したおじいさんと、食べれるところのある桃を持って山を降りてみよう。