誰のための人生か~シャイル目線~
少し前に浅い眠りから目を覚ましたシャイルは、指輪を握りながら肩を震わし泣いているアルフォンスを静かに見つめていた。しばらく見つめていたが、一度ぎゅっと目を閉じると意を決し口を開いた。
「アルフォンス。」
突然呼びかけられ、びくっとしたアルフォンスは背を向けたまま指輪をそっと隠し涙を拭うと、何もなかったように振り返り返事した。
「シャイル起きた?僕も眠くなってきたから、君も家に帰って寝なよ。」
「アルフォンス。」
「何?」
「行け。」
シャイルの言葉にアルフォンスはびくっとしたが、にっこり笑って答えた。
「じゃあ先に寝るよ。君も早く家に帰るんだよ。」
そう言うと、アルフォンスは寝室に歩き出そうとした。だが、シャイルは立ち上がり、その前に立ち止まるともう一度言った。
「行けよ。」
「だから、今行くって。シャイル酔ってるの?」
笑って誤魔化すアルフォンスに対し、真剣な顔をしたシャイルはもう一度言った。
「エミリアに会いに行け。」
「は?」
一瞬にして表情を変え怒りさえ見せたアルフォンスは、深くため息をつくともう一度にっこり笑って言った。
「行かないよ。もう二度と会わない。」
「なぜ?」
「なぜって、そういう約束だし。」
「なぁ。なんで当人同士の気持ち置き去りにして、勝手に周りが決めるんだろうな?」
「は?」
顔をゆがめてシャイルを見つめるアルフォンス見ながら、シャイルはただまっすぐ目を見ながら言う。
「だって、お前ら愛し合ってるだろ。しかも身分も全く問題ない。ましてや婚約者だったわけで。」
「だから、あんなことがあって婚約破棄になったんだろう?今更シャイル何言ってるの?」
「いや。お前もエミリアも周りに従って生きすぎじゃないか?だってお前らの人生は、お前らが決めるものだろう?」
「は?でも僕は王族だ。だからこそ、この国のために生きなければならいのであって。」
「だからそれが、エミリアと会わないのと何が関係あるんだ?お前がこの国のために生きるのと、エミリアと結婚したら駄目なのとどう関係あるんだ?」
「後継ぎのこともそうだし、エムの体調面もそうだし・・・。もうエムは王族と関わらない方がいいんだ。」
「エミリアがそう言ったのか?」
「シャイルは何が言いたいんだよ!」
そう言い声を荒げる、アルフォンスをただシャイルは静かに見つめて言った。
「いや。お前とエミリアが何故もう二度と会ったらだめなのか考えてみたんだけど、理由がいまいち分かんねぇんだよな。だって、陛下とディアンがそれを決めたんだろう?当人同士の気持ちを置き去りにして。なぁ。今回のリーリアの件も、お前たちが今後どうするか決めるべきだったんじゃないのか?」
「何?今更何が言いたいわけ?」
「だって婚約者だったんだぞ?エミリアは必死に王妃教育を受けていたのに、あんなことになってしまって。なぁ。お前が最後までエミリアを守るべきだったんじゃないのか?手を離したら駄目だったんじゃないのか?」
「シャイルに何が分かる!もう二度と顔を見たくない。憎い。って言われたこの気持ちが分かるのか?もうエミリアの気持ちは僕になんてないんだ。それならば、愛する人を自由にしてあげることが僕の唯一出来る最後の贈り物だってどうして君が理解してくれないんだ!」
そう言いシャイルの胸倉を掴んだアルフォンスの両手を振り払うと、その右頬を殴った。
「分かんねぇよ!あいつお前のこと全力で愛してただろう?その言葉一つ二つがなんだ!表情一つとっても、未だにお前を愛してるって語ってるだろうが!何で、それにお前が気づいてやれねえんだよ?両親が亡くなって不安定になったあいつの手をずっと離さず側で見守り続けてきたんだろう?最後まで責任持てよ!」
