第四話 神を裂く時、彼女は初めて満たされる
――――キーンコーンカーンコーン・・・
「時間か・・・よし、それじゃあ、今日はここまで。前回からやったこの過渡応答の単元はとりあえずここまでだから、忘れる前にテキストの練習問題をやっといた方がいい。来年は過渡解析とかで実際に使うしな。それじゃ。」
教室の段上で教員がテキストとノートパソコンを閉じ、退出する。・・・すると教室がザワつき始める。
「やべーよ。俺の脳内、単振動を理解できてないのに過渡系なんてできるわけねぇよ・・・」
「転科届け出した方がいいぞ。」
「そうか・・・じゃあ電気工学科に・・・」
「対して状況変わんねぇよ。」
「・・・・・・・・・。」
「『じゃあ、何時の話か?―――――t2でしょ!!』」
「キャハハ・・・新ネタ、ウケるwww」
「私的には『プログラミングなんて言葉なんだ、こんなものやれば誰だってできる』が一番キたかな?」
「・・・あぁ、西進予備塾のヤツの。」
「・・・・・・・・・。」
僕はこの喧噪が苦手だ。というか、この高校生とも何とも言えないノリにはついて行けない。別に下に見てるわけじゃないけど、彼らの様な冗談が出てこない。融通が利かないのかしら。まぁ、とにかく不愛想で、そのクセ成績だけは良いモノだから、彼らからは高みの見物をしている、お高くとまっているなんて思われているらしい・・・もうこれはダメね、孤立確定・・・。卒業までこのままひっそりと・・・。
「神崎さん。」
「・・・ぇ、僕?」
「そう、神崎さんに話しかけたの。」
「な、何かしら・・・えっと、刀水橋さん・・・。」
初めて話すクラスメイトで、名前が特徴的だったから何とか出てきた。危なかった。
「皆みたいにトトって呼んでよ。」
「トト?」
言われてみれば彼女は他のクラスメイトからそう呼ばれていたのを思い出す。いきなり愛称を強要してくる距離感、苦手なノリね・・・。
「そ、トト。」
「TOT――――――」
「―――――ストーップ!!その発音はダメ、色々と、ダメ、絶対。」
「O・・・あ、ま、まぁ、そうよね。トト。」
「フフフッ・・・何て言うか、神崎さんってそういうの、嫌いかと思ってた。」
「嫌いなんかじゃないわ・・・ただ、苦手なだけ。」
「なーんか、イイネ、カザミちゃん。」
「・・・えっ!? トト?ソレは僕のこと!?」
「うん、神崎満だから、カザミちゃん。」
「文字数変わんないし、満ちゃんでいいんじゃ・・・」
「あ、それでね、カザミちゃん。さっきの過渡応答の話だけど・・・この回路の場合だと、こういう応答曲線が作れると思ったんだけど、どう思う?」
「え?こんな回路、教科書にあったっけ?」
「ううん、さっきふと思いついて書いてみたの、でも固定観念とかで見落としがあったらヤだし・・・カザミちゃんにも確かめて欲しくて。」
さっきの軽いノリは何処へやら、そこからは真面目な話に入っていき―――――
「こんな回路が思いつくなんてトトはすごいね。」
「そんなことないよ。カザミちゃんが言った通り、減衰のこと見落としてたし・・・」
僕とトトはお互いを高め合える関係となり――――
「カザミちゃん、テスト終わったし、どっか遊び行こうよ。」
「え・・・う、うん・・・いいけど、どこ行くの?」
徐々に学業以外でも交流するようになっていき――――
「あ、トトの今日のお弁当美味しそうね。」
「食べる?はい、あーん。」
「あーん・・・んむんむ・・・あ、美味しい。」
「じゃあ、代わりにカザミちゃんの出汁巻きちょうだい。あーん。」
「も、もうっ・・・取引後の条件は卑怯よ。・・・まぁ、いいけど。」
「んーっ!!アタシ、カザミちゃんの出汁巻き超好きなんだ。毎日食べたいくらい。」
「ま、毎日っ!?・・・トト、それって・・・」
「え?あ、プロポーズとかじゃないわよー。アタシが稼ぐから嫁にって思わなくないけど、カザミちゃんもバリバリ開発とかしたいだろうし、向いてるもんね。」
「え?あ、そうよね。」
「そーよ。お互い家事ができて主夫やってくれる相手見つけないとだから苦労しそうね。」
気付けばトトとは親友と呼べるほど、近しい存在になっていた。
―――――――――――――ただ、僕には親友以上の感情も芽生えてしまっていた。
僕はこの想いを告げるべきか、否か・・・・・・恥ずべきこととは思いはしないが、世間では同性愛が一般的でないこともわかっている。トトがそれを受けてくれるかは全くの予想がつかなかった。
