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その7――魔法少女さん、説明してください

タイラ視点に戻ります。

 昨日は散々だった。

 そして最も被害が大きかったのは俺の財布の中身である。

 大量のパフェとケーキを食べた兎は忽然と姿を消した。半年分のお小遣いも消えた。

 数百円しか残っていないのだ。


 浩介のためになったと言うことが唯一の救いだろう。



「昨日帰りが遅かったけど、何かあったの?困り事あるなら力になるよ」

 登校中にトモ姉が心配してくれた。

「ちょっと浩介と寄り道してただけだから」

「ならいいんだけど。熊とかに会ったら浩介を盾にすぐ逃げなさいよ」

 この辺りは都会でないにしても、熊と遭遇する事等まずない。


「ところでさ。彼女は友達なの?」

 

 見ると電柱に背を預け、めっちゃガン飛ばしてくる少女がいる。ピンク髪の彼女は城条まほ。魔法少女だ。

 紺のスカートにド派手なパーカーを着ている。


「……話がある」

 飴を舐めながら少女が話しかけてきた。

「私のタイラに何か用?」

 トモ姉が俺を隠すように半歩前に出た。男らしい。

 それと俺はまだ「トモ姉のタイラ」になった覚えはない。


「別にあんたには聞いてない、どけ」

 カミツキガメの如く簡単に噛みつく女である。

「確か貴女、城条さんとか言ったっけ。去年は内の生徒の」

「まだ辞めてない」

 予定はある様です。

「ふぅん、ごめんね。見ないからてっきり辞めたものだと」

「町田、今時間大丈夫?」


 無視だ。完璧美少女を魔法少女は無視した。


「ま、まあ大丈夫ですけど」

「タイラ行こうか」

 俺の腕を引っ張るトモ姉。

「あんたも残れ」

 城条に手首を掴まれました。痛い。超痛い。

「放しなさいよ」

「あんたには用ないから」

「放さないと辛い目に合うわよ、そこのマッチョが」

「僕!?」

「彼は私のために死ねるから」

「何時からそんな設定がっ!?」

「……今から?」

「聞かないでください!!」

 微妙に噛み合わない会話。噛みつく男。

「トモ姉、外して貰っていい?」

「……分かった。先に学校行ってる」

 苦肉の決断。美少女が台無しな程顔を歪めながら承諾してくれた。

「ピンクちゃん、タイラにもしもの事があったら覚悟しなさい」

 城条をピンクちゃん呼ばわり。的確ではあるけど。

「後でね」

 寂しそうに彼女はこの場を後にした。5回ぐらい振り返られた。


 トモ姉が見えなくなると城条は辺りを見回し口の中の飴を砕いた。

「マジカル転移」


 瞬間、身体が捩れた。実際にそうなったのかわからないけど、筋肉という筋肉がぐにょぐにょになる感覚がした。

 気持ち悪い。


 案の定、吐いた。


「タイラしっかりしてえな。感覚がリンクしてるうちまで気持ち悪いわ」

 いつの間に現れたグリちゃんが背中を擦ってくれた。ちなみにリンクだのの設定は、それこそ初耳である。


「大丈夫ですか」

 と浩介。流石は優男代表だ。

「……」

 城条は何も言わないけど、彼女が指パッチンしたら吐瀉物は綺麗さっぱり消えて無くなった。

 うわ、魔法マジ万能。


 沈黙が流れる。

「昨日の事ですよね」

「……タイム」

 せっかく切り出したのに遮られる親友。不憫だ。

 徐に彼女はポケットに手を入れた。何が出てくるのかと思うと丸い包み紙、キャンディだ。

 それを口に入れ、更に十数秒沈黙が続く。


 大分気分も持ち直したところで、改めて辺りを見てみた。我が高校の屋上である。

