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その10――魔石さん、任せました

 そこは何処かの会議室だった。ぐるりと円上に置かれたテーブルやイス、その真ん中に俺は立っていた。壁にはホワイトボードが取り付けられている。電灯が光続けるそこには窓が存在していなかった。

 目の前には仮面を被り、ピエロの風貌の男がイスに座っている。

「ホホホ」

 男は不気味に笑う。

「私は悪魔仮面。会えて光栄ですよ、グリードさん」

「ぷっ、悪魔仮面やって」

「突然呼び出して申し訳ありません。どうしてお頼みしたい事があるんです」

 グリちゃんは隠さず笑い続ける。どうやらツボに入ったらしい。

「単刀直入に言いますと仲間になりませんか?」

「同人誌でも作るんか?」

「エロ本の妖精の設定を引っ張り出すなよ」

 さっきグリちゃんに最近の俺は楽観的過ぎる様なことを言われた。しかしグリちゃん、お前には言われたくない。


「魔法少女ファンクラブにぜひとも入会して欲しいのです」

「ほら、やっぱり同人誌関係や」

「魔法少女を全て薄い本の存在に考えるな!」


 おい悪魔仮面、ネタか!?ネタだよな!そんな事のために俺は気持ち悪い思いをしてここにいるのか。

 続けて2度目の転移だっただけに吐くことはギリギリ耐えたが胃液はしっかり口まで上がって来た。


「入ってくださるのでしたら新たな肉体を用意させて頂きます」

「どこまでうちの事知ってるんや」

「色々知ってますよ」


 答えになってない。しかしどちらにしてもグリちゃんを誘うメリットが分からない。


「魔法少女が最も美しいのは何時だと思いますか?」

 グリちゃんは胸をぼよよんと張り自信満々に答えた。

「主題歌に合わせて踊ってる時や」

「それはアニメの話だっ!」

「ピーーしてる時」

「それは薄い本の話だっ!」

「売上が伸びて二期が決まった時」

「それは製作者側の話だっ!」

「戦ってる時」

「それは――」

「いや、それで正解です」

 悪魔仮面は諭すように言う。

「魔法少女は戦ってる時こそ美しい」

 悪魔仮面は一息間をおいて続けた。

「そのためには、敵が必要なんですよ。強大なね」

「わざわざ魔法少女倒されるなんてごめんやで」

「正確に言うと欲しいのは、グリードと言う箔です。ですので勿論安全第一で結構です」

 グリちゃんはフムと頷いた。

「あんたは何者なんや?」

「魔法少女ファンクラブ会長にして、城条まほのストーカーです。ホホホ」

「「変態だっ!!」」

 俺とグリちゃんの声はシンクロした。

 ストーカーなら盗聴等はお得意なのかもしれない。だからグリちゃんの事も知っていたのか。

「で、どうでしょう?」

 悪魔仮面の質問に対して彼女は首を横に振った。

「勘違いせんといて。うちは今の環境で満足してるんや」


 それは彼女の本音なのだろうか。

 事あるごとに「封印解け」と言う人とは思えない発言だった。


「くかかっ」

 ドアが開いたかと思うと先日聞いた不気味な笑い声がした。

「交渉決裂なら斬っていいか?グリードが欲しい」

 あの時のイケメン紳士風の魔族アデルだ。生きていたらしい。


 ヤバそうな人たちに挟まれてしまった。しかもこいつらに必要なのはグリードだけであって俺ではない。俺を生かしておく理由がないのだ。

 本当にどうしよう…


(タイラ)


 その時グリちゃんの声がした。いや、頭に直接聞こえた感じだ。

(黙ってよく聞き。単刀直入に言うで、封印を解いてや)

 どういうつもりだよ。

(どうもこうも、あんたこんなわけ分からん所で死にとうないやろ)

 確かにこの状況を生き抜くには単純に力がいる。魔法を使う相手に生身で勝てるはずもない。

 しかしこの場を切り抜けた後は――

(あんたに身体をちゃんと返す)

 信じろって事か。

(トモお姉さんに誓うわ)

 何で彼女に?

(うちはあれが怖いんや。あんたの身に何かあったら、ただじゃすまないからなぁ)

 トモ姉は一般人だ。

(そう、一般人であり一般人でない。浩介や魔法少女に比べて遥かに弱いのに強い)

 どういう意味だよ。


「くかかー」

 アデルが刀を大降りに構え突進してくる。


(タイラの意志次第や。あんたがうちに魔力を受け渡す。その意思表示さえしてくれたら、後はうち自身で封印を解ける)

 ………グリちゃん。

(なんや?)

