表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

化け物を愛した男

作者: ぷちくん
掲載日:2019/08/04

『化け物を愛した男』


これは『愛』を知らずに生きてきた男が、化け物を通して『愛』を得る物語である。


挿絵(By みてみん)


二度と引き返せない帰り道、僕はこの世で最も醜悪な生き物に出会った。


最初に気づいたのは、それが放つ堪え難い悪臭だ。

まるで腐った生ごみに糞尿をかけて熟成させたような、濃密なまでの臭いが辺りに漂っていた。

まともな神経を持つ人間であれば、一刻も早く離れようとしただろう。

だけど、僕は近づいた。

僕という人間に、この悪臭を(とが)める権利なんて無いと思ったからだ。


近づけば、それの正体が目に入る。

驚いたのは、それが生き物だったということだ。

黒くて粘性のある体は、明らかに生命の脈動を打っていた。

僕は思わず、胃の中のものを全てぶちまける。

そして喚き散らし、逃げ出したい気持ちに駆られた。

こんなにおぞましいものが、この世に存在するなんて思いもしなかった。


何度も何度も吐き、もう吐き出せるものなど何もなくなってからも、僕は嗚咽(おえつ)を漏らした。

やがて、疲れ果てた僕は目の前にある醜悪に再び目を向ける。


視界に入れれば、本能的な嫌悪感を嫌というほど掻き立てられた。

例えるならば、風呂場で大きなゴキブリを見つけた時を想像してみてほしい。

大抵の人はゾッとすると思うが、この醜悪な存在はその百倍はおぞましい気持ちを掻き立てるのだ。

どんな奇怪な趣向を持つ人間であれど、これに近寄るのは正気の沙汰ではないと思うだろう。


ただ、僕は違った。

この醜悪な存在を気持ち悪いと切り捨てる権利なんて、僕には無いと思った。

だから本能の拒絶反応を押し切って、この生き物に目を向けた。


観察していると、僕はあることに気がついた。

この化け物は、死にかけている。


そう思った理由に説明できるような根拠はない。

ただ僕は直感として理解した。

このおぞましい生き物は、今まさに死に(ひん)しているのだと。


だから何だという話ではある。

こんな生き物が死んだところで、困る人間などいないだろう。

むしろ死んだ方が、世のため人の為になるのかもしれない。

まともな人間なら誰だって助けない。

これはそういう存在だ。


だけど、僕は助けた。


それは僕が善人だからじゃない。

僕が醜悪な人間だからこそ、これを見捨てる資格は無いと思ったのだ。

僕は人の頭ほどの大きさのそれを、両手で持ち上げて胸に抱えた。


これを助けよう。

それが僕にできる、最後の善行だから。



僕は醜悪なそれを持って帰り、机の上に下ろした。

胸元と腕は未知の汚物に(けが)され、鼻は馬鹿になっている。

それでも僕は服を脱ぐことも、風呂に入ることもせず、醜悪なそれに水をあげた。

どこが口かわからないし、口があるのかもわからない。

だから植物にあげるように、ジョウロで水をかける。

黒いネバネバの(つや)が増えた気がする。


服を着替えて風呂に入ってから、僕は買い物に出かけた。

あれが何を食べるのかわからないので、色んな食べ物を買ってきた。

通りすがった人たちは僕を見て顔をしかめた。

多分、染み付いた臭いが消せ切れていなかったのだと思う。

突き刺さる視線が怖かったので、僕は急ぎ足で買い物を済ませた。


家に帰り、買ってきたものを取り出す。

最初に選んだのは食パンだ。

醜悪な塊の前に千切って置いてみた。

反応は無い、何をすればいいのかわからないのかもしれない。


僕は食べられるものだと教えるために、目の前でパンをかじった。

臭いと相まって吐き気が込み上げるが、何とか耐える。

それから黒い塊の前にもう一度置いてみた。

今度は反応が違った。