 今年から屋上の扉は閉鎖されている。昨年、視角になりやすいここで授業サボる輩がいたからだ。城条まほ、目の前にいる少女である。

 まあ、魔法が使える彼女にとって鍵など意味をなさないのであろうが。


「では、照れ屋さんまほに代わって僕が事情聴取を始めようか」


 俺でもなく、城条でもなく、グリちゃんでも浩介でもない。兎のぬいぐるみが、まるで最初からいたと言わんばかりに自然にそこにいた。

「僕とまほは一心同体だからね。『最初からいた』も間違った表現ではないよ。ただ、視認出来るか否かの問題さ」

「兎さんが一心同体?」

 そう言えばあの時浩介はいなかった。昨日は電話で大まかな話はしたけどそこまで報告してなかった。大半は金欠という愚痴だった。

「そうか、ムキムキ君は知らなかったね。それと僕はラビトリアン・ウザハード、『兎さん』は失礼だよ」

「どう見ても兎やん」

「『うさ公』で十分」

 城条は足元をうろつく兎を捕まえて頭に乗せた。

「酷いなぁ、昔は『うさちゃん(ハート)』って可愛がってくれたのに。あの頃のまほは何処へ行ってまったんだい?」

「8年前の話を蒸し返すな」


 なかなかこの兎の相手は大変そうである。強ち「取り憑かれている」と言うのは本当かもしれない。


「ごほん、では呼び出したの僕らだし、先ずは魔法少女の事を話させて貰うよ。勿論その後は君達の話もね。事情は追々話すけど、君達が無害であると証明してくれないと困るのさ」



「地球時間にして9年前、僕は精霊族の犯罪者『闇の精霊』を追って地球に辿り着いた。

 自分の事を精霊って呼んでるけど、どちらかと言えば宇宙外生命体が正しいかもね。いや、『光の精霊』とか女の子騙し易そうだろ。しかし何で『光』イコール『正義』なのか僕としては疑問が絶えない問題だね。


 おっと話がそれたね。


 地球で、この町の上空で『闇の精霊』と一騎討ちをしたのさ。僕はこれでもエリートだったんだ。まほは長い間信じてくれなかったけど。


 結果は残念にも相討ちに終わった。僕は身体を休める場所を探した。必死だったね。と言って僕は本来肉体を持たないエネルギー生命体だから、入れれば何でも良かったのさ。

 そこで近くにあった建造物の中にあったぬいぐるみに入った。分かりやすく言えば憑依したのさ。

 そこまではよかったんだけど、目覚めたら1年経ってた。ちょっと寝過ごしちゃったとか思ってたら、緊急事態が起こった。ぬいぐるみから出られなくなったんだよね。


 仕方ないから暫く様子を見た後、精霊だのと設定を考えて部屋の主、まほに代わりに戦ってくれないかとお願いしたんだ。

 それからまほはずっと魔法少女やってるのさ」


 精霊と言うのは虚言らしい。後、お前はアホかっ!

 ぬいぐるみから出られなくなるって、確実にエリートのすることではないだろ。いや、宇宙人の常識は知らないけどさ。


「小学生の時から戦いを?」

「当時は直接的な戦闘はほとんどなかったよ。敵さんは秘密結社を立ち上げたからね。その調査が主だった」

 どちらにせよ、小学生の女の子がすることではない。

「3年前から急に動きが活発になったんだ。そして高校の入学式の1週間前に完全復活した闇の精霊と激闘を繰り広げたのさ」

「ウザハードさんは復活出来なかったんですか」

 おい浩介、こんな奴にさん付けはいらない。

「最初こそ出ようと頑張ったんだけどね。数年立つともういいかなと思っちゃってね。諦めてたんだ」

 ダメな奴だ。

「まほだけの力では勝てなくてね。そこで僕は閃いた。ぬいぐるみから出れなくても別の対象に移ることは出来るのではと。まほと合体出来れば100%のトキメキパワーが使えるかもと」

