第二話 生命の価値
―――――残念ながら、アナタの命はあと・・・
「・・・どうして、私だけがこんな仕打ち・・・」
第二話
生命の価値
―――コッ、コッ、コッ・・・
コンクリートの廊下を私、泉刻は歩く・・・私がこのゲームをクリアする条件は「獅子座の生存」・・・誰だか知らないけど、獅子座のプレイヤーに遭遇しないことには話にならない。
私の生命の行く末は私の手元で見届けたい。それが元から風前の灯火だったとしても・・・
名前 :泉 刻
星座 :山羊座
願い :平等
経歴 :詐欺師
スキル :シンクロ(20)
ミッション :獅子座の生存
残りポイント:0
「・・・・・・。」
スマホの画面を見る。私はこの期に及んで何を願っているのか・・・こんなことなら嫁の命に会うことを願うんだった。
――――――私はその日、余命宣告を受けた。
それから、命に合わせる顔がないと、命の元へ帰ることなく、避け続けてきた・・・まさか、それがこんなことになるとは・・・
「・・・命。」
口からその名が漏れる・・・後悔してももう遅いというのに。
「―――何ですか。と、刻君。」
「―――――えっ?」
懐かしい、愛しき声に私は振り向く―――――
「や、やっと、会えましたね。刻君。」
幻覚だろうか・・・そこには命の姿が・・・
――――がばっ!!
それが幻覚なのか、本物なのか、他のプレイヤーの罠なのか、そんなことを確かめる前に、私は反射的にその人物を抱きしめていた。
「――――と、刻君!?ど、どうしたんですか?」
「命っ!!すまない・・・私は・・・私は・・・」
―――そう、会ったのなら、告げなくてはならない。私の余命について・・・
「私の・・・生命はっ!!――――――ふむっ!?」
私の唇に添えられた命の唇・・・
「――――ん、大丈夫・・・無理に言わなくても・・・わ、私は・・・全部知ってるから。」
離された唇から発せられた言葉に私はありがたくもやるせなく唇を噛む。
―――そして私は決意する。私の残された生命の使い方を―――
「命・・・私は、キミと、その子を必ず生きて返すから・・・」
そう、命のお腹には、私たちの子がいる―――
―――――ヒタッ・・・ヒタッ・・・
「―――――っ!? と、刻君・・・何か、来る・・・」
命が警戒する――――耳を澄ませると、何かが忍び寄る足音がした。
「グルルルル・・・」
低い唸り声・・・近寄ってきていたのは大型の獣・・・
「―――アナタ、獅子座のプレイヤーですね。」
私はそれを知っていた。このゲームに意志の持たない殺戮要員を介入させる訳がない。それは命が参加していることで確信を得ていた。このゲームは間違いなく見せ物だ、関係性のある人間をプレイヤーとして選出しているのに、ただ殺すだけの機械や獣に殺されたんじゃ見ているオーディエンスは盛り下がる。この獣が獅子座のスキル「獣化」を使った獣だと断定するには十分な情報が私の元にはあった。
「私達を殺すのは止めた方が身のためですよ。」
獣のプレイヤーに交渉を持ちかける。それを聴いたのか獣は動きを止めた。
「私は、山羊座の泉と言います。スキルは『シンクロ』私と指定した対象を同じ状態にするスキルです。アナタが私を殺せば、このスキルによってアナタ自身も死ぬことになります。」
―――嘘は言っていない。そうする必要がないほどに、このスキルは交渉の役に立つ。
獣は私の言葉を聴いたのか、命を横目で見る。
「彼女に手を上げるのでしたら、私はコレを飲みますよ。」
私はスーツのポケットから小瓶を取り出す。
「ポイント交換で入手した毒物です。私も死ぬことになりますが、アナタも道連れですよ。」
私はポイントでこれを手に入れていた。私のスキル、余命を考えた場合、共倒れにできるのであれば、残りの生命の短い私は犠牲が少なく、失われるモノが相手と比べ格段に少ない。加えて、スキルの中には「不死」を持つプレイヤーがいる。私がそのプレイヤーと対峙した場合、毒物による自殺のシンクロだけが対抗手段になりえると考えたからだ。
スキルの理屈は私にはわからないけど、“腕に激痛”“胸から出血”という事実を相手に押し付けるようなものだった場合、“心肺の停止”という“死”の事実を押し付ける、それなら「不死」に打ち勝てるかもしれない、もちろん打ち勝てないかもしれないが、間違いなく銃で心臓を撃ったところでこのプレイヤーは殺せないのだから、私が毒を持つには十分な推測だった。
「私のミッションは“獅子座の生存”です。アナタ、私と死にたくなければ、協力しなさい。」
私は獣に近付き、協力依頼をする。私は他のプレイヤーにない“生命の価値が低い”という武器を持っていたから、この交渉が成立する。
