第二話 戦闘では落ち着くことが大切です
2017/5/7 ステータスの一部項目の削除
石造りの小部屋から出た先は、深い森の中だった。
生い茂る木々は太く、刳り貫けば手狭ながらも人が生活するには十分な空間ができるほどだ。
現に石造りの小部屋がある場所は、一本の木の根の間の土を掘って作られたようになっている。
しかし木々の感覚は広く、地面に草花が生い茂り、明るくはないが暗くもないと感じられる程度には木漏れ日が差している。
「幻想的な森です。しかしまずは気配の方を・・・」
・・・っと、ついつい声が出てしまいます、下手に声を出せば魔物とやらを呼び寄せてしまいます・・・
はじめて持つ人の体の感触は、生まれ持ったように馴染んではいるが、心で思うことと口に出す事の切り替えなど些細な事はまだ意識的にしなければならないようだ。
・・・やはりこちらに向かってますね、武器も無いし相手が分かればまだ対処できるのですが・・・
距離はまだ離れているが速度も速く明らかにこちらに向かってくるため、逃走するにもこのままでは逃げきれないと判断し迎撃する事にする。
そして相手の情報を欲すると、感知のスキルが自動で発動し相手の色々な情報が流れ込んでくる。
・・・これは感知のスキルですか、光学・音響・熱量に魔力まで!?・・・
―――スキル聞き耳を獲得しました―――
―――スキル遠視を獲得しました―――
頭の中に直接声が響く、というか視覚の一部にチャットログのような物まで出て表示されている。
感知のスキルはある一定の範囲までの周囲の情報を把握するが、身体能力としてレーダー機能を持っているために、意識的に発動すれば通常よりも広範囲の対象をとらえることができ、さらに音響感知と光学感知はレーダーのそれと仕組みが同じであるため、応用として小さな音や遠くの音を聞くスキル『聞き耳』と各種レーダー機能から遠くの物を立体的に視覚的にとらえる『遠視』のスキルを獲得した。
さらに鑑定スキルまで発動し相手の情報がステータスとして表示される。
[名前]なし(Lv5)
[種族]魔物 狼獣種《フォレストウルフ》
[性別]♂
[年齢]15歳
[状態]敵対
[能力値]
不明
[固定スキル]
・嗅覚上昇(大)
[スキル]
・飛斬爪
・加速突進
・・・やはり魔物ですか、しかし狼系なのに単独、なのは魔物だからででしょうか?それに能力値も不明ですか。スキルは『加速突進』はわかりますが『飛斬爪』は分かりかねます。スキル以外にも噛み付きなども予想されますし、ちょっとマズイです、転生早々絶対絶命のピンチってやつです!・・・
冷静に分析したが分からない事が多すぎて焦りだす。
・・・まずいです、手ごろな木の棒も無い!手ごろな石すらない!人が素手で狼とそれも魔物と戦うなんて勝てるわけ無いじゃないですか!?・・・
焦りから軽くパニックに陥る。が落ち着くよりも前に中型犬ほどの大きさのフォレストウルフが視界に入ってきた。
「ちょ、データにあるより小型の狼ですが、まって下さい転生してすぐ餌にされるとかどんな拷問ですか!?」
パニックに陥ってるため叫ぶが、元がAIだったために対象の観測は怠らない。
「グルァア!」
「ひょわあ!」
5m程の距離からフォレストウルフは右前脚を振りながら口を大きくあけ跳躍し、空中でさらに加速しながら飛び掛かってくる。
それに対しアリシアは、涙目になりながら可愛らしい悲鳴を上げ、両腕で顔を庇いながら顔を背け目をつぶる。
フォレストウルフの足が届かない距離から放たれた爪による斬撃前が突き出した手に当たり、さらにその口が手を捉え、突進の勢いが衝撃となりアリシアの体を襲う。
―――キィィン、ガキィィン―――
「へ?」
しかしその腕は金属音を発し、斬撃を受けた衝撃と噛み付かれた感触はあるものの腕は無傷、体に受けた突進の衝撃も子犬が胸に飛び込んできた程度の軽いもので、思わず気の抜けた声を発してしまう。
「そういえば、金属の体に人以上の力なんでしたっけ。でしたらこれでどうですか!」
自分の体の設計を思い出し、瞬時に冷静になり、一度離れようと口を話したフォレストウルフの頭に力を込めた拳を振り上げ叩き付けるように振り下ろす。
「グルゥッキャ…」
フォレストウルフは威嚇のための唸り声を上げようとしたが、その拳をうけ頭がつぶされ絶命する。
さらに頭蓋が粉々に砕けたであろうほどに頭が潰れた状態で、地面にめり込み、頭部の中身と血液をぶちまけた。
「むぅ、冷静に考えれば体をさらに硬質化して攻撃を防いだり、反応速度も高いので避ける事も容易でしたね。てへぺろってやつです」
―――Lvが2に上がりました―――
―――スキル『格闘』を獲得しました―――
「おや、レベルアップですか、ゲームでの魔物を倒して経験値を得るタイプなのかな?能力値も上がってると思いますが数値が見れないので確認しようがありませんね。スキルの方は行動によっての獲得みたいですね」
頭に響く声と視界の片隅に流れる文章を見て、先ほどの感知からの新スキル獲得からそう結論を出す。
