第三話 VS 100ポイントの即死スキル
「―――――へぇ、『獣化』のスキルは70ポイントもしたんですね。」
オレを脅して共闘関係を結んだコイツ・・・泉刻とかいう男はオレのスマホを勝手に弄っては、んなことを言いやがった。
「まぁ、オレより高ぇポイントのスキルのヤツもいるみてぇだがな・・・」
・・・オレの生命は預かった。でも攻撃力を持たないから他のプレイヤーへの攻撃はオレにしろ。んな理屈が通るとは・・・
――――でも、ハッタリじゃねぇんだよな。
協力協定とやらを結ぶ時、コイツはスキルを証明するために自らの腕をつねった。その痛みは何もしていないオレの腕にも発生してマジでコイツのスキルでオレは死にかねないことを見せつけられた・・・。それをされちゃあ、オレはコイツに手が出せない。あぁ・・・イラつく。
社会でも理不尽に叩きのめされ、怒りをぶつければルールに絡め捕られ・・・このゲームでもコイツの力に屈して雁字搦めなのか・・・
「・・・・・・。」
刻はオレのスマホと自分のスマホを交互に見る――――見たからって何になるわけでもねぇのに・・・
「命、ちょっと・・・」
スマホを見比べて何かを思ったのか、刻は連れの寡黙な女、泉命を呼んだ。
「・・・・・・ズズズ。」
手持無沙汰になったオレは今待機している部屋に置かれていた缶コーヒーを啜る。うん。甘ぇ、MAッ缶と呼ぶこの缶コーヒー、いや、練乳と砂糖の混ぜ物コーヒー風味付の飲み物はオレの喉に絡みつく。うん、たまんねぇ。
「空海さんも、他人事じゃないんですから。」
刻がオレを呼ぶ。なんだ、オレもかよ。
「あいよ。・・・で?オレは何を見ればいいんだ?」
「ええ、今から説明します。まず、空海さんのミッションは『ゴールアプリの取得』これは私としてもクリアしておくべきでしょう。ゲーム終了時、空海さんがミッションクリアしていない場合、私がどうなるかわかりませんからね。私も命がちゃんと元の生活に戻ったことを見届けるという目的がありますから、拾える命を拾わないつもりはありません。」
そういう刻の目には決意が宿っていた・・・オレもこんな目でいられたら、どれだけ良かったか。
「と、刻君、『ゴールアプリ』って?私のスマホだとそんなアプリ、こ、交換できなかったけど・・・」
「うん。『ゴールアプリ』は空海さんのスマホしか表示されていないみたいだね。」
「そ、そうなんだ。」
「んで?オレらは何をすりゃいんだ?」
コイツ、色々見てんだな・・・とりあえずコイツのオツムはオレにはない良いモン持ってるみてぇだし、任せてみっか。逆らおうと、自由を求めるから雁字搦めにイラつくんだろうし・・・
「空海さんのミッション達成のために、他のプレイヤーを殺して回りましょうか。」
「・・・いいのか?」
「うーん。いいも何もそれしかないんですよ。私は空海さんが生存していることがミッションですし、命も重複星座というのがわからないことには行動できませんし、結局は重複星座を殺せばいいのですから・・・」
「・・・なるほど。」
コイツ頭いいな。
「次に殺す優先順位です。幸いにもこの三台のスマホは足りない情報を補い合ってます。方針はかなり立てやすいです。・・・整理しますと、まず空海さんに必要なポイントは残り81、そして現在フィールドにあるポイントは我々のポイントを抜くと、25・25・50・10・40の150ポイント・・・つまりは70ポイントを失った時点でクリア条件に私と命のポイントが必要になり、私は空海さんを殺さなくてはならなくなります。」
おいおい・・・思ったよりもヤベェ状況じゃねぇか・・・
「まずこの50ポイントの人、この人のポイントを逃したらクリアは絶望的だと思って下さい。まずは、この人を仕留めに行きます。」
「50ポイントを持ってるってことは・・・」
「も、もともとのポイントは100・・・こ、この人、『天城純夜』・・・」
「お、おう・・・」
命の方がスマホを見せつつ話す。あんま喋らねぇからびっくりするな。
「命のアプリの一つ、『覗き見アプリ』・・・同じフロアにいるプレイヤーのスマホの画面を覗き見できる。これと組み合わせることで、どこにどんなスキルを持っている人がいるのかがわかる。」
オレは、見せられたスマホにくぎ付けになってしまう。
「・・・と、刻・・・お前、マジでコイツを殺ろうってのか?」
「えぇ、確かにゲーム序盤にラスボスを倒しに行くようなものですが、この蠍座さえ超えれば後はかなり楽になります。どの道この人を避けて通るのは至難の道ですから。ここは命を張るべき場面かと・・・。」
刻・・・コイツ、やっぱ頭イってやがる・・・
俺の瞳に移った文字・・・100ポイントのスキル・・・『視線での殺害』・・・ってなんだよコレ!?勝てんのか!?手も足も出ねえかもしれねぇぞ・・・!?
「それに、勝ち筋はちゃんとあります。この蠍座の天城は私達を即死にできるが十中八九即死にしないはずです。」
「・・・なんだよその根拠?」
「アナタにも見えているでしょう。天城のプレイヤー情報をよく観て下さい。」
「んん・・・?」
オレは命のスマホに映し出された情報をもう一度見直す。
名前 :天城 純夜
星座 :蠍座
願い :滅亡
経歴 :テロリスト
スキル :視線での殺害(100)
ミッション :プレイヤー全員の連絡先の取得
残りポイント:0
テロリスト・・・チートみてぇなスキルしてやがる・・・弱点・・・アプリも武器も持てねぇことくらいか?
