承
〜〜大地が失踪してから20年後〜〜
禍々しさが充満する黒き祭壇を前に、呪具を用いながら禁呪を一心不乱に唱え続ける一人の男の姿があった。
髪も髭も伸び放題であり、頬がやせこけてかつての面影が消え失せているが、この人物こそが突如謎の失踪を遂げたなろう作家:風野山 大地その人であった。
『キノコプラス』のエッセイを読んだことで世界の全てに絶望した当時の大地は、このような欺瞞と不条理を自身に押しつけてくる現行世界を否定するための行動を起こす事を決意していた。
そのために彼が選んだのが、世界を滅ぼすことを至上命題とする邪教集団『八月駄路観性導狂会』であり、そこで呪術の修行に明け暮れているうちにいつしか八人いる内の教主の一人に名を連ねるまでの実力者となり、自身の身に邪神・魔尊を宿す禁呪を会得するまでに至ったのである。
大地はそれまでの呟くような詠唱から一転、目を吊り上げながら場をつんざくような奇声と共に最後の一句を口にする――!!
「南無八幡、玖魔褸靡大権現――!!我に、真なる正道を示すための道を与えたまえらんかし……!!」
刹那、大気が震え祭壇がひび割れたかと思うと、場に盛大な轟音が轟き、激震が大地を揺さぶる――!!
「なんだ〜、今のは?……地震とか勘弁してくれよ……」
「お、おい!呑気な事を言ってないで、あれを見てみろよ!」
「あん?あれって……な、なんじゃありゃあ!?」
突然の地響きに戸惑いを見せていた人々が、示された方に目を向けて悲鳴の声をあげる。
彼らの視線の先にいたのは、天まで届きそうな巨躯を誇る異形の怪物が悠然と存在していたからだ。
その怪物は両腕と肩から生やした一対からなる計四本の豪腕を持ち、それぞれが巨大な円月輪、十文字槍、大鎌、大斧といった武器を手にしていた。
腹部は異様に膨れ上がり、そこには巨大な亀裂の痕らしきものが痛ましいほどくっきりと浮かび上がっている。
下半身からはこの巨体な体躯を支えるために必要なのか、重量感溢れる足が四本生えており、この怪物の異形性をより一層際立たせていた。
眼がある部分は太陽の熱光で灼かれたかのように潰れており、口は耳元まで張り裂けているという有り様であり、その相貌はまさに"天に仇為した原初の魔神"という印象を目にした者に抱かせるのに充分であるだろう。
この異形の怪物こそが、八魔之王:玖魔褸靡の力をその身に顕現させた大地の姿だった。
人々が突然の埒外な異常事態を前にロクに動けずに戦々恐々とする中――巨大な異形がゆっくりと口を開く。
『我が名は、救世神:玖魔褸靡。……欺瞞と不条理に満ちたこの世界に、真実の理を敷く者なり……!!』
怪物が言葉を解する事にも驚いたが、それ以上に"真実の理"という発言の真意を図りかねて混乱する人々。
そんな彼らの困惑に構うことなく、玖魔褸靡が高らかに救済宣告を告げる。
『真実の理……それは我のみが唯一正しい光に導かれた存在であり、それ以外の七十億人は山賊であろうと検非違使であろうと小学3年生のカップルだろうと老若男女を問わず、全てが闇の中で蠢く"キモオタ"に過ぎない!という事である……!!ゆえに我は、この世界で唯一価値がある"我"という存在を有象無象が跋扈するこの汚濁まみれの地から救いあげるために、これよりこの世界に対して"救世現象"を引き起こす事とする……!!』
玖魔褸靡の発言を聞いて、大衆が盛大にどよめく。
それも無理のない事だろう。
この玖魔褸靡という怪物の主張は、宗教と呼ぶにはあまりにも自身以外の存在を敵視したモノであり、誰かを導くというよりも自身の中で強固に練り固められた概念と言っても過言ではなかったのだ。
何かがおかしい……何かが軋みを上げて狂い始めている……。
そんな確信を持ちながらも、自分達の眼前に佇む圧倒的な脅威とその内に秘められた底知れぬ狂気を前に、声を上げるどころが身動ぎ一つすら出来ずにその場で立ちすくむ人々。
視界が機能していないであろうに、そんな彼らの様子がまるで見えているかのように口の端を吊り上げて笑みの形を作った玖魔褸靡は、右肩から生やした腕に持っていた大鎌を天高く振り上げる――!!
