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 玖魔褸靡(くまるび)との世界の命運を賭けた最終決戦に挑むべく、有稜はこれまで以上に大規模かつ果敢な暗黒領域への侵攻を進めていた。


 今日も有稜は配下の兵達に、命令を飛ばしていく。


「侵攻部隊には、戦闘の要である山賊・検非違使・異世界帰還者のどれかに属する者達を中心に編成せよ!幻獣共の動きが活発な場には、一部隊に必ずこの三勢力の人員を入れるものとする!!」


「玖魔褸靡を直接的に倒せる要因にはならんだろうが、奴が『風野山(かぜのやま) 大地(だいち)』というただの凡夫であった頃に強く影響を与えた『キノコプラス(Kinokoplus)』というなろうブランドの執筆に関わった者達の作品を徹底的に調べあげよ!!小説・随筆、ジャンルや成人向けに関わらず、徹底的にだ!!」


「これだけ我が"王道楽土"の領域が広がっているなら、玖魔褸靡(ヤツ)の世界間を隔てる"分断"の効能も多少は減衰しているやもしれぬ。……キモオタ達は、過激な性描写のライトノベルをこの黄金の都に蔓延させ、暖簾(のれん)という結界で区切られたこの世(全年齢向け)とあの世(R-18指定)の境目を破壊し、異界に繋ぐための門を開くのだ!!」


 有稜の的確な戦局判断による指示のもと、意思を統一された兵士達が一子乱れぬ様子で、王の命に答える――!!


『ハッ!!了解致しました、我らが王よ!』


 かくして、有稜が率いる黄金の軍勢は、怒涛の勢いで四聖獣の群れをこの地上から駆逐していく。


 キモオタ達主導による異界接続作戦は、未だにこの世界に玖魔褸靡が君臨しているためか、思ったような戦果が全く得られていないが、それでも山賊や検非違使を中心にした侵攻部隊の獅子奮迅の働きぶりによって、現在地上の九割は有稜の"王道楽土"の支配領域に組み込まれていた。


 何もかもが、上手く行きすぎている――。


 そう、恐ろしいほどに。


 今や玖魔褸靡の姿が目視出来るほどに己の支配圏を広げた有稜は、ここにきてここ最近の戦局で感じていた違和感の原因を分析し始める。


「何故、玖魔褸靡(コイツ)はむざむざ我が軍勢の進軍を許した?……明らかにここ最近は、奴が産み出す幻獣の数が急激に減りはじめている……!!」


 無尽蔵ともいえるほど、産み出されていたドラゴン・グリフォン・マンティコア・アイアンタートルから成る四聖獣の群れは、目に見えてその数を減らしていた。


 支配領域を広げながら戦況を聞くたびに、遂に玖魔褸靡の力に底が見え始めたのかと考えていたのだが、目にする限り玖魔褸靡の力は依然として健在……むしろ、最高潮に達しているように有稜には感じられた。


「何だ……四聖獣は人間達を滅ぼすために産み出されたわけではないのか?奴等は玖魔褸靡が十全に力を蓄えるために、余力を用いて造り出されただけの単なる時間稼ぎの駒に過ぎないのか……コイツは、自分自身の力で旧世界の生命を終焉(おわ)らせなければ、気が済まない、とでも言うのか……?」


 しかし、それにしてはあまりにも非合理的であり、効率が悪すぎる。


 有稜が知る風野山(かぜのやま) 大地(だいち)という人間は、知り合いの書いたエッセイに対する嫉妬や憤激、絶望から邪教集団に所属する道を選ぶような直情的な性格であり、既存の社会や人類を滅ぼすためなら、こんな回りくどい方法を取らずに最初から手っ取り早く自身の巨躯を活かして盛大に暴れ回っているはずである。


 奴には、世界を滅ぼす以外に力を最大限に蓄積してまで成し遂げたい他の目的がある――。


 玖魔褸靡に限らず、この世に再び復活してから感じていた様々な違和感が有稜の脳内をよぎるが、肝心の答えに辿り着かない――。


 自身の意見を修正・訂正する者が誰もいなくなった世界で、有稜が当然の帰結が如く一人で頭を悩ませていた――そのときである!!





『グオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!』





 突如、これまで動きを見せる事がなかった玖魔褸靡が、盛大に雄叫びを上げる――!!


 即座に臨戦態勢に入るように有稜が指示する中、玖魔褸靡が右肩から生やした腕に持っていた大鎌を天高く振り上げる――!!


