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その8――勇者さん、妖怪が現れました

「魔法は科学や!!」

「ふ、科学?概念的なものは科学とは言わないよ。宿主に引っ張られて馬鹿になりつつあるのではかい」

「誰が馬鹿や!」「誰が馬鹿だ!」

 ウザハードとグリちゃんが俺の頭と肩の上で言い合っている。


 グリちゃん曰く、魔法は根底にあるのは魔法陣である。基礎的が魔方陣を正確に組み合わせる事で初めて魔力が魔方としてなり得るのだ。まさに科学の実験の様なものだ。


 兎曰く、魔法とはそこに使用者がある環境でイメージすることで発生する現象で、概念と言っても過言ではない。証明することは不可能である。


 二人の言い分には専門用語も多々あり、さっぱり分からないが大体はそんな事だと思う。

 異世界での魔力を使った魔法と、身体を持たない宇宙外生命体の言うところの魔法とではそもそも似て非なるものらしい。


「ウザハード、降りろ」

 人の頭にさも当たり前に張り付く兎に言ってやった。

 先日、安全だとはっきりしなかった俺の元へこの兎がやって来た。いわゆる監視対象になったらしい。それ以来俺の頭に居座っている。

 トキメキパワーの塊であるその身体は実体ではないとか言っていたが地味に重い。鬱陶しい。

「嫌だよ。まほには苦労をかけたくないからね」

 意味が分からない。この兎は自分の知っていることは誰もが知っていて当然の様に喋ることがある。

「今は君からトキメキパワーを貰って身体は維持してるからね。離れたらまほに負担がかかるんだ」

「勝手にバッテリー代わりにするな!」

 しれっとなに言ってるのこいつ。

「まさか最近朝起きるのがダルいのも」

「うん、僕だね。そういうバレにくいタイミングでちょっとお裾分けしてもらったのさ」

「隠してるのに言ってもいいんかいな」

「え!?だって3歩も歩けば忘れるんだろう?」

「俺は鶏ではない」

「そこは、俺はドラ〇ーニョではない、ではないかい」

 それ子供に言ったら「ビデオってなに?」と同じレベル回答が返ってくる奴だから。

「どうでもいいですっ!!」


 テーブルを叩いて激おこなのは親友の浩介である。

 俺は自称妖精と精霊を相手に遊んでいるわけではない。放課後に浩介の部屋で宿題をやっているのだ。

 俺と浩介は補習や課題地獄にどっぷり浸かっているのである。


「真面目にやらないと今日分の課題終わりませんよ」

「そうじゃ、そうじゃ」

 親友とハゲ頭のじじぃに説教される。

「あの先生なら多目に見てくれるちゃうんか?」

 担任の姫川先生は見た目こそロリロリしているがちゃんと凹凸がある。筋肉もある。カリスマもある。無いのは脳みそである。

「でも姫川先生は規則には厳しいからな。いや道理と言うべきか」


 こんな噂がある。昨年、とある生徒が詐欺に合い、家族共々路頭に迷いかけた。それを聞き付けた姫川先生は一月無断欠勤したあげく、詐欺グループに殴り込みをかける。そこで発見された諸々の証拠で警察も動くことができ、無事にその生徒は次の学年に上がれたのだ。