『彼の天と此の地を切り離す――"天地を解離する裁定神の大鎌"!!』
――刹那、天と地が分かたれるが如く、託宣通り全てのモノが切り離された。
玖魔褸靡の"天地を解離する裁定神の大鎌"の斬撃はまずはじめに、異世界や平行世界と呼ばれる異なる世界と地球との繋がりを完全に断ち切った。
これにより地球は、異界の助力や援軍を得る事も出来ずに現在地球上にいる勢力だけで玖魔褸靡と対峙する事を余儀なくされる事になる。
これだけでも危機的な状況である事に変わりはないのだが、怪物の斬撃による効果はそれだけではなかった。
天地を切り離すというまさに宇宙開闢といえる偉業を成せるのならば、三千大千世界において断ち斬れぬモノなど何もない。
その事を証明するかのように、玖魔褸靡の権能は地球と異界との接点だけでなく、小学3年生カップルの心の繋がり……いや、彼ら彼女らだけではないこの地上に生きる全ての人々の心の絆を完全に切り離していた。
これにより玖魔褸靡に対抗出来る力を持った"神獣"と呼ばれる存在も、自身を構成するために必要な『人々の想いの繋がり』が根底から断たれた事によって地上に留まれずに消失する事態となる。
また、この斬撃の効能によって人々は玖魔褸靡というとてつもない世界の脅威を目前にしているにも関わらず、皆が皆ロクに結束する事も出来ずに自分本意かつ衝動的な振る舞いしか出来なくなっていた。
「ヒャッハー!!御大層な邪神様とやらに、俺様がドでかい一撃を喰らわせてやるズェ〜〜〜!?」
「オイ、勝手な真似をするんじゃない!!……クソッ、蒙昧なる愚民共め!僕に全て任せれば上手くいくモノを……!!」
「オラァッ!!さっさと、ヤらせろこのクソ女ァッ!!」
「い、嫌ァッ!?……だ、誰か!見てないで誰か私を助けてェッ!!」
玖魔褸靡が君臨する世界においては、心だけでなく"命"が結びつく事も出来ない。
ゆえに、性行為をしても誰も妊娠する事が出来なくなったため、地球では現在進行形かつ世界規模で深刻な出生率の低下が相次いでいた。
さらに問題はそれだけではない。
「ふざけんな、地球人!!さっさと、俺達を元いた世界に戻しやがれ!!」
「私には、故郷で帰りを待つ大切な者達がいるんだ!!……こんなところで訳の分からんバケモノに殺されるなど真っ平ゴメンだ!」
玖魔褸靡が地球と異界の繋がりを断ち切った事によって、この世界に取り残された異界の亜人種や別の時代から来た人間が疎外感や迫害などから恐慌をきたし、各地で暴動を起こし始めたのだ。
それに乗じる形で、同じ地球人でありながら自身の欲望や利益のために"裏切り"ともいえる策謀を張り巡らせたり、闘争を引き起こす者が相次ぎ、世界は玖魔褸靡を討伐するどころの話ではなくなっていた。
さらに、追い打ちとばかりに人類に脅威が迫る――!!
