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11.後悔

 ―― 春が来た。


 真新しい制服やスーツを着た人に紛れて、僕は電車に乗り込む。無意識に開いたドアの方へ目をやってしまうのは、僕の癖になった。


 みのりはもう乗ってこない。

 

 予備校と往復で、会話もなく過ごす日々がこんなに辛いのだと思い知らされる。

 酒を、部屋でこっそり飲むことが増える。煙草も、今は堂々と吸っている。その姿を見て、父親が目くじらを立てて怒るが、まるで他人事のように思える。

 弟は、スポーツ推薦で大学に行くと言い出した。楽しそうに彼女と歩く姿を、何度か目撃し舌打ちをし、僕は背中を丸める。


 「ほら、シャンとしなよ。おじいさんじゃないんだから」

 そんな声が聞こえた気がして、僕は振り返る。


 ブスのくせして……。


 全ての物に取り残されたような気分になった。


 「死んじゃダメだからね。そんなことしたら、一生化けてやる」


 無茶苦茶な奴。


 あの日、握りしめられた温もり、消えねーじゃねか。


 僕は、みのりを忘れるために、がむしゃらに勉強をした。


 そして、大学に合格すれば何もかもが、変わると思っていた。


 今まで遅れた分、取り返すかのように授業を入れる。人とつるむのは得意じゃなかったけど、サークルにも参加してみた。彼女だって出来た。全てが上手くいくと思った。これから未来が広がる。

 と、本気で思っていたんだ。


 それなのに……足りないんだ。

 

 「ロクちゃんは何のために大学に行きたいの?」

 「そんなのは、決まっているだろう。就職のためだよ」

 「就職って……。何がしたいのって聞いてんだよ。ロクちゃんって、頭がいいのか悪いのか分かんないね」


 ……僕は頭が悪い。大事な答えを見つけられずにいたんだから。


 携帯を開く。

 ディスプレイに星池みのりの文字。

 認めるのを躊躇ってしまうんだ。

 

 ……ブスでデブなのに。


 あの日、僕はどうして追いかけて謝らなかったんだろう。

 いつでもそうだった。

 「その一言さえ言えれば、うまく行くのに」

 にこにことしながら、みのりが言っている顔を思い出す。


 ……逢いたい。


 今更、何を考えているんだ。

 僕は首を大きく振る。

 あの頃の僕は、いつだって腹を立ててばかりで、大事なものをたくさん見失ってきた。

 予備校の近くの公園の桜が綺麗だったことも、レンタルビデオ屋が潰れて、ゲーセンに変わり、そこで瑞希がバイトを始めたことも、弟が大学を辞めたいと言い出したのも知らずに月日は流れ、僕はそれに身を任せて、医者でも弁護士でもない小さな会社に就職をした。



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