第四話 もう一人の復讐者
「ゴガアッ!!」
俺が威嚇で出した炎を気にも留めず、獣は俺達に向かって飛び掛かる――――
「くっ―――!!」
――――――ブシャ!!ゴギッ!!
喉元に向かって飛び付いてきた獣に腕を差し出すと獣は俺の腕に噛み付き、噛み付いたところから血が噴き出し、骨が折れ・・・潰される様な音がする――――
「――――悠里っ!!」
唯が叫ぶが、あまり何を言っているかは頭に入って来ない――――腕も痛いのか熱いのかぬめぬめしてるのか、感覚がよくわからない・・・これが脳の防衛ってやつなのかな・・・
「ゴァッ!!」
獣は俺の腕を噛み切ろうと噛んだまま首を振り出した――――
「――――ぅ――――があああああああ!!」
牙で引き裂かれ、ようやく俺に噛まれているという痛みが伝わる――――これは、無理っ!!頭で考える前に叫びが出てきてしまうっ――――!!
――――――パァンッ!!
その時、どこからか銃声が聞こえ、獣の噛み付きが少し緩む――――
「君達っ!!走ってっ!!」
銃声の先には背の高い女性がいて俺達を呼ぶ―――
「悠里っ!!」
唯が俺を抱き留め背の高い女性の方へ俺を誘導する・・・そうか、俺、痛みで思考が・・・
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第四話
もう一人の復讐者
「――――はっ!!」
「悠里っ!!」
俺、そうか、痛みで気を失ってたのか・・・
「起きたみたいね。」
「・・・早いですね。これが唯さんのスキルですか・・・」
声がする方には気を失う前に見た背の高い女性、その長身に似合わず茶色いボブの髪型にフリルの多いパステル調の服装、似合わない・・・
そしてもう一人、こちらは俺らより少し年上だろうか・・・落ち着いた、というよりオドオドした態度、黒い髪を腰まで伸ばした女性らしい女性・・・うん。色気がある。唯も、背の高い女性もフォルムに凹凸が少ないから、この女性は目の保養になる・・・うん。
「・・・ここは・・・さっきの獣は・・・」
「悠里、大丈夫よ。」
起こした俺の身体を唯が優しく押し、再び横たえる。
「唯・・・」
「こちらの直子さんが麻酔銃を獣に撃ってくれたから、その隙に逃げてきたの。ここはあたしの解錠アプリがないと入れない部屋だから、獣に襲われる心配はないわ。」
「直子さん・・・?」
そんな名前のプレイヤーいたか?
まぁ、助けてもらったんだから悪い人ではないのか・・・あまりことを荒立てない方がいいのかもな・・・
「それで、こちらが泉命さん。彼女のアプリであたしたちが危険だってわかって助けに来てくれたんだって。」
「アプリで?」
「はい・・・えっと、私のアプリで、定点カメラの映像を見ることが、できます。」
「定点カメラ・・・?」
「所々にあったじゃない。」
「そいうや、ゲームが始まった部屋とかにもあったな。」
「はい、そのカメラの映像を、すべてではないのですが、見ることができます。」
「へぇ、そんな便利なアプリ・・・結構高かったんじゃない?」
「わ、私のスキルはそんなに役に立たないものだでしたから・・・」
これはアプリでそこまでできるとは・・・これはいよいよ誰に対しても油断できないな・・・
「ちなみに私のスキルも大したものじゃないから、期待しないでね。」
直子さんが飄々と告げる。
「それはさておき、アナタ達の星座を教えてもらってもいいかしら?」
続けて直子さんが問う。・・・何かミッションに関係しているのだろうか・・・
「そんなに警戒しないで。私は獅子座の人に用があるだけだから。」
「獅子座・・・?」
「それなら関係ないわね。あたしは乙女座だし、悠里も天秤座だから。」
唯が答える。・・・そんなに無警戒で言ってもいいものなのか・・・?