「な、何だ!?どうして、"四聖獣"がこんなにいやがるってんだ!!」
「嘘……しかもこの四聖獣の群れ、私達に襲いかかろうとしてる!?だ、誰か助けてッ!!」
「マ、ママ〜〜〜ッ!!」
人々を襲撃しているのは、『小説家になろう』界隈で"四聖獣"と称されるドラゴン・グリフォン・マンティコア・アイアンタートルの四種類の幻獣からなる大群であった。
その数はまさに地平を埋め尽くすほどであり、なろうユーザー達から『東西南北を守護し、病を鎮める効能を持つ』とされたはずの幻獣達は、明確な人類の敵として既存の文明社会を滅ぼそうとしていた。
これらの"四聖獣"は、異形の邪神:玖魔褸靡の膨らんだ腹部から亀裂を割って生まれ出た者達であった。
これらの大群は単なる本能や欲求に忠実なだけの怪異や魔物とは違い、まさに神の重大な使命を帯びた敬虔なる使徒の如く、一切の慢心や余興もなく冷徹に眼前の命を摘み取っていく。
人間同士で引き起こされる闘争と玖魔褸靡の幻獣達による襲撃で膨大な犠牲が出ているにも関わらず、新しい生命だけがいつまで経ってもこの地上に産まれない。
今や邪神:玖魔褸靡が直接手を降すまでもなく、世界は存亡の危機を迎えようとしていた――。
そう、唯一の例外を除いて――。
この世界の存亡が賭かった非常事態を前にして、検非違使達を取りまとめる『禁中近衛十二将』の第七席にして、現在の日本政府の実質的最高指導者である絢瀬 榛慧は、かつて全権を剥奪し存在そのものを強固に封印していた第十席:黎明殿 有稜を解放する事を閣議決定。
日本の歴史上最も危険視されていた有稜を自由にする代わりに、榛慧は秘匿されていた特殊部隊:天堕盧衆に関わるあらゆる権限を永久凍結した後に、この事態を止められなかった責を取るという名目のもと、第十一席である風邏義 戒厳の刃による"処刑"という形で、その生を終える事となる。
かくして、榛慧による封印の軛から完全解放された有稜は、僅かな人類生存圏となったトウキョウで己の覇武を示さんとしていた。
黄金に輝く龍の頭部を模した兜を被り、マントをたなびかせながら有稜が大衆の前に姿を現す。
玖魔褸靡が君臨する世界において、人々は団結する事が出来ずに各々好き勝手な振る舞いしか出来なくなるにも関わらずこれだけ多くの人間がこの地に集ったのは、自身の欲求を満たす事よりも根元的な感情――黎明殿 有稜が復活する、という前代未聞の異常事態を恐れたためである。
「臣民諸君、お初にお目にかかる。我は、この日本……いや、この世界をあの異形の邪神から取り戻さんとする最後の世界王:黎明殿 有稜である……!!」
居並ぶ聴衆を前に、威風堂々と名乗りを上げる有稜。
そんな彼が何を口にするのかと、人々は固唾を呑んで様子を窺っていた。
対する有稜は、そんな彼らに構う事なく話を続ける。
「知っての通り、『禁中近衛十二将』の第七席:綾瀬 榛慧が此度の件の責を取る形で処刑された、のだが……真にこの事態を憂慮していたというのならば、時間遡行すら可能であった"天堕盧衆"の狂犬共くらいは残しておくべきであったろうに、奴は何を酔狂に走ったのか"天堕盧衆"に関わる全ての権限を凍結したせいで、文字通り未来永劫誰も奴等に介入出来ぬ有り様となった。……まったく、悪足掻きとはいえ自身の不始末を押しつけておきながら、それでも死してなお天下の采配を振るおうとは、我を差し置きどこまでも不遜で身勝手な奴よな……!!」
そう言いながらも憤怒や不満よりも、どことなく懐かしむような、されど喜色が混じった声音で今は亡き第七席を評する。
そんな有稜の様子を目にしながら、聴衆は困惑した様子でざわつき始める。
――綾瀬は黎明殿 有稜にとって、自身を長年封印してきた不倶戴天の敵ではないのか。
――それに、長年日本の権力者や検非違使達がひた隠しにしてきた"天堕盧衆"の存在を、ここまで明け透けに話す理由はなんだ?