「彼のミッションは他プレイヤーのスマホが必要なんです。命のアプリで彼がそのミッションをこなしている場面を見ましたが、何やらコネクタを繋いで連絡先とやらを取得しています。」
命・・・そんなアプリまで持ってんのか・・・
「つまりは、スマホを隠して彼にそれを知らせて近付けば彼は私達を殺せないはず。スマホの場所を吐かせるためにね。」
「・・・そいつがミッションを無視して殺しに来るってこともあるんじゃねぇか?」
「えぇ、ですから『十中八九即死にしないはず』と言ったんです。」
えぇ~・・・そこは賭けなのかよ・・・
「それじゃあ―――――狩りますよ。」
どこまで自信があるのかわからないが刻は堂々とそう告げ、天城の元へ足を進めた――――
Another View
泉 刻
コンクリートの廊下を進み、私は先程確認した天城のいるポイントに一人で向かう。命を危険に晒すわけにはいかないし、空海さんが殺さないと意味がないとはいえ、この私が囮役になるとはね・・・
「・・・・・・。」
十字路の曲がり角で立ち止まり、天城の接近を待つ――――
――――――コツ、コツ・・・
来た――――私は彼が私の声が聞こえる位置まで来たことを感じ声をかける。
「止まってください。蠍座の天城純夜さん。」
――――――ピタッ
「・・・誰だ?」
映像で見た天城は高校生位の若い男性、声質的にも間違いはないでしょう。
「まずは、アナタの前に顔を出す準備をしますので、話を聞いてください。別に害を与えるつもりはありません。私のミッション『蠍座と5時間行動を共にする』に協力をして欲しいだけです。」
他のプレイヤーで似たミッションがありましたし、こんな嘘のミッションが妥当でしょう。
「・・・その割には随分高圧的なんだな。」
「私だって生命が惜しいですから、敵意を解いていただくのに必死なんですよ。なんせ目線で殺せる人に近付くわけですから・・・」
「――――!?オマエ、どこでそれを!?」
天城は他のプレイヤーと異なり明らかな弱点を持っている。それはミッションに関わるモノなんかじゃなく―――――彼は素の状態では何の情報も持ち合わせていないということ。情報を持たぬ者は詐欺師にとって最も狩りやすい獲物でしかない。
「それも追々話します。まずは聴いてください。私はアナタのミッションが『全員の連絡先の取得』ということも、その取得方法が有線で接続しなくてはならないことも情報を得ています。そこで私はスマホをとある部屋に隠し、アナタに会いに来ました。私を殺せばあなたは私のスマホを探しにこの建物中をくまなく探す必要が発生します。ご理解いただけますか?」
「俺のスキルを封じた、と。」
なるほど、理解力はあるし、冷静な状態のようですね。姿を晒したところで野蛮に殺されることはなさそうですし・・・これは作戦Cでいけそうですね。
私は天井にあるカメラにサインを送り、言葉を紡ぐ――――
「ご理解いただけたみたいですね。では―――――」
そう言い、ひと呼吸置いて、私は曲がり角から天城に姿を晒す―――――
――――――コツ、コツ、コツ
その三歩目が私が天城に姿を晒す合図、遠く離れていても獣の耳には届いているはず―――――
「やぁ、私は山羊座の―――――」
――――――ゴガアッ!!
「―――――っ!?」
目の位置、人数、武器の有無等を確認しようと天城の視線が、集中力が、私の隅々にまで行き渡る邂逅の場面で仕掛ける、これが作戦C。天城がある程度頭が回り、冷静な人だった場合、情報を欲して目の前の私の観察に全神経を集中させるだろうという予測の元での作戦だ。
作戦はハマり、天城は後ろを振り返ることなく首を噛み切られていた。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
空海さんは息を切らしながら人間に戻り、スマホを確認する。
「ハァ・・・ポ、ポイント・・・69・・・50ポイント、獲得だ!!」
――――パァン!!
その画面を見た瞬間、私と空海さんは自然とハイタッチを交わしていた。
インフルエンザは大手を振って休めるからいいよね・・・なんて思ってた過去の私を殴りたい。予防接種をしろと説教したい。
10年以上ぶりにインフルエンザになってその脅威を理解しました。マジ死ぬかと思った。寒気で目が覚めて夜全然寝れんかったりマジでキツかった・・・。
しかも、自分が設計したものが作られて届く直前のタイミングなんで、仕事の中で一番の楽しみをお預けされてなんでホント鬱でしたね。
皆さんもお気をつけてください。
発熱中は執筆なんて考える元気ありませんでしたけど、解熱後から二日程出勤できない拘束期間があったのでわずかですが書き溜めできました。読んだらインフルエンザが感染した方がいたらご連絡下さい。「電子感染」という新規感染ルートを学会に報告しますので・・・医学系はどこに論文出せばいいか知らないのでやりません嘘ですごめんなさい。
・・・はい、家に籠ってるのでコミュニケーション欲が溢れかえってましたね、すいません。
そんなこともあり次回は一週間後の投稿になります。
さて、本編についてですが・・・今回はVS純夜ということで、やはり攻撃的なスキルを持つと敵役が多くなりますね。空海も然りですが。反対に攻撃的なスキルを持たないと人知れず死んだり役回りが悲惨になりますよね、日輪とか。
あとは、書いていて思ったのが、唯と刻が組んだらかなり強くない?ということです。刻の手足を潰し、シンクロして、相手が動けなくなったら相手に致命傷を与えて、唯の回復で刻を回復させる。そんな型を思いつきました。まぁ、ここで書くということはたぶん今後そんな展開はないということですけど。あ、でも未だに最終章はプロット書いてないんでそこでワンチャンあり得るかもしれませんね。
次回は2月2日投稿予定です。もう2月なんですね。どうかそれまでご自愛ください。




