7、ブラックホール
模試の結果があまり芳しくない僕は、熱を出して授業を2日間休んだ。
熱にうなされている間、僕は大きな穴に落ちて行く夢を何度も見ていた。
躰が、本当にベッドに吸い込まれていくような変な感覚。
どんどん体が得体のしれない場所へ引きずり込まれ、ハッとして目が覚める。
シーンと静まり返った部屋。
親は二人とも仕事に行っている。弟もどこかに出かけていて、家を留守のようだ。
孤独が僕を襲う。
母親が、額へ手を当てるのを、いつ頃から拒むようになったんだっけ。
今朝もうざがって、まともな会話にならなかった。
額に乗せた腕が熱い。
机の上、乱雑にテキストが広げられ、その上に置いてあった携帯が点滅しているのに気が付く。
みのりからのメールだった。
(風邪でも引いてしまいましたか?)
絵文字なしの素っ気ない文を見て、僕はフッと気が楽になる。
女を強調したがる割に、こういうのはさばけている。
(多分、38度くらいあると思う。明日も行けない。)
返信ボタンを押している自分に、苦笑する。
(人間していますねー。水分補給はたっぷりしてね。着替えもした方が良いよ。私の勘だと1リットルくらい汗をかいて、ロクちゃんのシャツは無残にもそれでぐっちょりと湿っていると思われるので。)
勘とかそういうもんじゃないだろう。普通に考えても分かる。
そんなツッコミを入れながら、フラフラと立ち上がり、着替えを済ますと階段を下りて行く。
置手紙が、テーブルにあった。
(食べれるようだったら、冷蔵庫の中のもの温めて食べなさい。あと、スポーツドリンクも入れてあるから、まめに水分を摂るのよ」
僕が浪人生になってから、家の雰囲気は変わってしまった。
いつでも空気が張り詰めていて、誰もが僕に気を遣っているのが伝わってくる。
食事は摂る気になれずに、スポーツドリンクを一口飲んで、また部屋へ戻る。
一日だって無駄にできない。
机の前に座って、テキストをペラペラと捲り始める。
見計らったように、携帯が鳴る。
(焦っても始まらないよ。ロクちゃんのことだから、勉強しようなんて考えているでしょ? ノートは何とかゲットしてあるから躰を早く治してね)
僕は、思わず窓の外を見る。
もしかしてストーカーされているのかと思った。
今度会ったら、言ってやろう。ストーカーなんかしてんじゃねーよって。
僕は諦めてベッドへ横たわる。
目を瞑った途端、躰がベッドに吸い込まれて行く感覚が蘇り、ぐるぐると僕の躰をみのりがベッドに縛り付けている夢を見た。




