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その2――勇者さん、買い出しお願いします

 

 ――2ヵ月前――



「親戚のお兄さん曰く、高校生は2年生が一番楽しいらしい。1年は先輩立てなきゃだし3年は受験や就活で忙しくて遊べない」

「2年生からある程度の進路指導は始まりますけどね」

 俺のためになる話の揚げ足を取るのはマッチョさんこと浩介である。

「まあ、聞け。これを言われたら普通は『就活まで1年あるし遊ぼうか』とこうなるだろ」

「『普通』はなりません」

「だが俺は実は深い意味があるのではと考えた」

「何か分かったんですか?」

「つまりは就活の存在を忘れるのではなく、それを意識した上でリラックスのために遊べという事だ。猶予期間なわけだ。そうすると不思議と『後悔のない様に遊ぼう』と遊びに対する集中力、本気度が変わってくるのだ」

「言い方が微妙に違うだけでなにひとつ意味が変わってません。あえて聞くならどれくらい考えたので?」

「3日3晩」

「その時間、まだ遊んだ方が増しでは!?」

「そんな事言うなって」

「それで何が言いたいんですか?」

「ボーリング行こうぜ」

「馬鹿ですかっ!?」


 マッチョに罵倒された、涙が出ちゃう。


「しくしく」

「可愛くないです」


 現在俺と浩介は浩介の部屋にて絶賛勉強中である。

 明日からの学期末試験で赤点を取ると、夏休みの半分が補修で埋まってしまうのだ。

 浩介はこの成りでそこそこ頭がいい。

 しかし俺は毎回赤点ギリギリだ。



「それが分かってるなら勉強してください」

「補修受けてもさ、死ぬわけでもないじゃん。去年も結局は補修する羽目になったし」

「文句は夏休み中親戚の海の家を手伝う約束してきた誰かさんにいってください」


 どうやら原因は全て俺にあるらしい。


「もう、バックレればよくね?」

「トモ姉に僕が殺されます」


 トモ姉はひとつ上の幼馴染みで、一緒に海の家を手伝う約束をしている。

 浩介はトモ姉から俺に赤点を取らせるなと厳命されている。彼女は基本的に誰にでも優しいのだが、浩介には厳しい。最早憎んでるレベルである。とは言え、俺たち3人は幼稚園からの仲だし、なんやかんや言いつつ根では嫌ってないと思う。多分。


「俺ら同じクラスなわけだし、上手いことカンニングできないかな」

「実力で点数取れない前提で話さないでくださいよ。それは最終手段です」


 どうやら手段のひとつとしてはあるみたいだ。

 彼も必死だ。どんだけトモ姉が怖いんだよ。


 無駄口叩きつつも勉強を始める俺たち。



 ――ダレてきたので話を巻こう。



 日は沈み、辺りが暗くなりだした。

 公平なじゃんけんの結果、浩介がコンビニに夜食の買い出しに出掛けていった。


「浩介の部屋」と前述したが、浩介はここ築40年木造アパートの2階の一室で一人暮らしをしている。本人が言わないので詳しくは知らないが家庭の事情らしい。



 まあ、親友はどうあっても親友だからその辺の事情はどうでもいい。相談されたら改めて考えればいいだけだ。

 それより今重要なのはベットの下だ。

 そう、皆が大好きエロ本である。


 浩介は一人暮らしなのにその手の雑誌類をベット下に隠している。

「ベットの下って隠した内なの?」とつっこみが入るかもしれない。だが彼は隠しているつもりなのだ。なぜなら彼はその手の話をあまりしない。というか避けている。部屋に俺を招いた時も然り気無くベット下が見える角度に近付けさせない。

 とは言えバレバレなので彼がいない時は漁らせてもらっていた。コスプレものを中心にマニアックなのが数冊積まれている。ジャンルは似たり寄ったりでも来る度新冊に入れ代わってので知的好奇心を擽られるのは仕方がない。