 だが、玖魔褸靡が大鎌を振り下ろした先は有稜達の脳天ではなかった。


 三千大千世界において斬れぬモノはないとされる"天地を解離する(あだます・)裁定神の大鎌(はるぺりあ)"の断罪の刃は、玖魔褸靡と有稜達の間を阻むかのように空間を斬り裂く――!!





 刹那、次元が一瞬のうちに断裂した――。









「総員……かかれぇっ!!」


『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』


 有稜の号令のもと、玖魔褸靡に向けて全軍が死に物狂いで突撃していく――!!


 山賊を筆頭に、続いて検非違使やキモオタ、異世界帰還者や二代目インキュバス俳優、ネコ耳女神天使、ムチ肉女エルフ、神待ち入道、理知的なオーク、褐色髭もじゃ幼女風ドワーフ、あやかしマイスター、黒騎士を継ぐ者、天蓋を覆う意思(テンプレ)至上主義の忍者、ブルマを履いた半魚人(マーマン)、江戸時代の大工、悪の組織:イマペー団の戦闘員、玄関先で抱きしめ合ったりする兄妹(本当は従兄弟だが、妹の方はそれを知らない)、超巨大ベンチャー企業の社員、中国マフィア、ソビエトの残党、帽子屋、漁業組合の漁師、時計塔の魔術師、イラン観光協会のガイド、傭兵部隊……etc.


 立場や国籍、種族の差すら超えて皆が皆、有稜ただ一人に勝利をもたらすために突貫していくが、玖魔褸靡が作り出した次元断裂に阻まれて攻撃が届かぬまま、断裂に呑み込まれ盛大に散華していく――。


 死にゆく彼らには微塵も興味を見せないまま、次元を隔てた玖魔褸靡の姿は朧な――実体を持たぬような幻影になっていく。


 その様子を目にしながら、ここに来て有稜は自身が盛大な思い違いをしていた事に気づく――!!





「……大したモノだ!見事にやってくれたな、榛慧(はるあき)……ッ!!」





 思えば、自分が目覚めさせられた最初の段階で既に違和感があった。


 異邦人や怪異が犇めき混迷化を深める現代の日本を、権謀術数で渡り歩いてきたあの稀代の策士気取り――禁中近衛十二将:第七席の絢瀬(あやせ) 榛慧(はるあき)という男が、事態の責を取るなどという殊勝な理由で自身の"死"を選ぶはずがなかったのだ。


 極めつけは、時間遡行能力を有する天堕盧衆(てんだろしゅう)に介入するための全権限の凍結。


 有稜の手に天堕盧衆(てんだろしゅう)が渡る事を真に危惧していたのなら、有稜の封印など解かずに自身の権限を最大限に使って代償覚悟で天堕盧衆(てんだろしゅう)を過去に送り、まだ無害だった頃の風野山 大地という人間を殺めれば済む話である。


 そのような疑念はあったものの、そんな選択を榛慧がする理由が有稜には分からなかった。


 だが、現在自分の眼前で起きている現実を前にすれば、答えは自ずと導かれる。


「玖魔褸靡よ……まさか、貴様がここまで本当に世界から(・・・・)自分を救う(・・・・・)事しか考えていなかったとは、ついぞ思わなかったぞ!!」


 有稜が心底愉快そうに哄笑する。


 有稜の言葉通り、現在玖魔褸靡は自身の"天地を解離する(あだます・)裁定神の大鎌(はるぺりあ)"による分断の斬撃を用いて、自分をこの世界のあらゆる時間軸から切り離そうとしていた。


 目的はそう――山賊や検非違使、小学3年生カップルのような自分の平穏を乱す者達が犇めくこの世界から、誰も脅かす者がいない安住の地――虚無の空間に至るためである。


 そのような意味では、真の意味での怪物は玖魔褸靡(くまるび)黎明殿(れいめいでん) 有稜(あるかど)などではなく、この事態を読みきっていた絢瀬(あやせ) 榛慧(はるあき)に他ならない。


 彼は大地が八魔之王:玖魔褸靡として顕現した時から、その神格・権能を割り出し、力を持つ前の風野山 大地という人間の言動から、その真実の願いが何なのかを的確に理解していた。


