第六話 復讐
「···う、ぅぅぅ···」
「ーーーっ、はぁ、はぁ、はぁ···」
稲葉空海はもはや人の形を保てていなかった。なめろうとかの方が近いだろう。···それでも呻き声をあげているのは直志のスキルの効果だろう。
直志は稲葉を刻み疲れ肩で息をする、そして俺はそれを見ていることしかできなかったーーーその時ーーー
ーーーカシャン
いつの間にか俺と唯を繋いでいた手錠が外された。
―――ポーン
そして、俺のスマホから電子音が鳴る・・・その画面には「ミッションクリア」の文字。
「これで、悠里のミッションはクリアだね。」
「唯···手錠をしてたのか···」
「そうよ。悠里が直子さんをずっと見てるなら時間がもったいないじゃん。···でもこれであとは宝を探して上に行くだけだわ。」
「あ、あぁ、すまない。」
「······。」
何かを言いたそうに唯がこちらを見る···
「ーーー悪党は人ならざる物としてーー死ね。」
「ーーーーーー。」
その時、直志がスキルを解除したのか、稲葉だった物は動くことも音を発することもなくなった。
「待たせたね二人とも···それ、じゃあ···これか、ら···?」
血塗れの直志がこちらに駆け寄って来る···が、その顔には何やら疑問が残っていた。
「どうかしたか?直志さん?」
俺はもう隠す事もないだろうと直志を直志と呼ぶ。
「······いや、これから私はどうしたらいいのだろう···」
「···え?」
力なく呟く直志···いったい何があったのだろうか···
ーーーコッ、コッ、コッ、カチャカチャ···
「···手錠、もういいのですか?」
「あ、命さん···」
何処かへ行っていた命さんが戻って来て、床に落ちていた俺と唯を繋いでいた手錠を左手に取る。何かに使うのだろうか?
「命さん、どこ行ってたの?」
「···ごめんなさい唯さん、心配かけてしまいましたよね。少し気分が悪くなって···」
「そうだったんだ···もう平気?」
「···え、えぇ、何とか、ですが···あっ···」
ーーーフラッ
命さんの身体が俺の方へ傾くーーー
ーーートスッーーーカシャン、カシャン
「ーーーーなっ!?」
命さんを受け止めたと思ったら、俺の腕は身体の後ろで手錠をされていたーーー
「命さん!?」
「今の身のこなしーーー命さん、貴女は···」
俺と唯は咄嗟の事に何もできなかったーーー
そしてーーーーーー
ーーーーーーパンッ!!
「ーーーうっ!!···え?何で···?」
棒立ちだった直志の胸に真っ赤なバラが咲いたーーー
「アナタに用は無いの···」
硝煙の上がる銃を持つのは命さん···何なんだこの人はーーーー!?
「命さん、どうして···」
「···唯さん、黒川さん、あなた方は私に着いてきて下さい。」
そう言って命さんは歩き出すーーー
「俺達には用があるってことか···」
俺を拘束したのは発火のスキル封じってところだろう···
「唯、とりあえず従おう。行けば理由がわかるかもしれない。···間違っても抵抗はするなよ。」
「え、あ、う、うん。わかったわ。」
唯は銃を持っている。だが、それを撃たせてはいけない。俺が何とかしてやる、そう含んだ合図を唯に送る。
「・・・黒川さんの言う通りです。」
命さん、聞いていたか・・・
「特に黒川さんは、このまま付いて来れば、念願の岩畑さんのところへ行けるのですから。」
―――――!?
「い、今、何て・・・」
「岩畑さんのところへ連れて行くと・・・」
・・・どういうことだ?なぜ命さんが・・・明らかに罠だろうが、岩畑と対面できるのであれば、そこに飛び込む価値はある・・・
俺は誰にも悟られることの無い様、静かに、いつでも復讐ができるよう備えた。
―――――ガチャ
命さんが案内した部屋は証明が落とされ暗かった。そこには多くのモニターがあり、映し出される映像の灯りで机に座る人物と、その足元に縛られて寝かされている二人の人が確認できた。
「岩畑さん、や、約束通り、黒川悠里を拘束し、栗原唯と一緒に連れてきました。」
「そうですか。ご苦労様です。」
――――パンッ!!
響く銃声。岩畑は足元に縛り上げていた人を一人手に持つ拳銃で撃っていた。
―――ポーン
どこからか、電子音が鳴る――――
「あ、ありがとうございます。これで私は、ミッションクリアになりました。」
命さんはスマホを見て岩畑に言う。牡牛座の命さんのミッションは「重複星座を一人にする」というもの、つまりは縛り上げられていたのはその重複星座の人だったってことか・・・
そして、岩畑はそのままもう一人の縛り上げられた人にも銃を向け――――
――――パンッ!!
再びその銃が火を噴いた―――
「どうして・・・その人は何も殺さなくても・・・」
それを見ていた唯が思わずそう口にする・・・
「いや、僕のミッションは“12人中10人の死亡”だからね。人は多く死んでもらわないと。」
やはり、岩畑・・・他人なんてどうでもいいってことか・・・コイツは・・・俺達の村を滅ぼした時も同じ感覚だったのではと思うと怒りが込み上げてくる・・・。
「それじゃあ、泉さん。ご苦労様でした。」
岩畑は柔らかな顔で命さんにそう告げ、銃を向けた――――
――――パンッ!!
