第七話 唯一人、あなただけのために
第七話
唯一人、あなただけのために
「・・・それじゃあ、まずは、栗原唯を殺すところから始めよう――――」
岩畑はそういうと手に持つ拳銃を唯に向ける―――――ここまでか・・・
――――ゴゥ!!
「なっ!?」
岩畑の身体から豪炎が上がった――――――
・・・コイツからもっと真実とやらを聴きたかったが、唯が殺されてしまうのなら、仕方がない、ここまでのようだ。
俺は発火のスキルで岩畑を燃やした。
「があああああああ!!バカなっ!!発火は封じたはずなのにっ!?」
「それはこの手錠のことを言っているのか?おいおい・・・『念発火』に手が必要だとでも?」
そう、俺はこれまでスキルを使用するときに必ず手をかざして、あたかもスキルには手が必要だと周囲に思わせてきた。生物は捕食の瞬間に最も油断する。自分が狩る側だと思わせるための保険がそれだった。このゲームは数少ない情報の中で戦うものだとゲーム開始時に気付いていたから、俺は騙す側になると決め、誰が見ていようとも発火スキル使用時には手をかざすようにしてきた。
・・・裏切られることを恐れた習性なのかもな・・・
「・・・お前が滅ぼした村の人たちの痛みを味わって、死ね。」
火力が強すぎたのか、岩畑はすぐに黒焦げになってしまった・・・
俺は・・・ついにやり遂げた・・・村を滅ぼした岩畑を、焼き殺した・・・
村が公害で滅び、生き残った俺はその元凶を探し岩畑という兵器エンジニアに行きつくも岩畑には護衛が付き近付くことはできず二の足を踏んでいたところにこのゲーム・・・長いことかかったが、最後は一瞬だった・・・復讐とは、こんなものなのかな・・・
「ゆ、悠里・・・あの、助けてくれて、ありがとう。」
あぁ、俺の人生を懸けたものがやっと花開いた・・・
「悠里?」
「・・・え?あぁ、うん。大丈夫。」
唯が何か言っていた、ちょっとそれどころではなかったのであまり聞き取れなかった・・・
「とりあえず、この階の宝を探しに」
「・・・あぁ、うん。任せる。」
とりあえず俺は何も考えられそうにないので唯に任せることにした。
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栗原唯
―――ポーン
「あ、この宝で最後みたい。ミッションクリアだって。」
メモリーチップが置かれた部屋で、あたしのスマホにはミッションクリアの文字が映し出される。これで一安心かな・・・
「・・・ああ、うん。」
ただ、悠里は岩畑さんを殺してからずっとこの調子だった。これは、直子さんと同じ、恐れていた事態・・・復讐が悠里の生きる理由だったけど、その願いが、叶ってしまった。
あたしは、こんな悠里が好きなんじゃない。ギラギラと、己の目標を見つめる姿がカッコよくて惚れたのに・・・
「―――――!?」
そうか・・・その方法なら確かに・・・
ただ、あたしは逡巡する・・・それを告げることは全てを捨てる行為・・・それしか無いとはいえ、決して賢い選択とは言えない・・・
――――――それでもあたしは悠里が好きなんだ。悠里のためになら、あたしを・・・あたしの願いを犠牲にしたって構わない・・・
「悠里、聴いて――――」
そう言ってあたしは悠里の頭を抱え込み―――――
「んっ――――」
――――――チュッ・・・
その唇にあたしの唇を重ねた・・・
「好きだったわ、ずっと・・・」
「・・・んんっ!?」
悠里もこれには反応を示す・・・
「好きだった、けど・・・これでお別れ・・・」
そう言ってあたしは部屋から出る。そして扉越しに悠里に告げるため息を吸いこむ。
振れる扉は冷たい・・・これが最後か・・・あぁ、ヤダな・・・でも、あたしが望むのは悠里が「生きている」世界だから・・・
――――――だから、あたしは――――――
「悠里、私たちの村に岩畑の工場を誘致したのはあたしなの。役人になりたてで、地位が必要で、手柄が欲しかったの、害が村民に行くことを知っていて、それでも上を騙す口上とデータを捏造して、無理やり工場を建てたのよ。“あたしが”。」
――――唯、一人、アナタだけのために・・・アナタの“敵”になるわ。
悠里が“生きる”ために必要なのは“復讐”・・・なら、恨まれても・・・もう、結ばれることがなくっても、あたしは、悠里が“生きて”いてくれれば・・・それで、いい。