「告げてしまったら、もう元の関係には戻れない・・・ただの男女関係で告白の方がまだマシよ・・・もしトトが同性愛に嫌悪感を持っていたらと思うと・・・気まずい、じゃすまないでしょうし・・・」
悶々とする毎日・・・
「僕は思春期かっ!!」
・・・まぁ、思春期なんだけど。
そして、僕は決断する―――――
「トトに―――――告白しよう。」
恐れる気持ちはあるが、先へ進まなければ何も得られない。そう思い僕は――――――
―――――
―――
―
「カザミちゃん、それで、話って?」
「・・・・・・トト、いえ・・・こういう時はちゃんと呼ぶべきよね・・・刀水橋 永遠さん・・・僕は、アナタのことが、好きです。親友としてではなく、一般的に男女間で用いられる意味で、好きです。永遠さんも同じ気持ちなら、僕と、親友以上の関係になって欲しいです。」
告げてしまった。トト・・・永遠は呆然としている・・・まぁ、それもそうか。
「その、カザミちゃん、あの・・・いきなり、予想外だったから・・・カザミちゃんの気持ちはわかったんだけど・・・ちょっと思考の整理が追いつかない、から・・・少し、気持ちを整理する時間をくれないかな・・・」
「う、うん。・・・そ、そうだよね。いきなりすぎるよね・・・わかったわ。また、落ち着いたら答えを聴かせて。」
答えを貰えなくて慌てつつも即断されなくてホッとする。
「すぐに答えられなくてゴメン、でも、必ず解答はするから・・・だから、少しだけ、待ってて・・・」
そう言い残し、トトはその場を去る・・・
そして、そのまま、彼女の解答を聴くことはできなくなった。
トトは・・・刀水橋永遠は交通事故で亡くなった。
何の変哲も、悪意も、陰謀もない、加害者も被害者も不注意のただの事故。再生不能な程にグチャグチャになってしまうほどの・・・とはいえ、当時の僕にそれをどうこうする技術は持ち合わせてなどいなかったけど・・・
・・・・・・僕は後悔“も”した。僕が告白を踏みとどまっていればトトは死ぬ運命ではなかったのかもしれないと・・・だけど、告白をしなければトトの答えを聴くことはできない・・・・・・僕はトトの解答を聴きたかった。
「悔やんだところで、トトが死んだ事実は変わらない・・・なら、どうする・・・」
そうだよ。死んだら終わりじゃないんだ。その後、どうするかが大事なのよ―――――――
―――――
―――
―
僕はまず考えるところから始めた。それまでのトトとの関係を整理し、心理学を徹底的に学び、二択の解答を推測しようとした。
だけど、どこまで考えても解答に辿り着くことはできなかった。
何が足りない?
演算の回数か?試行回数を増やすには・・・?
「とにかく考えることだ・・・」
そうして私は考えるために次世代AIを開発した。データの蓄積から推測演算を人間の比ではない回数を行えるように。
しかし、解答はわからなかった。
「ダメだ・・・ハードの容量を増やさないと、予測演算を増やさなきゃ・・・」
資金も必要なことに気付き、僕は人間養殖を始めた。ただ、AIが導き出した最も稼げる方法を取ったに過ぎない。結果それは大成功となり、莫大な資金を得るだけに留まらず、一定の権力を得るところにまで至った。全てAIに任せるだけでよかった。養殖場の雇用者も全てAIに任せた。僕が何とかしようと一日奔走する仕事量をAIは数秒でこなすのだから。
その間に僕は考える。並行して最新の演算処理装置が数えきれないほどのシュミレーションをするが、解答に辿り着けないのだから、何が足りないのか・・・
やはり人間の思考を考えるには、人間の思考サンプルを多く取る必要がある・・・・・・
「そうして、このゲームを僕は始めた。・・・・・・ただ、彼女の解答を知るために。」
ボクの目の前で神崎満はその過去を語る。このゲームの根幹たる彼女は、一点だけを見つめる。世界の摂理を歪めることにも目を向けることはなく、ただ、解答を知ることだけを見る。
ボクはそんな彼女を非常識だと、頭のネジの外れた人であるとは思ったが、否定などできなかった。
「・・・『創造』」
そしてボクはスキルで人型兵器を創った。
「ボクにも協力させて欲しい。ハード方面で役に立てるはず―――――」
神崎満の願いが特別だったから、協力を申し出た訳じゃない。
彼女の願いに対する姿勢に胸を撃たれたから、協力をしようと思ったのだ。
