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その6――魔法少女さん、後はよろしくお願いします

引き続き浩介視点です。

 城条さんを初めて見たのは高校の入学式の時でした。正確には式が始まる前の校門での事です。

 その日は印鑑を借りに実家に寄ってから登校したのでタイラとトモ姉とは別行動でした。

「タイラと違うクラスだったらどしようか」と我ながら元勇者らしからぬ事を心配しながら高校に着くと門の所で人だかりが出来ていました。


 何事かと「すいません」と近くにいた新入生らしい男に声かけると「ひいっ」と驚かれ、その声に反応した人たちが振り返り、僕を見るさま道を開けてくれました。

 何故ごついだけでここまで避けられるのでしょう。


 そこではピンクの髪をした女子生徒と髪も幸も薄そうなおじさんが言い合っていました。後に彼女は城条まほだと知りました。そのおじさんは教頭だとも知ることになります。


 僕としては早くタイラを探したかったのですが彼女がそうはさせてくれません。


「何か文句でもあるわけ?」

 目が合っただけでこの言われ様です。

「いや、凄い髪ですね」

 無視すればいいのに出来ないのはコミュニケーション能力が低いのでしょうか、高いのでしょうか。

「あんたも人の髪色に風紀がどうのこうの言うつもりなんだ。ひとつふたつ先に生まれたからって偉いとでも思ってるの?」

 めっちゃ睨まれます。無視するのが正解だった様です。先輩だと思われています。

「あの、僕は新入生なので……」

「え!?ため?」

 驚いている様ですがやっぱり睨まれます。

「……発育いいんだね」

 フォローしれくれました。全然フォローになってないけど。


 その後タイラが来たのでその場を後にしました。式には城条さんは出ておらず、帰らされたと聞きました。

 1年の時は彼女とはクラスが違ったので見かける事はあまりありませんでした。そもそも学校に来てない事がほとんどだったらしいです。

 見かけた時の彼女は常に目を吊り上げて、辺りを威嚇しながら歩いていました。

 彼女は笑った事がないのではと、割と本気で思っていました。ついさっきまで。


「町田、時間稼ぎありがとう。後は任せて」

 お礼を言われました。親切にすると「はあ!?」とガン飛ばしてくる城条さんにお礼を言われました。

「むむ、何か失礼なこと考えたでしょ。お仕置きしちゃうよ。ふふ、なーてね、冗談冗談」

 笑顔です。あの「歩く殺人鬼」と噂される城条さんが笑顔です。怖いです。

「いや、それは本当に失礼でしょ」


「くかかっ、貴様、邪魔立てするつもりか」

 城条さんの変わりっぷりが激しすぎてアデルの件を一瞬忘れてました。これではタイラみたいです。

「私としては正直どっちに転んでもよかったんだけどさ。あんたのタイムオーバーって感じ」


 城条さんは右手突きだします。


「マジカル神器召喚」


 彼女の手元に魔方陣が浮かびます。

 転移や召喚といった空間魔法は難易度が高いうえ、馬鹿みたいに魔力を喰います。先程は魔力切れと言っていたのにもう回復したようです。特別な方々があるのでしょうか。


「くかかっ、ファイアーボール」

 すかさずアデルが魔方を放ちますが、城条さんは手元に現れた武器でそれを打ち消しました。そう、バットで。


 彼女はホームラン宣言という無駄な動きをしてからアデルへと跳躍します。降り下ろされたバットをアデルは刀でそれを止めます。一旦距離をとる魔法少女。バットには傷ひとつついていません。多分魔法で強化しているのでしょう。


 今度はアデルから接近します。

 至近距離での斬り合いが始まりました。いえ、片方はバットなので殴り合いでしょうか。


 なんだかアデルの動きが良くなっています。

 もしかすると異世界を越えた影響で本調子ではないのかもしれません。通りでさっきまで僕が対応出来た訳です。彼は「舐めプ」と言いましたが、実際は単に身体が思うように動かなかったのでしょう。

 それが今少し全快なろうとしています。


 理屈は分かりませんが世界を移動すると言語補正やその他の能力が手に入ります。

 その彼が本気になったら……


「城条さんっ、彼はまだ全快ではない今の内にとどめをっ!!」


「え?今何か言った?」


 僕は彼女らの戦いから距離を取っています。僕の声が聞きづらいのも分かります。

 ですが生死をかけた戦いの中で振り向きますか?


 僕からの信頼を返せ!


「くかっかっか」


 案の定というか馬鹿というか、アデルの持つ刀が彼女の胴に決まりました。

 しかし驚いた事に、アスファルトさえ豆腐の如く切り裂く一撃は、魔法少女のコスチュームに傷ひとつ付けられませんでした。


「全年齢対象の魔法少女の衣装はね」

 場違いにも笑顔を魅せる少女。

「綺麗でも斬れない」


「ならば、これでどうだぁ!!」

 アデルの足元に一際大きい魔方陣が浮かびます。それはファイアーストーム、上級魔法です。その炎の渦がほぼ零距離で城条さんを包み込みます。


 全盛期の僕が喰らっても戦闘離脱を考える威力です。

 が、それでも無傷な城条さん。


「萌えても燃えない」


 理論になっていない事をさも当たり前に言う少女です。

 因みに一応にここは「R15」付きなので貴女は全年齢対象なのか微妙な所です。


「ではアドバイスに従いこれがとどめ」


 彼女は一瞬にして数十メートルの距離を取り、そして徐に胸の前で手を合わせました。

「我が右手に燃える愛よ、左手に溢れる友情よ」

 右手は赤く左手は白く輝きだします。


「お口に宿るパフェたちよ」

 パ、パフェ?

