微睡みの中
ふと、私は夢を見ている。
過去の記憶をたどる夢ではない、でたらめななんの意味もない混沌とした夢でもない、どこか静かで深い海の底にいるかのようなそんな夢。
そんな中で彼女と、リコリスと二人きり、何をするでもなくお互いに見つめ合っていた。もしかしたら何かしたあとだったのかもしれない、私がこれが夢だとはっきり意識したのがそこだったのだ。だから今、私は夢を見ている。
これが何を意味するのかはわからない、私の拗れた思いがこの夢を生み出したのかもしれない。夢の中の彼女は機械じかけの瞳でこちらを見つめている、その瞳は私の心の奥底まで見透かしているようで目を離せなかった。この狂気に染まらずにいる淡く歪んだ恋心が見透かされるようで。
でも、報われぬ恋ならば、叶うかどうかもわからない恋ならばせめて、”夢を見ても”いいんじゃないか、行動に移すのは容易かった。
「ねぇ、抱きしめても……いい?」
試すかのように彼女に向けて言葉をかける。彼女はほほ笑みを浮かべ腕を広げた、おいでと言わんばかりに。
安堵した私は誘われるように求めるように、腕を広げる彼女に歩み寄り優しく抱きしめた。彼女も優しく抱き返してくる、腕の中に収まる彼女を暫くぎゅぅと抱きしめ続けた。
温もりが伝わってくる……気がした。いつもと違う温もり、想い人の温もり、味わってしまえば手放したく無い温もり。幻想でも留めておきたくてポツリ言葉が漏れていた。
「私ね……貴女の事が好きなの……言っても伝わらないのは……分かってるけど」
彼女は何も答えなかった、ただ、抱きしめる力は幾許か強くなった。私の言葉に応えるように、私を慰めるように。私もそれに応えるように強く抱きしめる。
「出来ることなら……今すぐにでも……会いたい」
虚構と真実が入り混じった言葉。だって、会うときはあの人もいるはずだから。彼女の騎士様が。それを見たら、また私は何も言えないだろうから。
『私は此処にいるよ?』
彼女が言う、何時ものあの声で。
「そうね……だけどこれは……瞞しなのだから」
私の作り出した幻影にそう言葉を返す。腕の中の感触が消えていくのと同時に意識が遠のいていく。
目を覚ますとそこは見慣れた景色、いつもの空気、いつもの場所。覚醒しきっていない頭で夢を思い返す。胸を刺すような感覚と少しばかりの決心を胸に、身体を起こし日常へと戻っていった。