黒い触手のようなものが伸びてきて、パンをつついた。

つついて、つついて、何度かつついてから、黒い塊はそれを持ち上げ、飲み込んだ。

消化器官とかあるのだろうか。

わからないが、とりあえず食べた。


臭いがひどいので、換気をしながら別の食べ物をあげることにした。

今度はレタスだ。

いや、キャベツだったかもしれない。

まあどっちでもいい、僕は野菜を千切って目の前に置いた。


黒い塊はパンにしたように何度かつついてから、また触手を伸ばして飲み込んだ。

少し齧ったが、他の部分は吐き出した。

おいしくなかったのだろうか。


野菜の口をつけた跡を見ると、黒く爛れていた。

なんておぞましいのだろうか。


今度は生ハムを取り出して置いた。

一枚つまんで食べてみるが、この悪臭の中では最悪の味がする。

僕はティッシュに吐いて捨てた。

黒い塊は触手を伸ばして食べた。

今までで一番食いつきがいいので、好きなのかもしれない。

僕はメモ帳を取り出して、黒い塊がハムが好きだと記入した。


それから色々とあげてみたが、やはり一番好きなのはハムのようだ。

それと焼肉も食いつきが良かった。

この黒い塊は肉食なのだろうか。

そもそも何の生き物なのかわからないけど。


水と食事をあげていたら、黒い塊が前よりもツヤツヤになった。

どす黒い汚物の塊から、薄汚いコーヒーゼリーぐらいにはなった気がする。

触るとタプタプと揺れた。

持って帰るときは気づかなかったが、触ると仄かに暖かい。


黒い塊が黒い汁を出した。

ただでさえ臭いのに、黒い汁は失神しそうなぐらい強烈だ。

排泄物なのだろうか。

取り敢えず雑巾で拭き取ってゴミとして捨てた。

これからはボウルか何かに入れておくことにしよう。


黒い塊に名前をつけることにした。

真っ先に浮かんだのは『ナマゴミ』だが、それはあんまりな気がしたのでやめた。

『クロ』は安直だし、『コーヒーゼリー』は長いし、迷う。

名前を決めるのは苦手だ。


結局、『クロ』と『コーヒーゼリー』を合わせて『クロコ』と呼ぶことにした。

感情があるのかは分からないが、クロコと言うと少しプルプルする。

今日もクロコはとても臭い。

ボウルの底に黒い液体が溜まっていた。


僕の体の一部に黒い斑点が浮かんできた。

痛みはないけど、腐ってるみたいで気持ちが悪い。

クロコは毒を持っているのだろうか。

まあ、それで死ぬなら別にいいさ。

僕にはお似合いの最期だ。


クロコが大きくなった気がする。

体重を測ったら三キロだった。

成長しているなら今後も増えるかもしれない。

あと臭いが原因で苦情が来た。

消臭剤を多めに買っておこう。


基本的にクロコは何もしないが、触る時に触手を絡ませるようになった。

最初は食べられるのかと思ってヒヤヒヤしたが、どうやら挨拶のようなものらしい。

触手を掴んだら、叩かれて手が切れた。

触られると嫌な部分もあるようだ。


僕の身体に斑点が増えた。

手の傷口も黒くなっている。

痛くはないけど、放っておいたら外には出られなくなりそうだ。

病院に行った方がいいのかな。

いや、僕が病院に行く資格なんてないか。


消臭剤を置いていたが、臭いは防げていなかったようで警察が来た。

僕の斑点だらけの体を見て驚いていた。

家の中を調べられ、クロコが見つかった。

これは何だと聞かれたが、僕にもよくわからないと答えた。

何重にも重ねたゴミ袋に詰められ、クロコが捨てられた。

僕は事情聴取されたが、病気だと言われて帰された。


クロコを探しにゴミ捨て場を漁る。

幸いにも臭いが強いのですぐに見つかった。

というよりも、クロコはゴミ袋を破って外に出ていた。

どうやったのだろうか。


クロコを抱えたまま途方に暮れて散歩する。

家には置いておけないし、捨てることもしたくない。

僕は林の中に入り、誰もいないベンチの上で泣いた。

クロコが触手を伸ばして僕の顔をつついた。