「なっ!?」
「わかった?どう?悠里、あたしを殺したくてしょうがないでしょ・・・?」
「そんな・・・ことって・・・」
「それが岩畑の言っていた“真実”。あたしがずっと黙っていた。できれば知られたくなかったけど。岩畑があそこまで言うのだもの。考えてみなさいよ。彼は「復讐相手がいない状況」を作るといって、あたしに銃口を向けたのよ。」
「―――――っ!!」
どうやら飲み込めたみたいね・・・
「それじゃあ・・・バイバイ。」
あたしはそれだけを告げてその場から走り出す――――
その途中、スマホから音声が流れる。
―――プレイヤー全員のミッション達成可否が確定しました。ただいまをもって、ゲームを終了いたします。今回のゲームクリアは三名、乙女座、天秤座、水瓶座のプレイヤーには盛大な拍手を・・・またのご参加をお待ちしております。
エピローグ
アイツを見つけ出すまで――――
唯の告白を聴かされて、呆然と立ち尽くしていると、いつの間にか俺は気を失わされ、ゲームは終了していた。
―――――ゲームのコストを支払ってもらいます。何をもらうかは、現実の世界に帰ったらすぐにわかるはず。
そんな俺がゲーム終了後に戻されたのは・・・
「・・・・・・な、なんだよ・・・これ・・・」
俺の視界には真っ青な空と、真っ黒な大地・・・この山の配置・・・まさか俺のいた村なのか・・・?
確かに村は公害でやられ、荒廃はしていたが・・・それが、完全に燃やされていた・・・
「・・・・・・っ、ふふっ・・・ははは・・・」
込み上げてきたのは笑い・・・このやり場のない感情に俺はどんな顔をすればいいのかわからなかった。
「ははは・・・これが、ゲームのコストってことかよ・・・」
これは、俺が悪かったのか・・・?
いや、こうなった元凶は・・・唯だ・・・
もうこの感情の行き先の正当性がどうかなんてわからなかった。それでも、誰かを恨まずにはいられなかったから・・・俺は・・・
唯をこの手で引っ叩くまでは立ち止まってなんていられない・・・待ってろ・・・
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栗原唯
あたしは山の中から双眼鏡で悠里が歩き出すのを確認する。
・・・まさか、村が全焼させられているとはね・・・もう村の再生はできない、あたしの願いはゲームのスキルでは叶わなかった・・・まぁ、最後の最後であたしの最大の願いは村から悠里になったのだから仕方がないのだろか・・・いいわ、罪滅ぼしはあたし自身の力でやり遂げるから・・・
あたしはコストとして悠里から半径20km以上離れることはできない、常に悠里に狙われるリスクがある距離間を強いられた。あたしの願いは悠里があたしを殺すために奔走し“生きる”こと。そのためにはあたしが死んではいけない。何が何でも生きて見せるその先に明るい未来などないとわかっていても―――――
――――コトッ
双眼鏡を置き、そっと唇に指を置く・・・ずっと一緒だったから、これからもずっと一緒だと思っていた・・・指の感触は悠里のモノではないと思うと、その唇は涙に濡れていた。
復讐の章 完
“生きる活力が湧かない人へ”
どーも、ユーキ生物です。
年内に間に合いました。まぁ、短いので当然と言えば当然ですよね・・・。
調子に乗って次は新年早々に投稿できたらなぁなんて思ってます。
(次の章の1話プロット確認中)・・・たぶん無理かな・・・かなりざっくり書いてあるので・・・
さて、「復讐の章」完結です。「復習」と何度誤って書いて、点検中に見つけて慌てたことか・・・もしかするとまだどこかに潜んでるかもしれませんね。
「復讐の章」なんて章タイトルにするもんだから前作の登場人物が主催に挑む話、という誤解を与えるかも、とヒヤヒヤしてましたが、大丈夫でしたかね・・・。
後書きでアレを書こう、と考えるのですが、いざ書こうとすると記憶がなくなりますね。まぁ、まだ物語は終わりませんし、どこかできっと思い出すと信じましょう。
さて、次回は新章です。章タイトルは「獣の章」・・・まぁ、ヤツが多かれ少なかれ中心になることは予想できますね。今後の章タイトルを含めると、最終章のタイトルとこの「獣」は誰の話かが分かりやすいですね。ご期待ください。
次回は1月5日投降予定です。