第四話 世界と神を憎む
―――――パァン!!
即死スキルを持つ天城を殺し、50ポイントを獲得したオレは、作戦を立て、実行した刻と自然とハイタッチを交わしていた。
――――でかしたっ!!
「――――――!?」
この感じを、オレは、知っている?
何だこの感じ・・・無理やり忘れ去っていたはずの記憶が・・・湧いて出てきやがる・・・。
第四話
世界と神を憎む
別に誰も憎んじゃいなかった。例えオレに賢い頭がなくたって、腕っぷしが強くなんかなくたって・・・
自分が特別な人間じゃないことくらいガキの頃からわかってた。勉強ができたわけでもねぇし、運動ができたわけでもねぇ。裕福な家庭に生まれたわけでもねぇし、一般的な教育しか受けてこなかったオレに特技らしいものはなかった。でも別にオレは卑屈になんてならなかった。底層区画生活でないだけで十分だし、学生の頃に努力しなかったオレは就職に苦労はしたけど、ロクな学校出てねぇオレの給料なんてたかが知れていたけど、それでもよかった・・・そんなオレでも愛してくれる女がいたから・・・
その女の名は“なずな”就職した工場の事務員だった。美人っちゃ美人だが、周囲と比べて特筆するほどではないが、更に特筆するモノのないオレにはもったいない女だ。でも、特に目立たないオレをどう言う訳か気に入ってくれたらしい。
特にドラマみたいな波乱の恋愛をすることもなく、オレとなずなは結婚した。周りに話をしてもつまらんとか言われるようななるべくしてなった恋人関係、夫婦関係。薄給のオレらだから贅沢なんてできなかったが・・・
・・・それでも、幸せだと感じるには、十分だった。十分すぎるほど、オレは・・・オレ達は満たされていた。
そんな折り、オレ達に訪れたある知らせ―――――
「に・・・妊娠っ!?ホントかっ!?なずなっ!?」
「・・・はい、空海さん。」
妻なずなの妊娠の知らせ――――
「――――でかしたっ!!よくやった!!なずなっ!!」
「・・・えっ!?」
妊娠することでなずなは仕事ができなくなり、食い扶持が増えるということはその分家計を圧迫するからと、なずなは申し訳なさそうに言っていたが、そんなことは気になんてなるはずもなかった。
オレはそんななずなの不安を払拭しようと身を粉にして働いた。別に出来高制とかじゃなかったが、一児の父として、家庭を持つ者としての矜持がそうさせた。
「・・・え?オレが班長ですか?」
なずなが出産を控えて入院した頃、そんな姿勢が評価されたのか、オレは初めて末端ながらも役職というものを貰った・・・これからも真面目にやっていこう。オレみたいのがなれるかはわからないけど、もっと上の役職を貰って、その手当でなずなと生まれてくる子に美味いものを食わしてやりたいと願った。子に狩った獲物を分け与える野生動物の気持ちが少しわかった気がしていた。人間も結局は獣と大差ねぇんだと・・・。
―――――そんな時だった。なずなが病院に忍び込んだ強姦殺人魔に、お腹の子諸共殺されたという訃報を聴いたのは
なぜ?
オレが何をした?なずなが何をした?腹の子が何をした?
この疑問がわからないのはオレが馬鹿だからか?
そんなわけあるはずない。ここは底層区画じゃねぇんだ。こんなの普通じゃない・・・
「・・・なんでオレ達だけ・・・なんでだよ・・・そんなのってねぇよ・・・なんでだよ・・・オレ達は間違ってなんかないのに・・・そんなのってねぇよ・・・どうして、オレ達なんだよ・・・なんで他の奴らはのうのうと生きてるんだよっ!!」
誰が悪い?なずなを殺したヤツ?ソイツは当然だ。だが、そうじゃない。世界で何十億という人がいる中で、何一つ悪いことをしていないなずなを被害者として選んだ運命が許せない。もし神がいるのならオレはなぜなずなが死ななきゃいけないのか問いただすだろう。そんな運命にした神を殺すだろう。
こんな運命を創った神が憎かった・・・だけど、そんないるかいないかわからない存在を憎むことの不毛さはわかっていた・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・そうだ。他の奴等もオレ達と同じ目にあえばいい・・・・・・いや、オレが、同じ目に合わせてやるっ!!・・・・・・こんなクソッタレな世界、オレが絶望に落としてやるっ!!
それだけが、オレの、この理不尽に対する憤りの行き場だと――――
―――――――そうしてオレは、妊婦強姦殺人魔となった―――。
しかしオレの復讐劇は数年で途絶えた。警察に捕らえられた。
机と椅子だけの取調室でオレは開口一番に正当性を訴えた。
「オレは、やられたことをやり返しただけなのに・・・それがどうして悪なんだ?」
「被害者が加害者になっていい道理なんてないんだ。」
取り調べをする警官はそんなことをいう。
「じゃあ、被害者はどうすればいいんだ?」
「そのための警察・裁判だろう。」
彼は何を言っているのだろうか?
