6、距離の法則
電車の中、恋もしていない内から失恋を味わってしまった僕は、やり場のない怒りと虚しさを、呑気におはようと言って来たみのりにぶつける。
「お前の友達って、みんなあんな感じ?」
「何よいきなり」
「品がなさすぎだろう? いきなり怒り出して帰っちまって。失礼極まりない。ブスの友達だから当てにはしていなかったけど、やっぱ、類は友を呼ぶんだな」
「それを言ってしまったら、ロクちゃん、男が下がるからやめた方が良いよ」
みのりは真顔で言うと、窓の方に目を向けた。
隣りで携帯を弄っている女子大生風の女が、チラチラと盗み見ている。
「お前とは関わらない。もう、僕に話しかけんなよ」
「ロクちゃんてさ、そうやって尖ってばかりいて疲れない? もっとさ、肩の力、抜いた方が良いと思うけど」
いつもの口調と違っていた。目線も窓に向かられたままだ。
僕の周りには、友達と呼べる奴が一人もいない。一緒に誰かと何かを成し遂げようなんて必要だと思ったことがない。周りの奴ら全員が僕にとってライバルだと思っていた。
「さびしくない?」
「煩い。ブスは黙ってろ!」
はっきりと隣りの女が、僕をじろりと見た。
僕はどう見られたって構わない。自分を変えるつもりなんて、さらさらない。
膝の上に置いたテキストに、目を落とす。
相手にしなければいいんだ。
みのりも、それ以上は何も言って来なかった。
失恋のイタミより、みのりの一言がぐるぐると頭をかき乱して行く。
「ロクちゃん、ビタミンが足りてないだと思う。それともカルシウムかな? サプリメントも付けて置いたから、勉強頑張ってね」
淡々とした口調で言うと、みのりはテキストの上に弁当を置いて先に電車を降りて行く。
すんなりとそれをカバンにしまった僕も、慌てて電車を降りる。
いつもなら、べたべたとくっついて来るみのりは、友達を見つけて楽しそうに前を歩いている。
何故か分からないけど、僕の気分はざらざらとしたものになる。
頑張ってか……。
距離が、ぐんと離れた気がした。
「頑張っている人に頑張ってって、私は言わない主義」
予備校に通い始めて間もないころだった。
みのりが真っ赤な顔をして、そう言い出したのは。
「何なの? 人の顔を見るたびに、ガンバっているとか、がんばってねって言って来るのよ」
僕にも、そう言われないかと訊いてきた。
「まったく。見れば分かるでしょって言いたくなるよね。もっとましな言葉を持って来いって言うの」
と、頬を膨らませ、それがまるでふぐみたいで、僕は噴出してしまったんだ。
久しぶりに笑って、腹が痛くなった。
それをまた、酷いってみのりは怒ったんだ。
そして、この頃からだった。僕がみのりと呼ぶようになったのは。
何を考えているんだ僕は。あんな奴、どうでも良いんだ。離れてくれてせいせいしたじゃないか。
自然とため息が出る。