 彼女は理不尽に対しては凄く頼りになる。しかしこの課題は自業自得の賜物である。多分プリント1枚見逃してくれない。


「今時珍しい熱血先生じゃのう」

「その後謹慎になったのに部活しに学校にくる暴虐武人ぷりだったけどな」

 あの人が教員免許をどやって取ったのか謎である。


「まあ、急いては事を逃がす。そろそろ休憩にしよう」

 じじぃがありがたい提案をしてくれた。浩介も渋々頷く。浩介の場合、自分より俺のが終わるか心配なのだ。親友とは言えその辺の頭のいい人の考えはよく分からない。


 じじぃがコップに麦茶を注いできてくれた。コースターも用意してある。年寄りの癖にマメだ。

「そう言えば文化祭が近いのではなかったかのう」

「そうですね」

 我が高校の文化祭2日間かけて行われ、他校に比べて出店等のレベルも高い。本当にちょっとした祭りである。

「何か企画は進んでるみたいですけど、僕らは補習組みなので」

 やっぱり文化祭は準備期間も含めての文化祭だ。それに参加できない俺達。流石に浩介もクラスから同情の目を向けられていた。普段目を背けられる浩介がである。

「ふぉっふぉっふぉ、10年後にはそういうのも笑えるものじゃて」

 じじぃが言うと説得力がある。

「じじぃっていくつやったかいね?」

「いくつじゃったかのう。確か4桁くらいまで数えてたんじゃが」

「それってもう人間じゃないじゃん」

「バレたか、実はわしは妖怪なのじゃ」

 どっと笑いが溢れて場が和む。ユーモアのあるじじぃだ。

「ところでウザハードさん、さっきから喋りませんけど城条さんに何かあったんですか?」

 あ、本当だ。あの嘘か本当か分からないことをベルトコンベアーさながらに絶え間なく喋る兎が口をつぐんでいる。


「そのおじいさんは誰だい?」


「「浩介の知り合い」」と俺とグリちゃん。

「タイラの知り合い」と浩介。

「「「え?」」」

 何で誰も知らないんだ。

「もうひとつ言うと、何時から居たんだい」

「ほら、学校からここに来て……あれ?」

 本当に何時だろう。全く覚えがない。それなのに何で俺達は当たり前に話していたんだ?

「勇者とか聞いてたが、またまだ青いのう」


 その瞬間親友が動いた。

 真正面に座っていた浩介は俺をベットに放り投げ、じじぃに臨戦態勢を取った。


「何者ですか?」

「さっき名乗ったがのう、若いのに忘れたのかい」

 じじぃは胡座をかいたまま麦茶をぐびぐび飲んだ。

「わしは妖怪、名はないが強いて言えばぬらりひょんじゃ」

 俺の乏しい知識によれば、ぬらりひょんは妖怪の総大将で、勝手に家に上がり込んでくる妖怪だったはずだ。

「妖怪か、実在したとはね。ちょっと驚いたよ」

 驚いて無さそうに言うウザハード。

「その妖怪が何故ここに?」

「そこの小人を連れた小僧に会いに来たのじゃ」

「俺?」

 何かしたっけかな。思い当たる節が……思いっきりあった。

「うちの顔になんかついとるん?もしかして惚れたとかかいな」

 グリちゃんとは和解することはあっても惚れることは一生ない。

「その小僧、わしらの業界で有名人なのじゃよ」

「おいグリちゃん、何をした!?」

「よく聞き、小娘やなくて小僧や。うちやない」

「一般人の俺が妖怪達の間で有名になるか!」


 しかし異世界の話に、魔法少女の話。今更妖怪が出てきても受け入れてしまえる。なんなら増税の方が受け入れづらい。


「本当に有名なんじゃ」

「……ちなみにどれくらい」

「ファンクラブが出来るくらい」

「マジで!?」

 相手が妖怪でも悪い気はしない。

「娯楽に飢えてる連中ばかりじゃからの」

「何が原因なんだい?」

 ウザハード、僻むな僻むな。顔だよ顔。

「小僧の肉を食べれば不死になれるのじゃ」

「俺は三蔵法師か!?」

 我ながらハレー彗星並みに珍しいツッコミをした。

「他には強大な力がつくとか、幽霊なら生き返るとかかのう。ここ数日はその話で持ちきりじゃ」


 これがグリちゃんの言ってた負の感情が集まりやすいって奴か?