「…それが出来たから闇の精霊は倒せたけど、うさ公と別れられなくなった。後、髪がピンクになった」

 そこで久しぶりに城条が喋った。普段死んだ目をしている彼女だけど、心なし元気そうである。


 というか、本当に巻き込まれただけじゃないか。


「もうひとつ問題があるだ」


 曰く、彼女の力の源はトキメキパワーである。それは、美味しい、嬉しい、楽しい等正の感情を変換したものだ。使い過ぎれば気落ちする。絶望する。尽きれば死ぬ。

 闇の精霊を倒すのに彼女はそのパワーをほぼ使い切った。普通なら時間さえ置けば回復するのだけど、兎がいることによって常に馬鹿みたいにトキメキパワーを消費する。

 結果、城条まほはどうにかしてテンションを上げるか、唯一未だに心を動かされるお菓子を食べてないと生命の危機となる。


「もっと言えば、罪悪感とかを感じたら、テンションが下がる。つまりはトキメキパワーの減少、死にまっしぐらなわけだよ」

「だから、あんたら悪だと言うなら放っておけない」


 彼女はいつでも俺達を殺せると言わんばかりに飴をガリガリ砕き始めた。


「僕達が嘘を言う可能性はどうなんですか」

 浩介が質問する。

「嘘か本当かは割とどうでもいいんだよ。まほが納得出来るかどうかだ。納得するなら悪を放置している罪悪感は生まれない」

「じゃあ、僕達の話をします」


 そこから語られたのは浩介が異世界に召喚され魔王を倒すまでのストーリーだった。RPGさながらの、というよりそのままのありきたりとと言えばありきたりな物語である。でもそれを実際に体験した浩介の苦労は想像もつかない。

 後半は俺もよく知る夏休みの事件、グリード云々だ。


「なるほど、その辺は信じるよ。全部疑ってたら話し合いの意味がないからね」

 偉そうに頷く兎。

「ひとつ問題があるのは、グリードがこの世界に来たのと、闇の精霊達の力が強まった時期が被っていることかな」


 そう言えば、どちらも3年前のことだ。

 浩介がグリちゃんに何か知っているのかと聞く。


「うちは負の感情を吸収する存在や。必然的にそれが集まりやすい環境が周りに出来てしまうんやな。無意識やから止めようもない。ほんでもって、多分今もタイラの中で魔力を生産し続けてるんよね」


 解説ありがとう。

 浩介は兎も角、グリード、というか俺は全く無害ではない事が判明してしまった。


「僕が」


 浩介が兎を見すえる。

「グリードのせいで悪意的なものが集まるのなら、僕が全て倒します。それでどうですか」

 やたら男らしい。流石は勇者。

「まほに勝てない君に本当に出来るのかい」

 冷ややかな目線を送る兎。


 永遠にこのにらみ合いが続くかに思われた時、鍵がかかってるはずの階段への扉が勢いよく開いた。


 トモ姉があらわれた。トモ姉の先制攻撃。


 デジャヴ。


「タイラー!!」

「ぐへっ」

 毎度の場所を考えない胸へのダイブ。だが、コンクリに後頭部をぶつけた割りには痛くなかった。まるで地面がクッションみたいだ。


「まほ、リア充なんて助けなくていいのに」

 見ると、城条が若干辛そうな顔つきでいる。魔法で守ってくれたみたいだ。


「トモ姉、何でここに?」

「学校についたら屋上からタイラの声が聞こえたの」

 良い耳をお持ちで。

「あの、鍵がかかってませんでしたか?」

 と浩介。

「屋上の鍵って型が古いから簡単よ」

「開けたの!?」

 ここまで来ると何でもありである。


「今日はここまでかな」

 ウザハードはため息混じりに言う。お前、トモ姉に見られていいのかよ。

「此方の彼女も自由人みたいだけど、僕は精霊だからね。自由度が違うよ。見られたくない人には見えないのさ」


「ピンクに殴られなかった?怪我はない?」

 殴られるどころか助けて貰った。

「……あのさ」

 ピンク、もとい城条がトモ姉に聞いた。

「それって彼氏?」

 それ呼ばわり。

「まだ」

 予定はあるみたい。いや、まあはっきり返事しない俺が悪いんだけど。

「彼女でもないのに付きまとうとか、キモ」

 この女言いよった。割と皆思ってるけどトモ姉だから言えないことをおっさりと。トモ姉に喧嘩を売れる人間は内の学校でも城条ぐらいだろう。

 流石に怒るかと思ってるいると、トモ姉は怒るどころか声を出して笑った。

「甘い、甘々、甘ちゃんだよ」

「なんだってー、じえじえじえー」

 漸く俺から降りた彼女は起きるのに手を貸してくれた。兎が何か言ったが聞こえなかった。

「恋なんて押して押して押し倒すのみよ」

 貴女のは押し倒すというよりタックルである。

「気持ちは口か態度に出さないと伝わらない」

 ドヤるトモ姉。

「それに返事待ちだからね。今が最後のアタックチャンスなの」


 トモ姉には裏表がない。少なくとも俺はないと思う。

 誰に対しても自分の気持ちに素直である。素直でいられるだけの実力と経験がある。


「……何時から待ってるわけ?」

「もう少しで10年」

 城条はピクンと眉を動かした。


「へなれ」


 城条の俺への一言で説明会とも言うべき話し合いは解散となった。




読んで頂きありがとうございます。

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