慰めてくれているのだろうか。


ネットで小さなテントを注文し、林の中に設置した。

その中にダンボールを置き、クロコを入れた。

隣にはハムやパンの乗った皿も置いておく。

また明日も来るよ。


新しい家を探した。

クロコと暮らせる場所であれば、利便性は二の次だ。

しばらく探したら、いい感じのボロ屋が田舎にあった。

築五十年とかで、辺りは畑ばかりだ。

最寄り駅には車でも二十分近く掛かる。

他は空室らしく、誰も住んでいないらしい。

不便だが、ここならクロコといても迷惑にはならないだろう。


林のテントを片付けて、クロコを車に乗せて新居に越した。

荷物はほとんど無いので、引越し業者に頼む必要はなかった。

クロコを抱えて家に入ると、触手を上に伸ばしていた。

喜んでいるように見えたのが微笑ましかった。


クロコと一緒に映画を観た。

クロコが見ているかは分からないが、時折僕の抱えているポテトチップスを触手で掴んで食べていた。

そういえば、クロコに性別とかはあるのだろうか。


買い物は不便になったが、ここなら気兼ねなく過ごせていい。

僕は車を一時間近く飛ばしてスーパーに行く。

出発前には風呂と消臭スプレーをかけるのだが、あまり隠せている気がしない。


身体の斑点がえげつないことになってきた。

普通の人が見たら間違いなく卒倒すると思う。

とはいえ不調なところは何もない。

これって放っておいたら死ぬのだろうか。

クロコに聞いたら、フルフルと揺れていた。

意味はよく分からない。


クロコがさらに大きくなった。

体重を測ったら十キロくらいある。

通りで最近持ち上げるのが重いはずだ。

ハムを食べる量も増えてきたし、このままじゃ養えなくなってしまうかもしれない。

貯金がなくなれば、僕は死ぬしかないのだから。


クロコを抱えて、家の近くに食べられるものがあるか探してみた。

石をもって近づけたら、触手で下に落とされた。

よくわからない雑草は少し食べたが、おいしくないのか落とされた。

芋虫を近づけたら、最初は戸惑っていたが食べた。

虫なら食べられるのかもしれない。


それから色々と試した。

蟻は微妙、カエルはまあまあ、蛇は微妙、兎の死骸はおいしそうに食べた。

野草やキノコはほとんど食べないが、食べられるのもあった。

僕は食べたものの写真を撮り、袋に詰めて帰った。

クロコが一人になっても生きていけるように、調べておこう。


クロコが這うように動き始めた。

最初は置物のようにじっとしているだけだったが、今ではゆっくりと移動する。

タブレットを弄っていたら、僕の膝の上に乗ってきた。

ひどい臭いにも、今では慣れている。

僕はコーヒーゼリーみたいはクロコの身体を撫でた。

ちなみに排泄の際は、勝手にボウルに戻ってしてくれる。

クロコは結構、賢いと思う。


最近は独り言が多くなった気がする。

クロコが聞いてくれているのであれば独り言ではないけど、返事を返してはくれないのでやはり独り言なのだろう。


クロコとキャッチボールをした。

ボールを転がすと、クロコは触手を、伸ばして僕の方に弾き返した。

要領を覚えてからは楽しくなったのか、ずっと僕にボールを投げてきた。


クロコが窓際にいた。

何をしているのかと思ったら、外にいる猫を見ていたらしい。

白と茶色の猫だった。

クロコと友達になれたらいいけど、この臭いじゃ寄り付かないかな。


クロコの形が変わっていた。

足のようなものが生えているが、立つのは難しいらしい。

疲れたのか、すぐにいつもの塊に戻った。


あれから毎日、足を生やす練習をしている。

変形とかできるのだろうか。

だとしたら、見てみたい。


クロコの参考になるかもしれないので、写真集と模型を注文した。

何になりたいのか分からないので、取り敢えずは猫と人間と鳥の三種類を揃えてみた。

