表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

8、破壊

 みのりとの関係は曖昧のまま、冬を迎えていた。


 最後の追い込みだった。

 今まで軽口を叩いていた奴らも、無言で改札を抜けて行く。みのりも余計なことは言わなくなった。弁当袋を手渡すと、黙って僕の横を歩く。

 少し重みを増した袋の中身を見る。水筒が添えられている。

 「顔色悪いから、野菜ジュースを付けたから」

 ありがとうと喉まで出かかっているのに、僕はその一言が言えずにああと答える。

 あまりよく眠れていない。目を閉じると英文法が気になって、目が冴えてしまう。数学は、あと一問解いてからと思っているうちに、朝が来ていることが多い。今まで覚えたものが、寝ている間に抜け落ちてしまうんじゃないかと、錯覚を起こしているように、寝るのが怖かった。


 受験の日、雪が降った。

 しんしんとした寒さの中、電車に乗り込む。

 予備校最後の日、みのりから合格祈願のお守りを渡された。

 「ロクちゃんなら大丈夫。頑張って来たんだから、自分を信じるだけだよ」

 「ブスが、余裕かまして人を励ましてんじゃねーよ」

 「口が悪いのは、元気な証拠だね。お互いベストを尽くしましょう」

 みのりが手を差し出した。

 僕はその意味が分からずにいると、無理やり手を握られる。

 「頭が良い人の力を分けてもらわなきゃね」 

 「バカがうつる。止めろ! これで落ちたらお前のせいだからな」

 「相変わらず酷いね」

 小首を傾げたみのりが言う。

 

 カバンにぶら下げたお守りが揺れ、僕は試験会場に入る。

 

 自信はあった。自己採点でも九分九厘いけていると確信していた。だから、僕はこの事態が上手く飲みこめないでいる。

 泣きたいのに、涙が出て来ない。

 僕はみのりを呼び出した。

 予備校がある駅前のバーガーショップ。参考書も持たずに、こんな所に入るのは久しぶりだった。高校の制服を着た団体が、ゲラゲラと笑って入って来た。まるで僕を笑っているようで、耳をふさぎたくなる。


 一時間してみのりが来る。

 「ブスが待たせてんじゃねーよ」

 「ごめん。出掛けに、親がいろいろ言ってきて、遅くなっちゃった」

 何でこの僕ばかりがこんな目に遭う。

 「ブスが化粧なんかしてんじゃねーよ」

 みのりは何も言い返さない。それがまた腹が立つ。

 乱暴にごみを片した僕は、表に出る。

 「どこに行くの?」

 そんなみのりの問いかけを無視して、踏切を渡る。

 居酒屋が並ぶ切れ目にあるカラオケボックスに入る。

 「ロクちゃんが歌なんて、珍しいね」

 みのりの声が、弾んで追いかけて来る。

 「何、歌う?」

 歌なんて歌いたい気分じゃない。僕はみんなが楽しんでいる間も、勉強をして来たんだ。こんな所でへらへらと笑っていた奴らが、先を行ってしまうなんてありえない。

 「ブスが一人でうたってろ」

 そんなことが言いたいんじゃない。結果を聞きたかったんだ。それなのに僕は訊くのが怖くて、適当に番号を入れる。

 「全曲歌いきれよ」と言って、部屋を出てしまった。

 自分でも何がしたいのかが分からなかった。

 今までの生活を壊してしまいたかったのは、確かだと思うけど……。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