「よっと。」
俺は立ち上がる。
「悠里、もう少し寝ていた方が・・・」
「もう平気。それより、直子さん。少し二人で話、いいか?」
俺は直子さんを呼び出す。
部屋の隅へ直子さんを呼び出すが・・・先に直子さんが口火を切る――――
「何の御用かしら?連続工場放火魔さん?」
・・・コイツ・・・
「プレイヤー情報のところにある経歴・・・全員分のそれが見られるアプリってところか。」
「ご明察。面白いわよ。・・・このゲームの参加者の経歴・・・」
「それは気になるところだが、先に確認しなきゃならないことがあるからな。」
妖艶な笑みを浮かべる直子さんを尻目に俺は呼び出した目的を進める。
「性別を偽って···お前の目的は何だ?―――――宮内直志。」
俺は直子さんの本当の名を使って追い詰める。
「・・・へぇ、わかる人がいたとは・・・しかも本名まで・・・」
「まぁ、本名と似た偽名使ってればそりゃわかるさ。」
直志は少しだけ声のトーンを落として続ける・・・これでも十分女性で通じる声してやがる・・・
「目的でしたっけ?さっき言った通りです。獅子座の男を殺すこと・・・いえ、殺すよりも惨く、生まれたことを後悔させること。とでも言えばよいでしょうか・・・。」
「獅子座・・・稲葉空海といったな。」
「へぇ、そんな名前だったんですね。」
「・・・?」
コイツ、名前も知らずにどうして獅子座にって・・・まぁ、でも直志・・・いや、唯の前では直子で通そう。直子は目的がハッキリしているし、何より助けてもらった恩もある。ここはある程度信頼関係を結んでおこうか。
「まぁ、お前の目的はわかった。俺の用件はそれだけだ。世話掛けたな『直子さん』。」
「・・・いいえ。気にしてませんよ。」
これは、俺の意図を受け取ってくれたということだろうか。
そう言い放って。俺は唯と命さんの元へ戻った。
「ところで、直子さんはどうして獅子座を探してるの?」
ニアミスな話題を唯が直志に振る。
「・・・あまりいい話じゃないわよ。」
なんていうか、女装してるってわかってると、その口調、笑えてくるな。
そんな不謹慎なことを想う中、直志は語りだす。
「私、産婦人科医なの。」
「へぇ」
「そうだったんですか。」
「私は生命が生まれることをアシストすることを生業としています。生命誕生の瞬間は何物にも代え難いほどに尊いの。でもね、世の中には酷い人もいるの。」
もしかすると・・・このゲームに参加する前、世間を騒がせていた犯罪ブームが起こっていたな・・・確かあれは・・・
「妊婦強姦殺人。恐らくみんなも一度は聴いたことがあるはず。病院に忍び込んでは出産前の妊婦を犯し、最後には二人分の命を奪う卑劣極まりない犯罪・・・」
俺はようやく合点がいった・・・直志は――――
「私のアプリで妊婦強姦殺人をした人がこのゲームに紛れているのは確認したの。」
「それが、獅子座・・・」
「そうよ。だから私は獅子座を探し出して、殺すよりも酷い報いを受けさせるの。・・・奪われた尊い生命の復讐・・・“復讐”が私の“願い”よ。」
なんだ。直志は俺と同類だったんじゃないか・・・
「そういうことだから、獅子座の稲葉空海がいたら殺さないで私に譲ってね。」
直子の顔はおちゃらけていたが、それは鬼気迫る何かを感じさせる言葉だった――――
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宮内直志
「まぁ、お前の目的はわかった。俺の用件はそれだけだ。世話掛けたな『直子さん』。」
「・・・いいえ。気にしてませんよ。」
悠里さんはそう言うと唯さんと命さんの方へ戻って行った。
彼は私の話を聞いて何を思ったのだろう・・・何を思えばあんなにも憎悪に染まった空気を発せたのだろうか・・・彼もあるいは私と同じで誰かに復讐をしようとしているのだろうか・・・それならば納得だ。あのすべてを焼き払おうという憎悪・・・いや、私も、彼も憎悪が膨れ上がってある種のやる気・・・活力になっている。だからこそのゲームへの積極的な参加。感謝をしているから、このプレイヤーをめぐり合わせてくれたことを。
復讐者・・・と読みたくなるのは私だけでしょうか・・・前作「戦士達(以下略)」ではその作品の影響をそれなりに色濃く受けてます。なんせ指輪争奪戦編が超好きだったので・・・。
まぁ、わからない人を置いてけぼりにする話題はこの辺にして・・・どーも、ユーキ生物です。今回は隔週ではなく一週間後に投稿できました。毎回できればいいのですが・・・私としても話を早く進めたいので。ただ、この投稿後は三週連続で仕事で出張がありまして・・・不安定になります。移動中にスマホで書ければがっつり書くのでプラスに働くこともありますが・・・出張の行き先はどれも違いますが一つは北関東から兵庫県という片道5~6時間の旅もあるので、頑張って有効活用しようと企ててます。
現在5話を三分の一ほど書いたところなので確定できません。ひとまず2週間後を予定し、余裕があれば次々回分を一週間で投稿します。
ということで、次回は12月8日㈮投稿予定です。
・・・・・・今回の後書き作品に何も触れてないなぁ・・・
・・・ということで次回のサブタイを告げてそれっぽくします。
次回 Desire Game -2nd players- 第五話「私はアナタを死なせない」・・・復讐の花が咲き、そして――――