表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

12、僕は僕なりに

 あの頃の僕はこの坂道を上る度、何でこんな思いをしてまで、この街に住まなければならないのかと思っていた。

ありきたりの日々。単調でつまらなものばかりといつでも不満を言っていた。

 僕は人を思いやるとか、そういうものとはほど遠く、自分の中に芽生えたものが何であったのか、知らずにいたんだ。


 桜が満開になるこの季節になると、僕はいつだって思い出す。

 バカなことだと自分でも思う。


 ……けど、思わずにはいられないんだ。


 君に逢いたい。


 みのり、今、君は何をしていますか?

 

 くたびれたスーツで、交差点を渡って行く。


 味気ない毎日。


 本当に、僕は名前の通りのろくでなしで、でも、陸朗って意味は全然違っていて、大学教授が教えてくれたんだ。


 君の名前は素晴らしいねって。


 みのり、君なら分かるだろ? 僕がどんな反応したか……。


 こんな名前のお陰で散々だった。って口を尖らせ、抗議をしたんだ。


 教授は首を振って、君は何も知らない人なんだね。と言った。


 僕には、さっぱり言われている意味が分からなくって、ムッとした顔をして黙ってしまったんだ。


 周りにいた同じゼミの人たちは、ハラハラしたそうだ。それでも教授は落ち着いた声で、辞書を引いてご覧。親がどんな思いで、その名を付けたが分かるよと言われ、僕は促されるまま引いてみた。


 陸朗の陸は、水平であること。歪みなく正しいことなんだ。大学を落ちた時、こんな名前を付けたからだって、言っていた自分が恥ずかしくなった。

 

 ――あれから10年。

 

 あの頃描いていた医者や弁護士にはなれなかったけど、まぁそれなりに社会人をしている。

 弟に子供が生まれた。

 僕は伯父さんだ。

 いくつかの会社を転々として、やっと落ち着いたんだ。

 今は、営業で頭を下げるのが、僕の仕事。

 あの頃、僕が一番苦手だったことをしている。


 日差しが照り返す中、僕はすれ違う親子連れを見て、立ち止る。


 聞き覚えのある声。

 向こうも立ち止り、振り返っていた。


 「やっぱりそうだ。立花君だよね?」


 あれほど会いたいと願ったみのりである。


 一言二言、隣に居た男性へ何か言うと、みのりが近づいて来た。


 ベビーカーを押すその男性は、旦那さんだろうか?


 軽く会釈され、僕も頭を下げる。


 「元気だった?」


 あの頃と全然変わっていないみのりは、屈託のない笑顔で言う。


 「おかげさまで」

 「そう、良かった。私ね、去年、結婚したんだ」

 「子供、産んだんだ?」

 「うん。産まれたばっかり。旦那の実家行って、その帰りなの」

 「幸せなんだ」

 「うん。すごく幸せ。彼、優しくて、何でも手伝ってくれるんだ」

 「なんか耳が痛いな。皮肉に聞こえる」

 「ああ、そんなんじゃないよ。本当に違うから。私、立花君には感謝しているんだ。いろいろとはっきり言ってくれたから、自分の悪いとこ直せたし、それに、立花君も充分優しかったよ。あ、私もう行かなきゃ。じゃあ」


 赤ん坊が泣きだす声。


 みのりは、小走りで戻って行く。


 どうしてあの頃、僕はこんな大事なことに気が付かなかったんだろう?


 きらきらと、みのりが輝いて見える。


 僕は、みのりが好きだった。紛れもない真実。ずっと、そう思っていたくせに素直に認められず、僕はみのりを傷付けてしまった。


 そうなんだ。僕があの日抱いたのは、勢いでも何でもなかった。


 僕は最低だ。


 楽しそうに歩いて行くみのりの後ろ姿から、僕は目を離せずにいる。


 ……ブスのくせして、幸せになりやがって。

 

 やっぱり、僕はろくでなしの陸朗だ。

 

 僕は、携帯から星池みのりの名前を消した。


 冷たいものが、頬を流れ落ちる。

 

 桜が舞い散り、僕は少しだけ前に進んで行こう。と思う。

 

 あの日、言えなかった言葉を胸に。


 ありがとうさよなら。


 そして、I LOVE YOU。

          < FIN. >



最後まで読んでくださった方へ、大感謝です。

プライドが高いが故、どうしても自分の気持ちに素直になれなかった陸朗。

知識を多く持つことは素晴らしいことですが、大事なことはもっとたくさんあるよなと思いつつ、書いた物語です。

君に幸あれ。

ではあしからずm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