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領都にて

 ペイズリー領の領都として栄えるこの街は、北西部から東南部にかけて広がる資源の豊かな山林と、南部に大きく開けた穀倉地帯により農林業や鋼業を中心として発展してきた。海がないため、海産物や塩については他領に頼らざるを得ないのだが、こればかりは立地の問題ゆえ致し方ない部分である。その代わりと言っては何ではあるが、山地から流れ込む湖がいくつかあり、そちらは最近になって観光地として整備されたため新たに外貨を得る手段として期待されている。

 さて、そんな領都であるが綺麗に区画整理されており、大きく4つの区分けがされている。

 大雑把に纏めると以下の通りである。

 領主館を中心として都市の中央に区分けされている行政区。

 日用品や薬を扱う一般商店や宿屋といった店舗や住宅が軒を連ねる商業区。

 木材加工や鍛冶屋、錬金術士の工房などが集う職人区。

 治安維持用の軍用地が各区域に割り振られ、本部が行政区内に置かれているほかは訓練所や兵舎、出張所が点々と各区内に。

 もちろんこれは先に述べてあるとおり、大雑把な区分けであるので職人区の方に飲食店がないかと言われるとそういうわけでもない。

 そんな領都の行政区にほど近い、斡旋所に併設された食堂。斡旋所はその名の通り、住民からの陳情や旅の護衛を募るための依頼などを取りまとめて管理を行う組織である。本部を王都に持つ民間の大きな組織であり、一定以上の規模がある街には必ず支部が設置されていた。

 そんな食堂の一角に、レティとサラの姿があった。


「募集期間終わってたね……」


 サラはとてもとても深いため息とともに、べたーっとテーブルに突っ伏した。器用に料理の器を避けて伸びるあたりなかなかの職人芸である。

 休憩所を出てからしばらくの後、運よく通りかかった馬車にこれまた運よく女性の二人旅は危険だからと拾ってもらえた二人は想定よりも随分早く領都に到着することができていた。そこで、善は急げとばかりに受付へ向かったのだが、残念なことに前日で受付が終了してしまっていたのである。

 途中まではそこそこ調子が良かったのだが、最後できれいにすっ転ぶ形となったのでサラは完全にいじけてしまっていた。


「次の募集開始には間に合うのだから、それまでに募集している内容を確認していましょう? 逆にきちんと対策が取れる時間ができたと思えば良いのよ」

「そうだけどー……」


 困ったような笑みを向けてレティが宥めるのだが、サラは憤懣やる方ない様子。目の前にある生野菜に対してえいえいと執拗にフォークによる凶器攻撃を繰り返していた。

 二人が話している募集期間、というのは十日に一度程度の頻度で行われている領都における採用試験の事だ。身分を問わずに応募を受け付けているし、例え家柄が良かろうとも()()()()であるなら容赦なく落としているらしいという話である。

 先だっても「馬車の扱いが上手い」という一芸を売り込んだ傭兵が採用されたそうで、色々と話題になっているようである。


「一芸でもチャンスありっていうのは有り難いよねぇ」


 お行儀が悪いと窘められて姿勢を戻し、早く止めを刺してくれと言わんばかりにぐったりした葉物野菜をもぐもぐと咀嚼。大変美味しく頂くことでその本懐を遂げさせた。そしてサラは次の獲物として煮物の芋を指名した。


「私は色々難しいかもしれないけれど、貴女(サラ)ならきっと目に留まるのではないかしら」

「もー……。まーたそんなこと言ってー」

「事実だもの」

「そりゃ嘘じゃないかもだけどー」


 ともあれ、と膨れっ面になったサラはフォークに刺したままで放置していた芋をレティにあーんをさせて食べさせると、思考を切り替えた。


「せっかく時間ができたんだし、今日はこのまま休んで明日にでも付与術士か奴隷商人がいないかちょっと探してみよう」

「そうね。お仕事がダメだったとしてもそちらで欲しい物が見つかれば御の字だもの」


 ひとまずの方針を定めたところで本格的に食事に取り掛かる二人は追加注文のついでとばかりに世間話の延長でオーダー取りに来た給仕を掴まえて聞き込みを開始する。

 相変わらずの暢気っぷりなのであった。



◇◇◇◆◆◆◇◇◇



 少し時間は遡り、レティたちがわくわくしながら斡旋所へ向かった頃のこと。

 二人を入城門前で降ろした馬車はそのまま領主館へと向かっていた。

 先に検問にかかっていた二人を尻目に、通行証を提示することであっさり検問を通過。程なく目的地へとたどり着く。

 報告については時間を問わないと指示を受けていたので、衛兵に取り次ぎを頼み回収した物品を預けて馬車は係留所へと回し、沙汰を待つこと少々。すぐに報告を受けるとのことで謁見所ではなく応接室へ通された。

 さして待つこともなく扉が開き、先に引き渡しておいた回収品を持った武官に続いて侍女を連れた領主が姿を見せた。

 さながら高級シルクのような見事な銀髪を靡かせ、比較的遅い時間ではあるが未だ公務中であったであろうことを示す豪奢なドレスを纏ったすらりとした女性である、ぴしりと伸びた背筋が女性としては長身の部類である特徴を更に際立たせていた。整った目鼻立ちも加えてクールと言うよりは怜悧な印象を与える美女であった。


「そのままでいい。報告を」


 立ち上がろうとする男を手で制し、対面に座ると領主は話を促した。

 到着したときには終わっており、そこから武器だけを回収して帰ってきた。死体の確認数と大まかな特徴に加え現場の状況のみという実に簡潔な報告である。

 脚を組み替えながら報告を聞いていた領主は、話が進むに連れて次第にお手本のような渋面を作った。

 武官に持たせてある回収品にちらりと目をやってからふぅむ、と小さく唸ると目を瞑る。

 しばし下腹部のあたりで組んだ手の親指同士を何度か打ち合わせて黙考。


「……分かった、追加で調査を送る。ご苦労だった。下がって休め」


 領主の言葉に侍女が対応し、申し訳なさそうに退出する男を外へと送っていった。

 その後武官にも回収品を鑑定に回すよう指示を出し下がらせる。

 応接室に一人残った領主は報告の内容を再度頭の中で反芻する。

 現場の状況についての情報を思い出し、ぴくりと片眉が跳ね上がる。何度思い返してみてもそこだけがよくわからない。

 仲間割れの同士討ちとも思えない、所有者が自分の武器で死んでいたという報告。


「……何よ、それ」


 思わず素が出る程度には混乱したようである。

少々遅くなりましたが、続きのお話です。

このくらいのペースで続けていければと思っております。

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