「助けてくれ」

 彼女はニヤッと笑った。

「任された」


 その瞬間俺の左腕が天高く舞った。肩から血が噴水の如く吹き出る。

 だが痛みは感じない。


「いったいなー」

 俺の声が俺でない意志で喋る。

「お返しやっ!」

 俺の身体が右手をアデルに向けると無数の光の粒が浮かび彼を襲う。

「ぐがっ!?」

 攻撃が終わるとそこには穴だらけになったアデルが残った。そこにあったはずの椅子やテーブルは影も形もない。


「これは少々意外ですね。彼がグリードさんに肉体を渡すとは」


 身体は完全に俺の指示では動いてくれないみたいだ。まあ、今は何かしたら邪魔になりそうだけど。


「せーの、えいっ」

 俺の声で……ややこしいのでグリちゃんと呼ぼう。グリちゃんは気の抜ける掛け声をかけると先のなくなった肩から左腕が生えてきた。身体があった吐いてるだろうグロ場面である。


「それが無限の魔力の恩恵とやらですか。でも再生能力なら彼も負けてないですよ」

 いつの間にかアデルに開いた穴が塞がっていた。これが不死か。異世界は何でもありなのだろうか。


「どーん」


 グリちゃんが叫ぶと同時にアデルの上に巨大な岩が召喚された。そのままグシャッと彼を潰す。床に赤い液体が広がっていく。


「潰されとったら、どういう風に復活するかな~」

 楽しそうな口調のグリちゃんである。

「容赦ないですね。ますます欲し――」

 最後まで言い終わる前に悪魔仮面の首が吹っ飛んだ。血渋きが上がる。

「勝ったどー!なんつって」


 このグログロな状況でふざけるな。俺がサイコ野郎みたいだろ。


「分かってるって。では、ワープっ!!」

「ホホホ」「くかかっ」

「!?」

 急接近してきたアデルと悪魔仮面によって、折角生えた俺の両腕は再び空中を舞った。

「ちっ」

 グリちゃんの周りにバリアが張られ、2人は弾かれた。


 おい、何で避けなかったんだよ。


(無茶言わんで。元はあんたの身体なんやから、反射神経とかはそのままなんや。後、あんたの脳のスペックだと2つ以上の魔法の同時発動は無理)


「くかかっ、流石に対応されるか」

「ふむ、腕を治さない辺り魔法は1つずつしか使えないんですか」

 バレバレである。ちなみに悪魔仮面の首は跳ねられたままだ。普通に喋ってるけど。身体の方は血を滴ながら動いている。

(思いの外回復が速かったわ。仮面の方は想定外や。うちも地球の常識に囚われてしもうたんかもしれんな)

 グリちゃんが焦っているのが分かる。両肩からは血が流れ続けている。

「我々も手荒なことはしたくないんですよ。仲間になりませんか」

「ふん、お願いするなら土下座のひとつでもするんやな」

 虚勢を張るグリちゃん。

(このままだと血が足りんくてタイラが死ぬ。浩介達が助けに来るのを信じて耐久レースするのと、バリアを解いてうちらがワープするのが速いかこいつらの攻撃が速いか勝負するのどっちがいい?)

 俺にきくの!?さっきの「任された」とか言うカッコいい台紙はどこ行ったんだ。

(……ごめんな)

 え、何謝ってるんだ。

「死なばもろともー」

 おいおい、なにする気!?


 周りを覆っていたバリアが解けたのが分かった。それと同時に悪魔仮面とアデルが飛び付いてくる。こいつらの反射神経どうなってるんだか。



 そして俺の身体は大爆発した。





 ――動物園跡――


「いや~、死ぬかと思ったわ」

 呑気な事を言ってるのはグリちゃんである。

「ま、実際生物学的には死んだんやけどな」


 あの時、迫る二人に対してワープするのが間に合わないと判断した彼女は自らを爆発させた。急いで肉体を回復させた後ここにワープしてきたのだ。


 と言うか最初からそうしろよ。

「あの程度の状況を脱する方法なんて色々あったで。ただな、無理するとあんたとうちの魂の結び付きが深まるんよ。最悪タイラの意識が消える」

 迷った結果、あれが一番リスクが少なかったとグリちゃんは続けた。


 そういや、何でここに戻って来たんだよ。あの2人に見付けてくださいと言わんばかりだろ。

「お迎えや」

 浩介たちとここで落ち合う手筈なのか?

「いや、ほら来たで。彼女のや」


 確かにうちの高校の制服を着た女の子が近づいて来ていた。身長は俺より少し低いくらいで綺麗な黒髪を肩まで伸ばしている。顔立ちは下手なモデルよりよっぽど美形だ。


「…もしかしてグリード?」

 数歩の距離まで来ると女の子は口を開いた。

「そうや。あ、勿論タイラの魂には傷ひとつ付いてないで」

「本当に?」

「だ、大丈夫やって」

 第一印象から想像もつかない眼力で睨む女の子。グリちゃんに冷や汗が流れるのが分かる。


 この人は誰なんだ?俺の事を知ってるみたいだけど。


「よく聞き。この人はトモお姉さんや」

「タイラ……」


 トモ姉を騙る女の子は寂しそうに苦笑いを浮かべた。








読んで頂きありがとうございます。

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