5、夏祭り
ひょんなことから、僕は初デートを経験する運びになった。
ムッとする暑さの中、僕はみのりに言われた待ち合わせ場所へ、20分前に着く。
期待しすぎて早く着くのも癪に障るし、かといって待ち合わせにギリギリとか、遅れるという、非常識な奴だと思われたくなかったからだ。
祭だから仕方がないけど。ごった返す待ち合わせ場所に顔を顰める。
甲高い声の話声と笑い声。
――だから女は苦手なんだ。
しばらくして、はにかむように手を振る瑞希を見つけた。
「全然、変わってないね」
瑞希の弾む声に押し出さられるように、駅の階段を降り始める。
ずらりと並んだ屋台を眺めながら、僕はどんどん前へ進んで行った。
「立花君、ちょっと待ってよ。もうちょっとゆっくり行こうよ」
そう言われて、僕は立ち止まり振り返る。
「お祭りだよ。こういう縁日とか、見て歩くのが楽しいんだから。そんな早歩きされてもつまんないし、ついていけないよ」
口を尖らせた瑞希が、ぎゅっと僕の腕を掴んだ。
「下駄って履きなれてないし、足痛いんだから。もうちょっと私のことも考えてよ」
「ごめん」
一応謝ったけど、どうしてそんな歩きづらい物を履いて来たんだよ。と、腹の中でつむじが曲がる。
これがみのりだったら、平気で言えたのに。
別に、金魚とかヨーヨーとか興味ないし、トウモロコシが食いたいなら食えばいいじゃねーか。と、隣ではしゃぐ瑞希を見ながら、僕は思っていた。
みのりだったら、絶対口の周りが汚れても平気で食べて、ニヤッと歯に詰まったままの笑うだろうし、やりたいなーじゃない。やるから見てろ。とか平気で言うと思う。
「ねぇ、立花君って、みのりのこと、どう思っているの?」
散々迷って釣ったヨーヨーをパンパンと叩きながら、瑞希は訊いてきた。
僕は、ドキッとなる。
「別に、うるさいハエくらいにしか思っていないけど。何で?」
「ううん。特に何でもないんだけど。どういう関係なのかなって思って」
なんだろう? ぎすぎすとした空気が一瞬、流れた気がした。
「立花君てさ、鈍感だよね?」
相変わらずヨーヨーをパンパンと叩きながら、瑞希は顔を上げずに言う。
「何が?」
「私、ずっと好きだったんだよ。気が付いていなかったでしょ?」
「はん?」
間が抜けた声が出てしまった。
瑞希が、真っ赤な顔をして僕を見ている。
「でも、もういいや。立花君、無神経すぎるんだもん。もっと優しい人かと思っていた。友達とかに、勉強とか教えていたしさ、落とし物を黙って拾ってくれたのに、全然違う。どんどん先歩いて行っちゃうし、いちいち眉間に皺寄せて、つまらなそうにしているしさ。じゃ、私帰るから」
一発目の打ち上げ花火が上がった。
バリバリと威勢のいい音を上げて、大輪を咲かせる。
僕は呆然と立ち尽くしていた。
こじれ男子ってやつですねこれは……。