「・・・裁判で勝てば、なずなは・・・殺された者は返ってくるのか?」
「それは・・・」
やはりそうだ。コイツは・・・・コイツは・・・っ!!
「テメェは被害にあってねぇから他人事なんだろっ!!?だったらいいぜっ!!テメェの家族を犯し殺してやるっ!!!!」
――――――ダンッ!!
警官は強く机を叩く――――
「それでもっ!!」
警官は何かを我慢するように歯を喰いしばり叫ぶ――――
「それでもっ、お前の仕出かした事は、人として許されないことだっ!!」
・・・あぁ・・・そうか、この警官もわかっているんだ。この社会の仕組み、亡くなった人は返って来ないのに、殺人犯は殺してからしか殺人犯にならないことを・・・
オレはその時わかった。オレの憎むべき対象が・・・
この理不尽な社会そのものだ・・・
・・・あーあ・・・人間なんてメンドクセェモン・・・やめちまいてぇ・・・
どうしてこの泉夫妻の前で、んなこと思い出してんだか・・・いや、でも、こいつらも、こんなゲームに参加させられて・・・あの時のオレと、少しは同じなのかもな・・・。
我ながら単純とは思ったが、そう思うとコイツらに少し親近感が沸いた。
「お前ら、災難だったな。こんな理不尽に巻き込まれて・・・」
ふと、刻にそんなことを言っていた。
「ハハハ・・・この程度、私は理不尽とは思いませんよ。」
「・・・・・・は?」
「私はもうとっくに理不尽の掌の上で踊ってますから・・・」
コイツ・・・何を言って・・・
「私、あと数か月なんです。生命。」
「・・・は?」
「命と結婚して、子を授かったと思ったら、余命を宣告される。幸福を一瞬だけ嘗めさせてからの絶望。ハハ…笑えますよね。この子が生まれる頃には私はもう死んでるんですよ。」
おいおい・・・コイツ・・・本当にオレと大して変わらない・・・いや、それよりも酷いんじゃねぇか・・・家族を護っていこうと思って、護れなかったオレよりも、そう思って、アナタは護ることができませんと宣言される刻の方が・・・しかも・・・
「ハハハ・・・余命宣告なんかじゃなくて、いっそのこと殺してくれればよかった・・・」
・・・刻はそれを背負って余命を生きなきゃならないんだから・・・
刻、確か詐欺師だったよな・・・オレにはわかる。コイツの気持ちが・・・きっとオレと同じはず。
“どうして自分だけこんな目に”
そう思ったに違いない。自分だけ喜んだ矢先に絶望の言葉を投げかけられて、その喜びが絶望の大きさを大きくした・・・だから・・・他の人がのうのうと生きているのが、喜びを喜びとして感じている人が、絶望をただの絶望として味わっている人が、そして、その運命が、許せないんだろう。だから言葉で世界の人を絶望に落としてやろうとしたのだろう。
それがわかったオレは、休憩中に刻にオレの理不尽に対する怒りを話し、刻の話も聴いた。
「・・・へっ、お互いロクでもねぇ人生だったなぁ!?」
「ハハハ・・・まったくですね。」
命が不幸自慢大会に呆れて寝てからも、それは続いた。
Another View
黒川悠里
・・・唯が殺された・・・それは俺のこのゲームでのクリア不可と同義である・・・もういい、誰がやったかとかそんなことは・・・目に映る全員を殺せばそれでいい。岩畑もそれで殺せるし、何よりそうすれば平等だ。俺だけじゃなくなる。そうだ、そうしよう。
「――――――――」
「――――――――」
ちょうどいい、何やら男の話し声が聞こえる・・・燃やし尽くしてやる・・・。
俺は話し声のする方へ歩を進めた。
どーも、ユーキ生物です。
過去編でした。私は小中学校くらいの頃、過去編ってあまり好きじゃなかったんですよね。話がどんどん展開していく方が好みでした。もちろん最近は過去とか背景が物語を厚くすると理解しているので、私も過去編は気を遣ってます。そういう意味でDesire Gameは書き易いです。願いに背景は付き物ですので自然と過去を考えるようになります。
2ndのプレイヤーは全員が「悪」です。ですが、空海や刻の様にそれぞれの中で筋書きがあります。本編中で語る予定なのであまり出過ぎたことはここでは書けませんが、「悪」と「願い」には関連があるのが2ndの主題の一つです。「悪」とは何か、最終章で「――――は悪だ。」という私なりの解答をします(一つとは限りませんが・・・)それまで期間がありますし、よろしければそれまで考えてみてはいかがでしょうかみてはいかがでしょうか?
ただし、よいこはマネしちゃ駄目ですよ。この物語はフィクションですので。
次回は2月16日投稿予定です。