 言い訳終了。御対面である。



「……」


 ベット下を見るとエロ本があった。その上に、紫色のドレスを着た20センチくらいのナイスバディーな女性いた。当たり前の様に彼女のサイズのタバコを片手に一服してる。


 やがて、彼女も俺に気が付き「しまった」と声をあげた。

「ちょいとお兄さん、うちの事は見んかった事にしてな」

 そしてエセ関西弁で話しかけてきた。

「……ていうか、お前何者?」

「なんなんそれ、お姉さんに向かって『お前』って、態度でかないか?」

「あ、ごめん…なさい」

 自分より小さい存在に対して上から目線になるのは人の心理なのかもしれない。

 近づいてきた彼女は北欧系の顔立ちで美人さんだった。これで人間大だったら何としても連絡先をゲットしたくなったことだろう。しかし彼女は人間ではなかった。


「うちはエロ本の妖精やねん」


 それでそんな良い身体をお持ちで。


「ここに妖精がおるのは家の主人には秘密やねん。ばれたら、減俸されるさかいな」

「妖精って雇われてるの!?」

「せやで、けどうちは派遣社員やねん。せやから正社員に比べたら色々不利やし、頑張らなあかんねん。世知辛い世の中やわぁ」


 言いながら彼女の手には何処から出したのか携帯灰皿が握られていた。マナーある喫煙者らしい。

 タバコの始末をした彼女は胡座をかく俺の太股に座った。そこまで来るのに然り気無く羽もないのに飛んだのは流石妖精さんだ。


 小さいとは言えズボン越し伝わる柔らかい感触に胸の高鳴りを覚えたのは秘密である。


「俺に見つかったのはいいの……ですか?」

「うーん、グレーゾーンやね。まあ、これでどうにかなんやろ」

 右手の親指と日指さし指で輪を作る彼女。

「お役所仕事ゆうても結局は金やねんなこれが」

「本当に世知辛い」

「ほんまにな。うちかてもっといい仕事就きたいんよ」

「例えば?」

「森の妖精とかやな。この職種は管理しとるもんのサイズでお給料決まるねん。うちなんて見てみ、あの数冊のエロ本に生活左右されとるんや。泣きたくもなるわ」


 およよと芝居のかかった泣顔をする妖精さん。

 はい、ドキッとしました。


「森の妖精の奴らはな、金に物言わせてフリーの妖精雇って、自分らは海外で遊び回ってんねん」

「俺、妖精が何なのか分からなくなってきたよ」

「詳しくは禁則事項やねん」


「ってな訳で」と彼女は立ち上がった。


「うちの事は黙っとってほしいねん」

「ああ、はい、わかりました」

 断る理由もないし、あの真面目な浩介に話した所で信じて貰えないだろう。

「ありがとう!なら、うちの精一杯のお礼せなあかんな」


 薄い本に有りがちなイベント来た。

 流石はエロ本の妖精さん。


 彼女は「ちょい待っとってな」とベット下に戻っていった。


 妖精さんは小さい。しかしそれは物理的な話であって、尺を伸ばしたとしたら大人の女性である。断じてロリではない。セーフである。


 胸を踊らせて待っていると妖精さんが包み紙を抱えて戻ってきた。


「うちの今晩のデザートにしよ思てた饅頭やねん。ここの主人がおいしそうに食べてるさかい、思わず1個頂戴したねん」

 デザートは妖精さんでないうえ、精一杯のお礼と言いつつ盗品らしい。妖精的にどうなのだろうか。

 そして減俸を恐れてる割りに隠れる気がない様だ。


「じゃあ、いただきます」


 まあ、浩介に何か言われたらちゃんと説明すればいいか。


 俺はそれを受け取り、シンプルに饅頭とだけ印刷された包装紙を破いた。中からは焦げ茶色のいかにも饅頭らしい饅頭が出てきた。


「味わってねん。うちの『とっておき』やから」


 俺は饅頭を口の中に放り投げた。





 ―― ―― ――





「……あれ」


 気が付くと目の前に白い天井見えた。

 いつの間にか寝ていたみたいだ。


 見馴れないベット。病院?


 身体の痛さを感じつつ左右を見るとトモ姉と浩介が素っ頓狂な顔をしていた。


「タイラァァァァ!!!」

「ぐがぁあ゛がっ!!」


 我に返ったトモ姉がダイブしてきた。ハグしてくれた。頬擦りをされる。それは嬉しい。ただ全身に激痛が走る。節々が焼けるように熱い。


「タイラっ!タイラタイラタイラタイラー!!」

「ぢょ、トモnぎゃ、やめぐう゛」



 あ、ヤバイ。意識飛びそう。

 おじいちゃん、今会いに行きます。



「あの、トモ姉、それくらいに…」

 ナイスだ、親友。

「はっ、タイラごめんね」

「はぁはぁはぁ、だ、大丈夫だよ」

 彼女は漸く俺の上から降りてくて、乱れたブラウスとスカートを整えいる。なんか色っぽい。


 痛みはあったが意識は一周回ってはっきりしてきた。怪我の功名である。


「それ微妙に使い方違いますから」


 トモ姉は世間では完璧少女として知られている。

 容姿端麗でスポーツ万能、全国統一学力テストでトップ10に入る天才ぶりである。

 しかし今はいつもサラサラした綺麗な黒髪は乱れ、ツルツルモチモチの肌は荒れ放題。目元は赤くなっている。モブAと化していた。


 余程俺の事を心配してくれたらしい。

 素直に嬉しいと同時に申し訳無く思う。


「先生呼んでくるね」

 目が合うと、彼女は照れたように部屋を出ていった。


「意外とトモ姉って胸あるよな」

「日本人の平均的な大きさだと思いますよ。その話を今しますか…」


 おいおい親友、そんな目で俺を見るなよ。地球上、全オスの本能だろ。


「胸に欲情するのは人間くらいです」

「マジで!?」



 ――10分後――



「マジだった」

 思わず浩介に借りたケータイを落としてしまった。それが腕の痛みの為か、心に刻まれた傷の為かは俺自身分からない。

「なんだか人間が下等生物に思えてきた」

「ソーデスネ。ところでタイラはあの時のこと、どれくらい覚えてますか」

「流すなよ、大事な事だぞ。もしかしたらこの事実を知った青少年が絶望して人の道を踏み外してしまうかも――」

「っなことあるわけないでしょ!」


 浩介、興奮して血管が浮いてきてるよ。落ち着こう。話せば分かる、人間だもの。


「だいたい何なんですか!?どうでもいい会話が多過ぎなんですよ。4000字使ってこの中身の薄さってどうなんです!?薄いどころかないでしょ。このままだとエタりますよ。断言します。この調子だと必ずエタります。タイラもタイラです。何で胸の話を引っ張るんですか!?10分経過とか『何故に医者がこない?遅くね!?』って皆疑問だよっ!後、もっと自分に関心もてよ。明らかな身体の異常事態より胸が優先順位高いなんて誰も共感できねぇよ!!」


 親友とはいえ、このマッチョに迫られると普通に怖い。ガクブルである。


「口調が乱れてるよ。それとメタ発言も程々に――」


「誰のせいだぁああああ!!」

 浩介の咆哮は病院中に響き渡った。


 その後漸く来た医者と看護師とトモ姉にしこたま怒られたのは言うまでもない。浩介が。






お付き合い頂きありがとうございました。

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