「乙女チック!マジカル光線!!」

 合わせていた手を前に掲げるとネーミング通りの光線が発射されました。


「う、動けない!?」


 アデルは十分に避ける事が出来る程の距離がありながらその場を離れることをしません。


 そして――

「魔王様の仇がっ、くかかっ、くか、か、かかぁああ゛あ゛!!」

 彼は光線、光の束に飲み込まれ膝から下を残して消失しました。

 何度見ても命が消える瞬間は正直気持ち悪いです。


 意図も簡単に決着が着きました。

 アデルのことを「強い」「敵わない」と散々言っていた自分が恥ずかしい程にあっさりでした。

 魔王でさえも彼女の前では赤子同然ではないでしょうか。勿論僕も。


 僕は異世界で多くの頂上現象を目の当たりにしてきました。ですので大抵の事で驚いたりすることはありません。そう思っていたのですが、「有り得ない」と呟いてしまいました。


 城条さんを中心に虹色の光が広がります。その光に当たった物が元通りになっていくのです。斬られた柵もアスファルトも上級魔法により焼け焦げたベンチ諸々が、まるで最初から戦闘等なかった様です。


「トキメキパワーは魔力とは似て非なるものだからね」


 いつの間にか足元に精霊を名乗る兎がいました。


「トキメキパワー?」

「彼女の魔法の源さだよ。『想い』をエネルギーに変換したものなんだ。トキメキパワーが溢れ出す時、魔法少女は世界のルールとなり得るのさ」

「あの光も……」

「そうだね。魔法少女が戦った後は元通りになる。魔法少女の服は無敵素材。魔法少女の必殺技からは逃げられない。まほの偏ったイメージ。でも今はこの瞬間はそれが常識なのさ」


 どうやら彼女は僕が思っていた以上に規格外です。


「タイラは無事なんですか?」

「懐以外はね」

「どういう意味――」


 その時、ぶつんと、まるでテレビの画面を消した様に神々しささえある光が途切れた。

 その中心にいるのは魔法少女ではなく、ピンクの髪をストレートに降ろしバットを持ち、辺りを威嚇する狂暴な目付きの普段の城条まほがいた。


「修復作業ご苦労様」

「ケーキがなかったら足りなかった」

「へぇ、僕の欲張りが役に立ったんだね」

「調子に乗るな、うさ公」


 バットをその辺に放り投げた彼女は息を切らした様子もなく近づいてきます。


「ムキムキ君、君達の件は明日改めて聞くよ。少しだけ自称妖精の彼女と話したけど、急を要する問題でもないみたいだしね」

「分かりました」


 休戦状態は延長ですね。


「ありがとうございました。僕では彼には勝てなかったでしょう」

「気にしなくてもいいよ。話を聞きもせず攻撃した事への罪滅ぼしと思ってくれても結構さ。まほは照れ屋さんだからこれでも反省して、ぐえ」

「煩い」


 少女が兎のぬいぐるみを踏みつけています。グリグリしています。その内某アニメの5歳児の友達の如く、耳を掴んで腹パンしだすのではないでしょうか。


「感謝はいらない。それに、あんたはあんたで奥の手があったんでしょ」


 あれ、バレてましたか。伏線たる文章は無くともその仕掛けは魔法少女から逃げつつ発動していました。


「その辺りは疑うことを知らなそうな彼とは違うんだね。絶対詐欺に引っ掛かるタイプだよ」

 踏まれつつも兎は話します。

「タイラですね。その純粋さこそ彼の長所です」


 確かにそれは危うさがあります。人に騙される事なんて日常茶飯事です。ですがそれが彼だったからこそ、僕とタイラは親友足り得るのです。その性格は悪意の的になるだけとは限りません。人を救う力が有るのです


「信頼してるんだね」

「親友ですから」

「……」


 あれ、なんでそんな冷ややかな目で見るんですか?


「あっちゃああ、これは確定だよ。群の最後にハートマークのデブが歩いてるぐらい確定だね」

「何を言ってるんですか」

「気にしなくてもいいよ。ぷぷ」

「同じ台詞なのに悪意を感じる!?」


 こうして、魔法少女やアデルに対する謎を残しつつも僕は生き残る事ができたのです。



 ――その夜、動物園跡――



 月明かりだけが辺りを照らすその中で男は拳を握りしめた。

「目の前に勇者がいながらに……」

 アデルだ。


 彼は異世界で不死族最後の生き残りだった。不死と名の付くだけあって、その回復力は目を見張るものがある。さらにその能力は世界を越えた事により強化されていた。

 例え身体の大部分が消えようとも死なない。死ねない。


「大した生命力ですね」

「誰だ!?」


 そこには仮面を被ったピエロの風貌をした男いた。勿論サーカスを知らないアデルはそれがピエロだと思うことはないが。


「先程戦われた魔法少女のストーカーですよ」

 ピエロは「ホホホ」と笑う。


「盗み聞きをしてしまったのですが、異世界から来られたとか。どうです?暫くお世話をさせて頂けませんか」

「何が目的だ」


 アデルの回復能力は肉体のみであり、その装備はその限りではない。

 刀を失った彼は両手を顎の高さに持っていきファインティングポーズをとる。


「少しだけ貴方のお力を貸して貰いたいだけですよ。そう、ほんの少し」

 軽快に話しつつも歩き回るピエロだが、アデルの間合いに入ることはない。


 その後2、3言葉を交わしアデルは一先ず警戒を解いた。

「世話になる」

「どーぞどーぞ」


 ピエロとアデルは暗闇の中に姿を消した。


 アデルが再びタイラ達の前に立ちはだかるのは、まだ大分先の話である。





読んで頂きありがとうございます。

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