1、サクラチル
健気な女子と、傍若無人な男子の恋愛物語
駅で電車を待っていると、クラスメイトだった奴と会う。
スーツをビシッと決め、高校時代とはまるっきり違う。入学式なんだという奴の目は、僕の格好をひとなめしてから、立花はと、訊いて来た。
――知っているくせに。
予備校。とだけ答える僕を、またしげしげと見て、ああそっかと、触れてはいけなものでも触れたように、目を逸らす。
僕はいつだって、みんなの前を全力疾走して来たんだ。負けるなんて考えたことなんか一度もなかった。
有名私立高校に入り、家族からは、将来が楽しみだと言われ続けて来たんだ。その僕が、こんなレベルの低かった奴に見下すような目をされるなんて、ふざけんな。
ぞろぞろと、駅から流れる人の波に紛れ、僕は怒りの矛先を探していた。
「ロクちゃん。やっぱりロクちゃんだ。おはよう」
えっと思って、相手の顔を見た僕は、すぐに目線を落とし聞こえないふりをした。
「ねぇ、立花陸朗君でしょ。何で無視をするの?」
だいたい、こんな名前を付ける親が悪い。縁起でもない。ロクロウなんて付けやがって。
ぎろりと僕は、星池みのりを睨みつける。
「知らなかった。ロクちゃんもこの予備校なんだ」
馴れ馴れしくすんじゃねー。人が見ているじゃねーか。
「お前に、そんな呼ばれ方される筋合いはない」
「ええー、どうして? みんなそう呼んでいたじゃない」
「みんな?」
僕の尖った言い方に、星池は一歩下がる。
歩くスピードが落ちた僕を、追い越して行こうとした男と肩がぶつかり、カッと頭に血がのぼる。
「待てよ!」
その頃の僕はいつもこんな調子で、なんにでも怒りを爆発させていたんだ。
「ロクちゃん、止めて!」
振り返った男の胸ぐらを掴みかかろうとする僕の間に、星池が立ち塞ぐ。
「すいません。すいません。本当にごめんなさい」
男は舌打ちを一回すると、何も言わずに行ってしまい、僕はその後ろ姿を見ながら、余計なことしてんじゃねーよと、星池に食って掛かった。
「ロクちゃん、今朝、ご飯食べてこなかったでしょ? はいこれ」
星池は、僕の掌におにぎりを乗せ、お腹が空いていると、気が立つからちゃんと食べなよと言って、後ろ手を振って行ってしまう。
くそっ! バカにしやがって!
僕は、そのおにぎりを、足で踏みつぶす。
本当、こういう自分しかない男、嫌ですね。何でみのりは好きになっちゃうのかな~。