「え?・・・い、岩畑さん?」
腹部から血が噴き出し、膝を着く命さんも不思議そうにしている――――
「やあ、黒川悠里さん。僕は岩畑巧。君が会いたがっていた岩畑だよ。」
命さんのことはもう眼中にないのか、無視して俺に話しかける岩畑。
「命さんはどうして殺した・・・協力関係じゃなかったのか・・・?」
「あれ?僕のことが殺したくて飛び掛かってくるかと思ってたけど、黒川さん意外と冷静なんだ。」
「・・・そうだな。さすがに手錠をされてる状態じゃ怒りに身を任せても武装しているお前を殺せない、冷静にもなる。」
「なるほどね。」
あくまで俺は岩畑の掌の上、そんな上からな態度が鼻につく・・・
「君の質問だけど、簡単さ。彼女は僕が利用しているだけの関係だった、それだけ。」
「利用・・・?」
「そ。うーんどこから話そうか・・・そうだな・・・まずは僕のスキルからかな。」
そういうと岩畑は空の手を俺の前で開く。
次の瞬間、その手には黒光りする拳銃が握られていた――――
「――――!?」
「えっ!?今・・・どうして?」
俺も唯も驚きを露わにしてしまう。
「これが僕のスキル『創造』これは頭の中の設計図をあらゆる物理法則を無視して現実に作り出すスキル。まぁ、即完成する工場ってところかな。」
「兵器屋らしいスキルだな。」
「・・・良い皮肉だね。」
思わず挑発してしまう・・・あまり怒りを買うのは得策じゃないけど、悪態を吐かずにはいられなかった。
「このスキルで彼女のスマホに連絡を取るアプリを創って呼出して、監視カメラの記録を見る装置を作ってさ、彼女に見せたんだ。」
「待って、監視カメラの映像を見るのは命さんもアプリでできたはずよね・・・。」
「まぁね。でも見たい場面を探すことは容易じゃない。僕は視たい場面を簡単にする装置も作った。スマホの位置測位・・・まぁ、誰がどこにいるかが解かればプレイヤー同士の接触記録もわかるってこと。そしたらさ、あったんだよ。黒川さんが人を燃やしている場面が。」
・・・ゲーム開始時に会ったアイツのことか・・・
「教えてあげるよ。黒川さんが燃やした男の名は・・・泉 刻、泉命の結婚相手・・・旦那って言えばわかるかな?」
なっ―――!?
「そんな・・・夫婦でゲームに・・・?」
唯がゲームそのものに絶望する・・・
「後は簡単だったよ。『僕が君のミッションをクリアさせて、尚且つ、黒川悠里を最悪な形で殺してあげるから、彼を両手を拘束して連れて来て』そうたのんだら二つ返事だったよ。」
「・・・そういうことかよ・・・。」
「元々僕のミッションは多くの死者が必要なんだ。生かす訳がないだろ。」
当然の様に言いやがる・・・やはりコイツは自分の目的のためには他人の命などどうでもいいんだな・・・
「・・・それで?俺をわざわざ連れて来させて、どんな殺し方をするんだ?」
「君は僕のことを恨んでいるみたいだからね。もう一つ真実を教えて、絶望の中で殺してやろうと思ってね。」
「・・・真実?」
「まぁ、焦らず聴けば、おのずとわかるよ。その時君は今までの自分を後悔し、それを取り戻すことが不可能な状況に絶望して死ぬのさ。君の復讐劇は相手不在で幕を閉じる。」
・・・コイツ・・・いったい何を言って・・・?
「・・・それじゃあ、まずは、栗原唯を殺すところから始めよう――――」
岩畑はそういうと手に持つ拳銃を唯に向けた――――――
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栗原 唯
「ーーー悪党は人ならざる物としてーー死ね。」
直子さんだった人が人間なめろうの生命を絶つ―――
辺りには血液がまき散らされ、鉄の臭いが充満していた。これ、大気の酸素が血液と酸化してあたしたちが酸欠で死んだりしないわよね・・・?
そこからの直子さんは姿は返り血で真っ赤だったが、その精神は燃え尽きた灰の様に真っ白になっていた。
「······いや、これから私はどうしたらいいのだろう···」
・・・あぁ・・・そういうこと・・・
第六話
復讐
・・・この人は人生の全てを捧げた、生きる意味そのものだった復讐を果たしたところなんだ・・・この人はこれから何を求めて生きていけばいいのかわからなくなっているのね・・・
――――――それじゃあ、悠里は――――?
ふと、その考えにあたしは至る――――
悠里も岩畑を殺したら、こうなって・・・生きる意味を失ってしまうのだろうか・・・
私は抜け殻となった直子さんを見てそう思うのだった。
どーも、ユーキ生物です。
結論から言います。連続出張での執筆は進みませんでした。
昔は原稿をスマホで書いていたのですが、ここのところはずっとパソコンで書いていたので、スマホだと書きにくくて三分の一話程度しか書けませんでした。スマホを換えたのも原因かもしれません。“・・・”が打ち難いし、悠里・命は変換が出てこないし・・・やっぱパソコンですね。書き易い。
次回は二週間後、と言いたいところですけど、次回は「復讐の章」最終話ですけど、年明け一発目って締まらないので、できれば年内に投稿できるように頑張ります。
・・・はい、次回は「復讐の章」最終話です。7話完結にしないって宣いましたが、たまたま7話になってしまいました。
「最近後書きで物語に触れないな」と思うので、少しだけ、今回のスキルは「創造」「回復」「発火」「延命」「包囲」と感じで表せます。シンクロは「共感」ですし、「獣化」、今回はそんなところでしょうか・・・まぁ、もうスキルは全晒ししてるので出し惜しみすることもないですよね。「暗視」「不死」「複製」「視殺」「移相」まぁ、「だから?」って感じではありますが。
そんなことで、次回は2017年内に投稿ができるよう努力します。