「・・・お前、狂ってやがる・・・」
いつの間にか獣は立ち上がり人間の姿になっていた。それは降参を表す両手を上げた姿で。
“狂ってる”か・・・まぁ、普通はそう思うでしょうね。心中をものともしないなんて・・・
“生命の価値は皆等しい”そんな言葉が世にある。まぁ、私も特に異論を唱えるつもりはなかった――――自分の余命を知るまでは。
“百人の犯罪者と一人の一般人、どちらかの生命しか助けられないとしたら?”なんて正しさを考える二択の問いかけがあったと思い出す。初めてそれを聞いた時は、どんな人間だろうと百人の生命の方が重いだろう、とか思ったっけ。まぁ、その答えに意味はない。ただ、もしもその問いが“明日死ぬことが決まっている人と、生まれたての赤ん坊”という二択だったら世間の人はなんて答えるでしょうか。
生命の価値に違いは存在する。それが私の常識となっていて、その認識を理解している人間からみれば、私の脅迫は至極真っ当に感じるでしょう。
狂っちゃいないと思うと同時に、生命の価値が低いことが武器になるとは、なんとも皮肉なモノだとは思ったが。
ともあれ、私の武器を大いに振るうことで、私たちの間で協定が結ばれた。
Another View
岩畑 巧
「・・・・・・来た。」
ボクは長距離狙撃用ライフルを寝そべって構えていた。スコープを覗き込むこと1時間・・・階段から少女が頭を出した――――
―――――ズゴオオオオオオオンッ!!
引き金を引き絞り発砲する。
「―――――――っ!!?」
―――――バタッ
少女は銃撃の勢いを受け、大きく仰け反り倒れる。
着弾を確認。
そして倒れた少女は立ち上がった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・は?
いやいやいやいや、余りにも自然に「転んだから立った。」みたいに立ち上がったもんだから呆気に取られたが・・・訳が分からない・・・
そんな非現実的な状況に思考を停止している間も彼女は何事もなかったかのように歩いてボクの方に向かってくる――――
僕は拳銃を創造し――――
――――パンッ!!パンッ!!
近付く彼女の腹部に銃弾を撃ち込む―――――
彼女はそんなことはお構いなしに手に持つナイフを振りかぶった―――――
―――――あぁ、そうか、だからボクのミッションは“参加者12人中10人の死亡”なのか・・・
君は妊婦さんをりょーじょくするのが得意なフレンズなんだね。
どーも、ユーキ生物です。
本文を書いてる時にいつも作業用BGMを流すのですが、その時にピアノ版ジャパリパークが流れて「けものの章」とかふざけたことが頭によぎったための凶行です。まぁ、にわかですらないのであまり引っ張るつもりはありません。Twitterで流行った時にタイムラインでチラホラ見てたのでたった今、ネタのためにWikipediaで調べました。変なところあったらスミマセン。ちなみに空海ちゃんはサーベルであってサーバルではありません。
さて、今回は前回「復讐の章」の“噛ませ犬”こと刻視点でお送りしました。書いてる途中、「復讐の章」で目覚める場面書いてるから楽だわ。とか思ってませんよ。ホントですよ。・・・はい。
とは言え、空海に比べ、刻はかなり書いていて楽です。前回、空海視点で書いていて、空海の設定「頭悪い」が思っていたより厄介なことが判明しました。「自分賢いから頭悪いやつの思考とかわからんわ(笑)」とかいう性格悪いヤツとかではなく。全ての行動に理屈等の裏のある方が書き易かったんですよ。
例えば「なんとなく」でスイッチを押して、それが敵の弱点だった。これを賢いキャラなら、スイッチ周辺の防御とかで押されては困るモノ、と考えて理屈アリで押せますが、それを「なんとなく」にした瞬間、伏線無視、ご都合主義感が尋常じゃなくなりますよね。そう感じるのは私だけでしょうか・・・
とにかく、空海の行動に対する思考を書かないと変になって、でも色々考えてる描写があると「あれ?コイツ頭悪い設定じゃ?」となるので難しいのです。
あ、ちなみに「刻」はPCが変換してくれないので毎回「コク」と打ってます。あとは泉夫妻は一人称が二人とも「私」なところでしょうか。・・・刻も面倒ですね。
命が「命」なんて名前なんで「命」と打ちたい場合全て「生命」にしてます。コイツも結構面倒ですね。「面倒の章」の方が作者的にはしっくりくるのかもしれません。
あとは命と書いていてTIMのネタが時々頭をよぎります。私だけでしょうか?同世代の方はきっと同意していただけると信じてます。
しょーもない不満(?)でしたね。今後ともよろしくお願いします。
次回は1月26日投稿予定です。