クロコの前に置くと、触手を使ってページをめくり、模型を持ち上げて眺めていた。

気に入ってくれたなら嬉しい。


練習の成果が出たのか、クロコが四本の足で立っていた。

不格好だが、かろうじて猫だとわかる。

僕は嬉しくて手を叩いた。

クロコを褒めて抱きしめた。

人間と鳥はまだ難しいらしいが、時間をかければできるようになるかもしれない。


預金残高を見てため息をこぼす。

安い家だけど、生きるだけでお金はかかる。

あまり長くはいられないかもしれないな。

死ぬのはいいけど、クロコを一人にするのは心配だ。


ネットでサバイバル術について色々と調べ始めた。

食べられる野草や、飲み水の探し方。

火の起こし方とか、泥と藁で家を作る方法なんてものもあった。

全く興味なかったのだが、調べてみると面白い。

人間は色んな試行錯誤を経て発展してきたのだと感じる。

僕が長生きしたいとは思わないが、クロコが一人でも生きていけるくらいの知識は教えてあげたい。


クロコが十五キロになった。

猫のクオリティもだいぶ上がり、たどたどしいが歩けるようになっていた。

だけど猫にしては大分大きい。

十五キロの猫なんて、そうそういないだろう。


外を出歩き、サバイバル術で勉強したことを実践してみる。

試しに野草を見分けようとしたが、中々上手くいかない。

ただ、五キロほど歩いたところに川があったので、水は何とかできそうだ。

魚もいたので、釣りができれば生きていけるかも知れない。

僕は夕暮れを眺めながらのんびり家に戻った。


クロコが居なくなっていた。

僕は慌てて名前を呼び、家中を探した。

しばらくすると、クロコが猫の姿で戻ってきた。

尻尾を動かして外の木を指す。

あそこに行っていたらしい。

何事もなくて安心した。


クロコが二十キロに成長した。

猫の姿もかなり上達して、短時間なら走り回ったり跳んだりもできるみたい。

よく見たら、外に落ちてる枝を包み込んで骨格にしているようだった。

賢いな、クロコは。


僕の身体が真っ黒になっていた。

黒人とかそういう次元じゃない、影人間みたいだ。

ここまで来れば、全身タイツだと言って誤魔化せる気もする。

ただ、少し身体が重い。

痛いとか苦しいとかじゃないけど、石になっていく感じがした。


タブレットを使っていると、クロコが横から手を出すようになった。

画面をスクロールしたり、画像をタップしたりする。

試しに自由にさせたら、検索ボックスで触手が止まった。

どうやって調べればいいのか分からないらしい。

するとクロコはプレゼントした写真集を持ってきた。

表紙に写っているものを触手でつつく。

これを調べたいと言っているのだろうか。

僕は検索窓に『人間』と打ち込んだ。

クロコはタブレットを持ち上げて、興味深そうに画面を見ていた。


それからクロコは色んな写真を僕に検索させた。

『服』とか、『靴』とか、『髪型』とか、沢山だ。

クロコは勉強をしたいらしい。


僕はクロコが調べやすいように、写真の全てに名詞を書き込んだ。

それから教育用の図鑑や辞典を揃えた。

かなりお金は無くなったが、クロコは喜んでくれた。


クロコが映画を見ながら人間になる練習をしていた。

ハムを横に置くと、不定形の塊に戻って勢いよく食べる。

クロコは本当にハムが好きだね。


クロコと一緒に出かけた。

クロコは言葉を話せないけど、頭は良いので教えることはできるだろう。

僕の勉強したサバイバルの知識や、川の場所や畑の場所、車の乗り方やテントの張り方なんかを教えた。

猫の頭で頷いていたので、理解してくれたと思う。

廃材置き場に鉄パイプがあったので、クロコの骨格用にいくつかもって帰った。


クロコが二本の足で立てるようになった。

身体の大部分が足で、とても人間と呼べるものではないが、それでも二本の足で立っていた。

触手を天辺から生やして小刻みに揺らしている。

心なしか、その姿が誇らし気に見えた。