 その結果、榛慧は玖魔褸靡という存在が世界にとって絶対に看過する事が出来ない脅威である、と判断。


 過去に戻って大地を始末したところで、第二・第三の大地のような人間が現れ玖魔褸靡の力を手にすれば、世界は何度も存亡の危機に立たされる。


 ゆえに、榛慧は玖魔褸靡の力を大地の願い通り、大地ごと誰の影響も受けず――誰にも干渉する事が出来ない虚無の空間に隔離させる事を決断したのだ。


 有稜の封印を解いたのは、玖魔褸靡が虚無へと旅立つよりも先に、人類が滅ぶような事態を避けるため。


 玖魔褸靡があらゆる時間軸から消えれば、世界は強制的に風野山 大地という人間が存在しない状態で修復される、と榛慧は睨んでいたが、時間という確かではないモノであるがゆえ、有稜の支配という形で人類の存続を図ろうとしていた。


 世界が大地の存在を抹消して修復されたのなら、有稜がどれだけ黄金の支配を広げようが強制的にすべてなかった事にされ、黎明殿 有稜が封印されたままの世界線が続いていく。


 修復がされずに、そのままの世界が続いていくのなら、自由意志はないモノの有稜の支配下のもと、文明は存続していく。


 ただその場合、世界の覇者となった有稜が他の時代にまで手を伸ばし文字通り手がつけられない存在になるのを防ぐため、榛慧は時間遡行能力を有した天堕盧衆(てんだろしゅう)、並びにこの世界で唯一彼女らに介入出来る権限を有した自分が有稜の手に落ちる事だけは、何がなんでも避けなければならなかった。


 そのために必要だったのが、風邏義 戒厳(第十一席)による自身の"処刑"であった。


 云わば黎明殿(れいめいでん) 有稜(あるかど)は、玖魔褸靡が産み出した四聖獣達が如く、絢瀬(あやせ) 榛慧(はるあき)という男によって捨て石にされた形となっていた。


 有稜にとってはどこまでも悲惨な事に、最後まで榛慧の読み通りであったらしい。


 玖魔褸靡が消え去った後に残った虚無は、玖魔褸靡に関わった全ての事象をなかった事にするかのように、有稜が築き上げた"王道楽土"、その何もかもを呑み込んでゆく――。


 崩れゆく黄金の都の残骸とともに、虚無へと堕ちていく有稜。


 だが、どこまでも一人であり続けた王は、これこそが自身の望みであると言わんばかりに心の底から高揚した笑い声を上げ続けていた。





「クハハハハッ!!……良いぞ、これが"虚無"か!我の黄金の支配すら及ばぬまさに未知の領域!!……ここには、我が望む"輝き"はどこにもなさそうだが……望んだモノが手に入らぬ、という事がこれほどまでに!狂おしいほどに愛おしい……!!」





 全てを失いながら、有稜は今の自分こそが真の勝者である、と高らかに謳い上げていた――。





「あぁ、一筋も光が差さぬ事に、これほど安らぎを得る日が来るとは夢にも思わなかった……今の我は、全てにおいて満たされている――!!」





 黎明殿(れいめいでん) 有稜(あるかど)


 最後に全てを喪失したはずの王は、自身に流れていく確かな充足感に満たされながら、それでも飽きぬ"未知"を求めて、虚無の先を目指していく――。













 いつも(・・・)と変わらない景色。


 そこでは、慌ただしくも何の変哲もない日常が繰り広げられていた。


 人情商店街では、日本で新国家を建国しようとする武装組織と検非違使達による大捕物が行われ。


 柔らかな日差しが差し込む公園では、恋人達が愛を語らう。


 猛烈ふくよか系女子が、張り手を突き出しながらナンパしている男とされた女性を両方なぎ倒し。


 学校では北条 政子が授業をしながら、内向的な生徒が休み時間に流行りの山賊小説を読んだり、クラスの人気者が中心でみんなと国民的トップアーティスト:HEAPS《ぼた山達》の話題の最新曲の話に興じていた。





 当たり前の景色、変わらぬ日常。


 ただそこに風野山 大地という一人の人間だけが、最初から存在しないかのようにいなかった。


 それでも、世界は緩やかに続いていく――。









 風野山(かぜのやま) 大地(だいち)だけがいない日常。


 この光景が時代の修復がされた世界線の形なのか。


 あるいは、虚無に呑み込まれた者達が今際の際に見た儚い夢幻だったのか。













 いずれにせよ、それを疑問に思う者など、この世界に誰一人としているはずがなかった――。





〜〜終焉〜〜

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