「フォレストウルフは取りあえず素材として売れるかもしれませんし持っていきましょう。まずはこの世界の情報を得るために人なり会話できる相手を見つけなければなりません」
そうつぶやき、フォレストウルフの死体を持ち上げ、どうやって持っていくか思案する。
スキル『インベントリ』の事を思い出し、ソレを入れようと思っただけでフォレストウルフが手から消え視界の片隅にログウィンドウが現れ、『フォレストウルフを入手しました』と表示された。
「やっぱり、スキルの発動は望んだ効果が発動可能なスキルを持っていれば発動するのですね」
そう呟き、インベントリの中身の確認をしたり、再度取り出したり入れたりし考察していく。
結果としてインベントリ内の確認は、視界の片隅にリスト表示されその中で選んで出すことも、内容確認せずとも出したい物を思い浮かべるだけで、目の前に出現する。
出現させる時も、目の前の地面の上や空中、手の中など狭い範囲での場所指定や、出したときの向きも指定できる事が分かった。
「さて、ほかにも分からないスキルはありますが、速く移動しましょう」
そうして歩き出したが、自分の身体能力についてもある程度把握するため足に力を込め走り出す。
結構な距離を進み、人間離れした自分の身体能力を把握し驚き、そして楽しく嬉しくなっていく。
足の速さは最高で音速をも突破する事を確認したが、あやうく木にぶつかりそうになり正確に把握するのはあきらめた。
しかし100km/h程度ならばたとえ人込みの中でも避けながら進めるほどだと判断し、さらに急停止もできると分かった。
跳躍力については驚くことに、垂直飛びで300m程も飛べさらに空中でも空気を蹴って2段跳びを行い最高で500m程度まで飛べる事が分かった。
しかしそれ以上何度やっても上昇せず、前方への跳躍もなぜか地面を1回、空中でもう一回しかできなかった。
持久力については、どんなに走っても跳躍しても疲れる事はなかったが、保有する魔力『MP』が減っていると感じるため、MPの続く限りほぼ無限だと結論をだした。また走る速度や跳躍距離によっても魔力の減り方が変わるとも感じとれた。
持久力とMPが同一なのはこの世界の理なのかとも思ったが、体の設計を思い出し自分だけなのだろうと結論は後回しにした。
また途中に何度かフォレストウルフと接触し、やはり狼と同じく群れで居る事が普通のようだが、斥候や見回りでの単独行動をすること、また鳴き声で群れ内部での連絡や連携などの意思疎通をしている事がわかった。群れの個体数については単独行動などもあるので確定ではないが、3~6匹で群れに1~2匹いる事がわかった。
個体によってある程度のレベル差はあるが、スキルについてはほぼ変わらない事もわかった。同じではないのは、稀にスキルの一部を持っていない個体がいたためだが体格からして成長しながら取得すると予想している。
フォレストウルフ50体ほど倒したところで、Lv6に上がり新たに『二段飛び』『三角跳び』と、『バックアタック』『投擲』(石を投げてフォレストウルフを倒したため)を入手し、力加減を覚え頭を潰さずに倒す事も覚えた。そして途中でスキル『探索』も発動し『感知』についてもより深く理解する事ができた。
『感知』については常時発動と任意発動の二段階あり、常時発動の段階で通常時に目視できる範囲内で自分に向けられたモノ(殺意や視線など)を感知し、任意発動状態にすると目視よりも広い範囲を感じ取ることができ、魔物・動物・植物・無機物などが分かり、周囲の地形把握もする事ができ、また遠視や聞き耳でより遠くで見た事や聞いた事に対しては単体で発動できる事も分かった。しかし遠視などで単体発動した場合には熱量や魔力量といった事がある程度しか分からなかった。
『探査』については、対象を指定し探せるスキルであった。『感知』の任意発動よりも広い範囲で無機物すら、そのある場所を感じ取れた。
他の魔物には出会う事はなかったが、ネズミなどの小動物やハエや蚊などの虫の存在も確認できた。
「おや、亜人種?の反応ですかね、木々に隠れてまだ見えませんか」
『探査』で次のフォレストウルフを見つけ、周囲を『感知』で確認しながら進んでいると、フォレストウルフ3匹と戦闘している亜人種らしき反応を捉えた。
反応を捉えてから一度止まり、接触しても良いものか少し考えるが、フォレストウルフの遠吠えが聞こえさらに反応が増え、亜人が6匹のフォレストウルフに囲まれ劣勢になっていると感じ、考えるのをやめて走り出す。
[名前]アリシア(Lv1→Lv6)
[性別]なし
[年齢]15歳
[種族]亜人種 機械生命体
[状態]健康
[能力値]
HP:■■■■■ MP:■□□□□
Str:Agi:Vit:Int:Dex:Luk:高い
[固定スキル]
・ステータス確認
・インベントリ(空間極大・状態保存・魂保存不可)
[スキル]
・鑑定
・解析
・並列思考
・探知
・探査
・自己修復
・身体変更
・魔力変換
・状態異常耐性
・状態異常無効
・物理耐性
・魔法属性耐性
・魔法属性無効
――New――
・聞き耳
・遠視
・格闘
・二段飛び
・三角跳び
・バックアタック