クロコの体重が三十キロになった。

もう僕一人で持ち上げるのはしんどいが、クロコは自力で移動できるので苦労するようなことは何もない。

むしろ僕の方が、クロコよりノロマなくらいだ。

最近は本当に体が重い。

おじいちゃんにでもなった気分だ。


クロコが猫と遊んでいた。

あの猫はクロコの臭いが平気なのかな。

僕はもう何も感じないけど、もしかしたら臭いなんて無くなってるのかもしれないな。

友達が増えたなら嬉しい。


クロコが小さな子供のような姿に、なれるようになった。

男の子なのか女の子なのかは分からないが、以前よりもずっと人間に近い。

僕はクロコの進歩を喜んで小躍りした。

二人でお祝いにハムを食べた。

身体は重いが、この嬉しさの前では些細なことだ。


思い切って人間の骨格標本と義眼を注文した。

他にも、服や靴やカツラも買った。

お金は底を尽きたが、これでクロコは人間になれるかもしれない。

どうでもいいけど、今はカツラをウィッグとか言うらしい。

最近の世の中のことは全然わからない。


クロコが人間の姿になった。

肌の質感はコーヒーゼリーのままだが、それ以外は人間の姿だ。

男になったり、女になったりしていた。

クロコは迷っていたが、最終的には女性の形がしっくりきたらしい。

僕があげた白いワンピースを着て、安い靴に安いアクセサリーを身につける。

それから、しっかりとした足取りで歩き出した。


クロコは僕の元までやってきて、両手を広げる。

僕は涙を流して、クロコを抱きしめた。

こんなに嬉しいのは人生で初めてだった。


すごいねクロコ。

おめでとうクロコ。


僕達は手を繋いで外を歩く。

誰もいない田舎で、黒い手が二つ繋がっていた。

側から見たら、僕達はどう見えたのだろう。

兄妹、友達、親子、それとも、恋人か。


なんだって構わない。

僕達を見る者は、この場所にはいないのだから。


僕は石になった。

体が全く言うことを利かない。

座ったまま、夕暮れを眺めた。

動かない僕を、クロコは抱きしめる。

ああ、温かいな。

クロコの瞳から熱いものが流れていた。


僕はこれからどうなるのだろう。

世界が遠のいていくのを感じる。

君に会えなくなるとしたら、とても寂しい。

誰かを愛したのは、初めてのことだったから。


ああ、僕は怖いよ。

僕なんてこの世界に要らないと思っていた。

でも、やっと気づいたんだ。


クロコ、君と一緒にいたいよ。

クロコ、君を愛してる。


――――――

――――

――


消えゆく意識の尻尾を、ひとつの声が掴んだ。

それは初めて聞いた筈なのに、ずっと前から知っているような響きだった。


『私もあなたを、愛してる』



化け物とは何であろうか。

見た目が醜い事か、はたまた心が醜い事か。

どちらも間違ってはいないのだろう、それでも私はこう思う。


――――化け物とは、愛を知らないということだ。


愛することを知らず、愛されることを知らない。

それは、どんな姿の者をも化け物に変える呪いだ。

世界に巣食う悲しき病だ。


「だからね、あなたも誰かを愛しなさい」


静かな公園のベンチで、母親はお団子を食べる子供に言った。

子供はタレを両の頬に付けながら、お日様のように明るい声で返す。


「私は大丈夫、だってお母さんに愛されているもの!」


そんな我が子の頬を、母親はハンカチで拭った。


「そうね、私はずっとあなたを愛しているわ」

「お母さんも化け物になんてならないよ!だって私が愛しているもん!」

「ふふ、ありがとう」


優しい時を過ごしていれば、向こう側から一人の男がやってくる。

彼は慈愛に溢れた目で二人を見て、朗らかに微笑んだ。


「お待たせ、今日はハムを食べたいな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