もう一人の私
私は美しいひとが好きだ。
具体的に言うと私は私が好きだ。
正確には今まで生きてきて私以上に美しいひとに出会ったことがない。と言った方が正しいだろうか。とにかく私は私が好きなんだ。
私には双子の妹がいる。私と瓜二つの妹だ。とても整った顔をしている。ひとに聞いてみると外見だけでは見分けがつかないらしい。おそらく親ですらパッと見ただけでは見分けがつかないだろう。
そんな外見が全く同じの私と妹の唯一違う点。それは性格だ。
私は所謂ナルシストというものらしい。(以前同じクラスの女子が私の机にした落書きにそう書いてあった。)しかし妹は全くの逆で自己主張が無いのである。ここまで美しければ私ほどではなくとも少しくらいは自らの容姿に自信をもっていいはずだが、妹にはそういった自信が微塵も無いのである。私には信じられない。
そんな妹はいわばもう一人の私。私のあとを追いかけ、私の言ったことをしている子。それは高校生になった今でも変わらず、同じ高校を選び、クラスこそ違うものの昼休みになれば妹から私のところにやってくる。それは妹が私に依存しているような関係であり、私も悪い気はしていない。そんな妹《もう一人の私》を私は心から好いている。
半袖では少し肌寒くなってきた秋のある日。いつも通り私と妹は一緒に昼食をとっていた。その私たちの横を男子数名が走り抜けていった。教室内で、しかも食事中に走るとはなんて素養のないひと達何だろうと思っていたら、走り抜けていった男子の最後尾が妹の座っている椅子にぶつかっていった。妹は体勢を崩し、膝の上に乗せていたお弁当を落としてしまった。
「待ちなさい。」
最後尾の男子が足を止め、振り返る。他の男子は少し離れた位置からにやにやと気持ちの悪い笑みを浮かべながら遠巻きにこちらを見ている。
「今、妹にぶつかったのに何故謝罪の一言も述べないの。」
「はあ?」
「そのせいで妹のお弁当が落ちたじゃない。せめて謝りなさいよ。」
「うるせえなあ。そんな邪魔になるようなところで食べてるからぶつかるんだろうが。」
「だからって謝らなくてもいい理由にはならないわ。」
「長々とウザいんだけど。」
そう言ってその男子は仲間たちの元へ行ってしまった。
放課後。特に部活動に所属していない私と妹は家に帰ろうとしたが私は昼休みの男子に呼び止められたので、妹を先に返してその男子の話を聞いてやろうと思った。
「なによ。」
男子はバツが悪そうに口を開いた。
「昼休みのことは……、悪かったよ。」
昼間の態度とは一変して反省した態度を見せたので、私は少し驚いてしまった。
「俺もアイツらに言われてやらされたんだよ。本当はあんな事やりたくなかったけど、断ったら何されるかと思ったら怖くって……。」
どうやらにやにやと笑っていた男子にいじめられていたらしくチキンレースみたいなことを強要されていたらしい。そうなるといじめられていた側をこれ以上責め続けるのもあまり美しいこととは言えない。背景は理解したことを伝え帰ろうとしたとき、後頭部に大きな衝撃を受け目の前が真っ暗になった。
目を覚ますと手を拘束され、身体の自由を奪われていた。
目の前には昼間の男子たちとぶつかってきた男子。(なるほど、あの謝罪や言い訳は全て嘘だったらしい。)あたりは暗くてよく見えないが学校の校庭端にある体育倉庫の中だろうか。
「なにやってるの!はやく解きなさい!」と叫ぶと、一人が私の腹部を蹴ってきた。体の中の空気を突然吐き出さされ、腹部の痛みに耐えながら、咳き込んでいるとおそらくリーダーと見られる男子に髪の毛を掴まれ頭をぐいっと持ち上げられた。
「お前さぁ、ちょっと調子乗りすぎだよなぁ?えぇ?」
怖い。そう感じるのに時間はかからなかった。
「なんかよぉ、俺の女がお前にブスやらなんやら色々言われたっつって泣いてたんだわ。」
覚えがない。確かに常日頃から他の女のことをブスだとは思ってはいるが口に出すことは美しくないと思い、面と向かって言ったことなど一度もない。
「待って!私、そんな事、一回も!」
今度は顔を殴られた。生まれてこの方ずっと大事にしてきた私の顔が。その瞬間ショックで抵抗する気力すら失われた。その後、幾つか覚えのない因縁をつけられながら殴られ続けた。暫くして気が済んだのかリーダー格の男子は殴るのをやめ「あとは好きにしていいぞ」と吐き捨てるとどこかへ行ってしまった。その後、周りにいた男子数人が私に近づき、制服を乱暴に剥ぎ取って下着が見える状態にまでされた。乱雑に体をまさぐられたがもう抵抗する気力は残っていなかったので、されるがままだった。
暫くしてついに処女を奪われる。というところで勢いよく扉が開いた。
そこには十数人の大人たちと妹がいた。
病院で手当を受け、後頭部を殴られたということで安全をとり一晩入院することになった。病室のベットで警察の方から話を伺った。先に帰宅した妹が私の帰りが遅いことを心配し、警察や学校に連絡してくれたらしい。
妹が家から着替えを持ってきてくれたので警察の方は気を使ってくれて病室から出ていった。妹との間にちょっと沈黙が流れたあと「助けてくれたんだってね。ありがとう。」と言うと自然と目から涙が零れた。妹に会って安心したからなのだろうか、とにかく涙が溢れて止まらない。すると、妹が身を乗り出し。私を包み込むように抱いてくれた。妹は小さな声でポツリと「もう一人の私、無事で良かった。」と囁いたが、私はもう母にしがみつく赤子のように妹に抱きつくことしかできなかった。
私は以前、妹が私に依存していると思っていたが、どうやらもう一人の私に依存していたのは妹だけではなかったらしい。
気に入ったら感想を書いてくれると作者が喜び、調子に乗ってこの話を妹目線で書きます。後付けとかではなくちゃんとした裏設定です。