「は?今更何なんだよ!今更何を言い出すんだよ!どうしてそんな残酷なことを言うんだ!」
そう言うと、アルフォンスはシャイルの右頬を殴った。
「お前がいつまでもうじうじしてるからだろう?エミリアのことが、もうどうにでもならないと思うなら、この状況をさっさと受け入れて、そうやって苦しんでるところを俺に見せるなよ!」
「普通にふるまってるだろう?僕は、頑張って受け入れてるだろう?どうしてそんなこと言うんだよ。どうして、一番僕の気持ちを理解してくれるであろう君がそんなひどいことを言うんだよ・・・。」
そう言うと、アルフォンスは床に座り込んだ。そんなアルフォンスと目線を合わせると、シャイルもしゃがみこんだ。
「アルフォンス。あいつには両親たちを亡くした時に出来た穴が心にあるだろう?お前を失えば、それ以上の穴があいつに出来ることを忘れるな。それはディアンには絶対埋められないんだ。お前が今苦しんでいるように、あいつも同様苦しんでるに決まっている。」
「・・・。」
「なぁ。俺のためにも、エミリアと一緒になってくれないか?」
「え・・・?」
「俺・・・。お前が思ってるよりずっーと、エミリアが好きなんだ。初めて出会った日から、ずっと特別で・・・。とにかく大切で・・・。俺にとって世の中で唯一女性に見えるのはあいつしかいないんだ。お前だから諦めたわけであって・・・。お前の苦しみも、エミリアの苦しみも理解した上で言ってる。お前もエミリアも俺と違って、家のために全て犠牲にしてきただろう?だから俺・・・。お前ら二人出会わせたのは、お前ら二人への神様からのプレゼントだって思ってるんだ。お前ら二人出会うべきして出会ったんだよ。なぁ。周りがどうこうの言うのなんて関係ないだろう・・・?お前らの人生はお前らが決めないと・・・。たった一人愛する女性を守れなくて、国民守れんのかよ?周りの言いなりになってて、そんなんで国王になれるのかよ・・・?お前にはエミリアしかいないように、あいつにもお前しかいないってどうしてお前が気づかないんだよ?」
そう言い静かに泣くシャイルを、アルフォンスも泣きながら見つめた。
「お前ら二人のためになら、俺何でもするから。俺ら幼馴染だろ?お前らが俺のことを大切に思ってくれてるように、俺だってお前らのためなら何でもできるんだよ。だから、そんなに苦しまないで早く会いに行ってくれ。頼むよ・・・。」
「・・・。」
「手紙、王妃様からもらったんだろう?あいつの本当の気持ち書かれてるんじゃないのか?あいつ意地っ張りで素直じゃないから、手紙じゃないと本当の気持ち伝えられないの知ってるだろう?早く読んでやれ。あいつの本当の気持ち、はやくお前が理解してやらねぇで誰がするんだよ?」
そう言うと、シャイルは泣きながら立ち上がり机の前に行くと手紙を取り、へたり込んでいるアルフォンスに渡した。
「シャイル・・・。」
「大丈夫だ。絶対その手紙には、本当のことが書かれてるから。そんな不安げな顔するなよ。いいか?本当のことっていうのは、あいつがどれほどお前を愛してるかてことだよ。」
シャイルの言葉を聞いたアルフォンスは、震える手で手紙を開いた。すぐに表情を変えたアルフォンスは、読み終わると手紙を握りしめながら部屋を飛び出して行った。
「俺のために、お前ら早く一緒になってくれ。じゃないと諦めつかないじゃねーかよ・・・。」
そう言うとシャイルは静かに涙を流した。
―神様なんて信じてなかったけど、どうかお願いします。あの二人を引き離さないでください。―
シャイルは両手を組みただ祈った。泣きながらただ祈ることしかできなかった。アルフォンスにひどいことを言ったのも分かっていた。それでも、あの二人を引き裂いたら駄目だと心から信じていた。