彼女の願いは人を創る、心を創る、そういう類で達成される。それは摂理にも道徳にも反する、神への反逆ともいえるだろう。それでも叶えたい願いのために、努力して、知恵を絞って、足りないものを補って・・・・・・とにかく諦めない姿勢に胸を撃たれたのだ。
彼女の願いが正しいか、間違っているかではない。人には欲がある。欲があるから願う。欲があること、願うことは当たり前だ。それに善悪を付けようなんて方がナンセンスだろう。
―――――だが、願いに対して何もしないこと、叶わぬ願いだからといって、“諦め”たり、“祈る”ことしないことは“悪”だ。
欲するが、努力しない、他人任せにする、諦める。そんなことはあまりにも不躾で、道理などない。
だからボクは、健気でひたむきな彼女に、ボクの技術を捧げたいと思ったのだ。
「―――――キミの神殺し、ボクにもその片棒を担がせてくれ」
第四話
神を裂く時、彼女は初めて満たされる
ゲームが終了し、ボクは満の研究施設で思考サンプルを見る。
特に、ボクが参加した全員犯罪者のゲームはお気に入りだ。ボクがいるからとかじゃない。参加者がボクの好みなんだ。
だって、彼らはルールに反する犯罪者だけど、誰一人として願いを諦めない行動を起こしているのだから。
「さぁ、彼女を助けるために、今日は何を創ろうか・・・」
―――――叶えたい願いのある全ての人へ―――――
Desire Game -2nd players-
永遠の章 完
人間の思考サンプルとして連れ去られ、建物に軟禁され、ミッションを強要されるゲームには―――――
どうしても叶えたい願いを近くまで叶えてくれる能力を貰えるゲームは―――――
極限状態で人間の本質が露呈するゲームは―――――
何度も何度も繰り返され、死体の山を作り上げてきたゲームは―――――
―――――――――――最終幕を迎える。
Desire Game -Last Players-
最期の章
鋭意製作中
―――――――――――彼女達が辿り着いく解答とは
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
Desire Game -2nd Players- はこれにて完結となります。
正直なところ本作はプロット然り、本文然り、もう少し時間をかけて作り込みたかった感は否めませんが・・・この反省は次作以降に反映させられるように精進いたします。
そして最終話の投稿が遅くなり申し訳ありません。もともとこの最終話である満と永遠の話は短編でも成り立つかと思いゴリゴリに内容を詰めまくって一つの物語になってました。なってましたが、書いている内に迷子になり、結果、要点を抜粋し、現在の形になりました。永遠がいなくなった後とかが妙にスッキリしてるのはその所為です。
さて、後書き冒頭に「Desire Gameシリーズ」の次作予告を入れましたが、例の如く次回はDesire Gameシリーズではありません。次作は明るい話を書いて、その間にネガティブ感情を溜めておきます。ですので、シリーズ的には1年は余裕で開くかと思われます。前回もそうですが「鋭意製作中」は、ほぼほぼ嘘です。大筋すら不完全状態です。確定している章も「最期」ともう一つくらいです。あとは断片的に書き殴ってあって、これからまとめていく感じです。
ちなみにユーキ生物的次回作はどこかで何度か書きましたが、ラブコメです。タイトルはまだブラッシュアップしてませんが「70歳童貞、定年退職して余生で青春するために現代転生。」を叩き台として設定しました。圧倒的“(仮)”です。まぁ、とはいえ大体こんな感じです。流行りを詰め込んだ様なタイトルですが、全力を注ぎますので、乞うご期待。
それでは、また次作でお会いしましょう。
次作は来春投稿を目指し鋭意製作中です。
2019/5/16追記
申し訳ありません。思っていた様に時間が取れないことと、当初の想定以上のボリュームになり春に投稿開始ができそうにありません。夏・・・の終わりか秋初めくらいの投稿になりそうです。
2019/9/8追記
次回作の投稿日を2019/10/12に決定しました。Desire Gmae -2nd-の最終話投稿丸一年でキリがいいので。一応既にプロローグは書きあがっております。あとは第一部を書けるか・・・
無理なく追い込みます。次回作もよろしくお願い致します。