――綾瀬 榛慧と天堕盧衆という戦力が欠けている以上、人類側はますます不利になっているだけではないのか。
――そして、そんな事態を前にしてもまるで動じていないこの男の自信は何なのか。
「だが、何も恐れる事などありはしない。……救世神を騙りこの世界の支配権を簒奪せしめんとする不遜な逆賊めは、真の王であるこの我によって、裁かれるべきだからだ」
ゆえに、と有稜は言葉を続ける。
「もはやこの地に榛慧の権謀術数や"天堕盧衆"の時間遡行なと不要である。……臣民諸君、貴殿らは生まれや立場、思想や種族……それこそ老若男女を問わず、みな一人余さず我が威光のもとで尖兵と化し、命を賭してでも"神殺し"の責務を果たせ……!!」
有稜が国会議事堂前にて、生き残ったトウキョウ都民に向けた演説とも言えぬ一方的な宣言を行う。
だが、有稜へ向けられたのは疑惑に満ちた眼差しや罵詈雑言の嵐であった。
それというのも、無理はない話だろう。
有稜は確かに検非違使達を束ねる『禁中近衛十二将』の一席に名を連ねてはいるが、現世に深刻な影響を与えかねない有稜の強大すぎる能力を危険視した第七席の綾瀬 榛慧に長い間存在ごと封印されていた事からも分かるように、この国において黎明殿 有稜という名は『守護者』というよりもそれこそ『逆賊』あるいは『破壊者』という意味合いの方が遥かに強いのである。
ましてやどのような形であれ社会と関わってきた他の大半の十二将と違い、有稜はいずれの既得権益ないし新興勢力との接点も持っておらず、この場に突如姿を現した有稜に即座に従って利益のある者など皆無に等しかった。
ゆえに、現代において封印から解かれた有稜と志や利益を共にする味方など誰一人としておらず、現在国会前に集っているのは有稜以前からの検非違使達による支配体制に不満や危機感を持っていた市民達や、日本の歴史上最強最悪の禁忌とされた有稜を討ち取る事によって名を上げようとする山賊や戦士達が集結していた。
有稜の発言を受けて、早速市民達から反発の声が上がる。
「ふざけるな!そんな横暴が許されてたまるモノか!!」
「黎明殿 有稜!!アナタの支配になんか、誰一人として屈したりしないわ!」
そんな声を皮切りに、より一層激しい罵詈雑言の嵐が吹き荒れる。
だが、有稜はそんな彼らを前にしても動じることなく、ぴしゃり、と言い放つ。
「我の言いなりにはなれないが、あの玖魔褸靡とやらにはむざむさ黙って命を差し出すような真似をこれからも貴殿らはしていくつもりなのか?……現にこの黎明殿 有稜という"脅威"を眼前にしておきながら不満や恐怖を元に結束するでもなく、皆が皆ただ単に好き勝手に喚いているだけではないか」
有稜の発言に対して押し黙る市民達。
彼らとて現状のままならば玖魔褸靡に滅ぼされるだけであり、現状対抗できる手段を持っている存在が有稜のみであることは分かっているのだが、有稜の独裁を許すようなことになればそれもまたこの社会にとって破滅に等しい事である、というのを本能的に感じ取っていた。
理屈ではまともに足並みを揃えることも出来なくなった自分達では、この男を止める事が出来ない――。
そんな諦念の気持ちが蔓延し始める中、理論ではなく直情的に動く者達がいた。
「正しいやら間違っている、って話じゃねぇ……急に出てきて何を偉そうに仕切ってやがんだ、テメェはよぉ!!」
「有稜……貴様の錆び付いた鍍金など、すぐに引き剥がしてやる……!!」
行動を開始したのは、玖魔褸靡が出現する以前からこの国で検非違使達の統治に逆らい、自身の思うままに暴れてきた"山賊"や"キモオタ"と呼ばれる『まつろわぬ者達』であった。
彼らはそれぞれ己の武器である山賊刀や過激な性描写のライトノベルを手にしながら、有稜へと殺到する――!!