「少し違う思うわ。でもタイラの肉食べたらって言うのは正しいで。あんたの中で相当な魔力が溜まっているはずや。不死かは兎も角、それに近い事になっても不思議やない」


 魔法少女の次は百鬼夜行ともでも戦えと言うのか。

 繰り返す様だか俺は一般人である。自分では使えもしない魔石を取り込んでいる事以外はなんの能力も持ち合せていない。


「貴方もタイラを襲いに来たんですか」

 浩介はあくまで冷静だ。もしかするとこの件に関して薄々気がついていたのかもしれない。

「いや、わしは小僧にお礼を言いたくての」

 お礼を言われる覚えはない。勿論肉を食べて貰う気もない。

「友達の地縛霊が『生き返れるかもしれないなら』と数十年ぶりに公園を出られたのじゃ。自分事の様に嬉しくて嬉しくて」

「俺はポ〇モンG〇か!」

 おい、似たようなツッコミがこれで3回目だよ。もっと上手に振りやがれ。

「ふむ、そもそもその幽霊、公園から出られたなら地縛されてなかったのではないかい」

「それは気付かなんだ。ふぉっふぉっふぉ」

「くくく、ドジっ子属性を付けるには無理があるよ」

 この状況で楽しそうなウザハードである。こいつとしては俺がどうなろうとどうでもいいのだろう。


「あっ!」


 突然グリちゃんが声をあげた。

 どうしたとウザハードが聞く。

「タイラ食われたら必然的にうちも食われるわけやん」

 彼女は気持ち悪いくらいニヤニヤしている。マゾなのか。

「そしたら封印も解けるやんな。で、うちはまともな肉体が手に入って自由の身。万々歳や!」

 忘れがちだけどグリちゃんは本来魔石そのもの。食われたところで宿主が変わった程度の事なのだ。

「じじぃ、あんた強そうやし、早ようこいつ食べりいな。うちがその身体乗っ取っちゃるわ」

「それは怖いのう」

「人を簡単に売るな」

 最近かなり仲良くなったと思っていた。でも、こいつはやっぱり何処まで行っても負の感情の塊、害意と悪意の集合体グリードなのだ。

「そうなったらまほも心置き無く退治出来るよ」

「言うたな、うちの本来の力があれば、魔法少女なんてイチコロやで」

「それは楽しみだ。試してみるかい」

  「試すな!」


 このシリアスなのか馬鹿なのか分からない会話が続く間も、浩介は中腰で微動だにせずぬらりひょんを見据えている。未知の敵が現れた時の正しい対応かもしれないが、若干浮いている。


「勉強の邪魔して悪かったのう」

 そう言うとじじぃはゆっくりと立ち上がった。浩介も動こうとしたがじじぃがそれを手で制す。

「真面目なのはいいが、何時もそれでは疲れるじゃろ。今日は本当にお礼を言いに来ただけじゃ」

 そのままはぬらりひょんは「ふぉっふぉっ」と笑ったかと思うと消えた。まるで最初から誰もいなかったかの様だ。


 暫く警戒をしていた浩介だが、溜め息ひとつついてどっしりと座布団に腰をすえた。

「妖怪ですか。殴って倒せるものでしょうか」

 親友は魔法を使えない。殴る蹴るが効かないとなると魔法少女に頼らざる得ない。


 浩介や城条に守って貰う前提なのが情けない話である。俺の中の魔力が使えたら少しは役に立てるのだろうけど。


「問題は誰がタイラの情報を流したかではないかい」

 兎がまともなことを言う。

「可能性としたら、この間のアデルとか言う魔族やろ」

 ぬらりひょんは浩介が勇者だと知っていた。異世界から来た彼ならグリードのことを知っていても不思議ではない。

 だけど――

「アデルならまほが倒したよ。それこそ分子レベルにね」

「浩介の倒した魔王はな、不死族っちゅう死んでも死なん奴やったんよ。その部下が不死族なら逆にしっくりくるくらいや」

 流石は異世界、何でも有りである。

「魔王が不死族?しかし僕らの前で確かに魔王は死にました」

「それや、それが疑問でならんのよ」

「まほの全盛期並みの攻撃で生きてるなら、はっきり言って打つ手がないかな」


 俺は浩介から取り合えず課題を終わらせる様に言われた。浩介は既に今日分は終了していた。

 その横でウザハードと浩介とグリちゃんが今後の対策とやらを話し合っている。なんやかんや言いつつ兎もグリちゃんも助けてくれるみたいだ。


 本当に情けない。親友には「巻き込まれただけだから」といわれたけど、そう言う問題ではない。

 俺は助けられるのが嫌いなのだ。勿論自分でどうにかなる事ではないし、俺がでしゃばれば逆に迷惑になる。


 トモ姉の背中には大きな傷がある。小学生の時俺を庇って出来た傷が……


 嫌いではなく、助けられることがトラウマなんだ。


 自己嫌悪に陥った俺は答えない迷宮をさ迷っている気分である。俺は静かに目を閉じた。



 翌日、その事をそれとなく宿題が終わらなかった言い訳に使ったが、姫川先生に許されるどころか課題が増えた。




最後まで読んで頂きありがとうございます。

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