だが、自身に危機が迫っているにも関わらずそれでも有稜は威風堂々とした余裕の態度を崩さない。
むしろ有稜は親愛を込めて、彼らへと語りかける。
「クハハハハッ!!……良いぞ、それでこそ人が持ちえる最高の輝きだ!これほど心踊る事はない!」
ゆえに――それが儚く消える存在だとしても、強く願わざるをえない。
「さぁ、見せてくれ!貴殿らの鮮烈なまでの在り方を!!……これまで辿ってきた自分達の軌跡が、錆び落としの研ぎ石程度にしか使われるモノではないと本当に信じているのなら、一矢我に報いてみせろッ!!」
「ッ!?……ほざくな、有稜ォォォォォォォォォォォォォッ!!」
決死の形相を浮かべた山賊達の刃が迫ろうとした――その瞬間である!!
「ここより現界せよ――"黄金時代・王道楽土"!!」
刹那、有稜の全身から言葉通りの鮮烈な黄金の光が放たれ始める――!!
この場にいた全ての者達は有稜から放たれる輝きを目にした瞬間から、有稜に対して抱えていた敵意や危機感、不安といった感情が自身の中で急速に薄れ、それどころかまったく別の感情に変質していくのを感じていた。
それは今まさに有稜に迫ろうとしていた山賊達も例外ではない。
彼らは己の気迫で何とか自我を保ちながら、有稜の光の効力に対して必死に抵抗していた。
「テメェ……一体、何をしやがったッ!?」
決死の形相を浮かべる彼らとは対象的に、有稜が悠然とした様子で答える。
「ふむ?どうやら時が経ちすぎて、この時代の人間は我の事をロクに知らぬと見える……この我が司る属性は『金』、もたらす効果は『支配』。あまり捻りはないがその権能とは、他者という存在を文字通り"支配"する事である……!!」
「ッ!?な、なんだとッ!!」
そう口にしている間にも、抵抗し続けていた山賊やキモオタ達の精神の有り様は、黄金の輝きによって有稜への熱烈な忠誠心に塗り替えられていく……。
自分が自分ではなくなっていく恐怖に押し潰されそうになりながらも、それ以上の有稜への憎悪と憤激を胸に、血涙を流しながら彼らは眼前の怨敵を睨みつける――!!
「黎明殿 有稜……!!俺は、貴様を絶対に許さないッ!!」
「例えすべてが塗り替えられたとしても……お前に奪われたモノを絶対に忘れないッ!!」
有稜に挑んだ山賊やキモオタに限らず、この場に集った者は日本人であれ異邦人であれ異種族であれ、文字通り老若男女の区別なく黄金の支配に絡め取られていく――。
「アガ、ガッ……!?」
「グ、グゥゥゥッ……!!」
それでも有稜に屈するわけにはいかない、と人々は必死に歯を食い縛りながら抵抗する。
そして、今ある気持ちを精一杯吐き出すように、力を込めて叫び出す――!!
「黎明殿 有稜様に、絶対の忠義をッ!!」
一瞬で、場が静まり返る。
口にした本人も自分が何を口にしたのか分かっていない様子で茫然としていたが、それも一瞬の事であり、大衆は堰を切ったかのように皆一斉に有稜を礼賛する声を上げ始めていた。
「黎明殿 有稜様に絶対の忠義を!!」
「我々は玖魔褸靡の暴虐を許さない!!」
「全てを捧げてでも……我等は貴方のもとについていく!!」
今自分達の頬をつたうものが、一体何の意味を持つのか――。
それすら疑問に思う心を忘れ、彼らは熱気に取り憑かれたように有稜を称え続ける。
『我等の真の主の帰還に祝福を!黄金の支配に勝利あれ!!』
眼前の光景を睥睨しながら、有稜がおもむろに宣言する。
「"人は十を冠する者に、王の威光を仰ぎ見る"――。起てよ、臣民!!これより先は、我等が勝利の凱旋を飾るモノと心得よッ!!」
有稜の発言を受けて、沸き立つ大衆の群れ。
検非違使でありながら、歴史上唯一『王』へと君臨を果たした存在:黎明殿 有稜。
有稜の絶対的な支配のもと、世界は更なる混迷へと突入していく――。




