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ブルドン兄弟の昔話1~シャイル目線~

「なぁ、シャイル。変なことを聞いていいか?」オースティンが沈黙を破って口を開いた。


「何だよ?」


「どうして、エミリアのこと好きになったんだ?」不思議そうにオースティンが言う。


「何だよ急に。」


「いや。俺な、殿下とお前が不思議でたまらないんだよ。だってあのエミリアだぞ?今は国一番の美姫とか言われているけど・・・。俺はどうしても、昔のエミリアが頭によぎるんだよな・・・。」


そう言うとオースティンは笑いだす。


「あいつ・・・。昔はめちゃめちゃな奴だったよな。」シャイルも笑いながら言う。


「いや。本当にひどかった。学校では猫かぶって令嬢らしく振舞ってたけど、俺たちの前では本当にひどかったな。まぁそこも可愛かったけどな。」


「そういや聞いたことなかったけど、なんで兄貴とディアンは仲良くなったんだ?」


「あぁそれか。俺最初はディアンのこと大嫌いだったんだよな。今思えば僻みかもしれないけど。あいつ頭は当時からずば抜けて良かったし運動神経も良いし、何より人望があったんだ。あいつ、基本人に嫌われないだろう?あいつのこと悪く言うやつ聞いたことないだろう?」


「確かにないかもしれない・・・。」シャイルもディアンの悪口は聞いたことがなかった。


「おまけに宰相の息子だろう?まぁ当時は本当に嫉妬してたんだろうな・・・。でもある日、あいつ妹の話を自慢げに語ってたんだ。」


「妹?」


「そうそう。エミリアが最初にしゃべった言葉がディアンなんだと。」


「なんだよそれ。そんなわけないだろう。」シャイルが笑いながら言う。


「いや。エミリアが生まれてから毎日、自分の名前を耳元で囁いてたらしい。そしたら、エミリアがある日ディアンってしゃべったんだと。」


「まじかよ・・・。」シャイルが呆れたようにつぶやく。


「おう。それでな。俺その話聞いて思ったんだ。こいつは話が分かるやつだって。」


「分かるやつ?」


「俺にも可愛い可愛い弟がいるからな。ははは。お前がにいしゃまって初めて言った日のことは、今でも忘れないぜ。」


「・・・。」


「それでな。仲良くなったんだよな。あの頃はいつも互いに弟と妹自慢してたんだよ。本当に楽しかったなぁ。」


「・・・。」


「照れるなよシャイル。」


「照れてねぇよ。気持ち悪くて鳥肌たってるんだよ!」


「ふぅ。シャイルは本当にシャイだからな。全く。まぁ、色々あってそのうちディアンが、エミリア連れて遊びに来るようになったってわけだ。」


「色々って?」


「あー・・・。エミリアの額に昔傷あっただろう?今も残ってるのか?」


「今もうっすらと残ってるな。」


「そうか・・・。その傷な、一人で殿下に会いに行こうとして出来た傷らしいんだ。」


「一人で?だってまだ・・・。入学前だぞ?」


「そうそう。その時に怪我して出来たんだ。まぁ運よく人に助けれられて病院に運ばれたらしいけどな・・・。」


「え!じゃあ、兄貴は殿下とエミリアが既に出会ってたことを当時知ってたのか?」


「おう。」


「何で教えてくれなかったんだよ!エミリアが殿下のエムと知ってたら俺だって・・・。」


「まぁ。なんか面白かったからかな?」


「最悪・・・。」シャイルはあの時のアルフォンスの目を思い出して、思わず身震いした。


「お前とエミリアが泣きながら、俺らの話を真面目に受けるのはあの時は面白くてたまらなかったな。それで、そのうち殿下も加わるようになって。殿下も当時は素直でかわいかったなぁ・・・。」


「素直・・・?」ぽつりと呟きながら首をかしげるシャイルに気づかず、オースティンは話を続ける。


「俺とディアンが作った怖い話、お前ら真剣に信じていただろう?学校のトイレの幽霊とか。お前と殿下は一時期常にトイレ一緒に行ってたもんな。お前ら三人が、殿下を真ん中にして涙目で抱き合いながら話を聞くのがもう面白くて面白くて。内心笑いをこらえるのに必死だったわ。」


「・・・。」


「まぁ。お前ら三人は本当に仲良かったよな・・・。そういえばエミリアって勉強は出来るけど、芸術のセンスは全くないんだよな。」


「そうだったな・・・。ピアノやバイオリンも死ぬほど練習して並だしな・・・。絵なんて見れたもんじゃない・・・。」


「あいつ、絵本当に下手だよな。その分殿下はうまかったなぁ。シャイルはその中間かな。」オースティンが思い出したように笑う。


「俺はどうせ中間だよ。あいつ、料理もあの頃はくそ下手だったよな・・・。そうだ。兄貴とディアンは、味見しなくて済むように俺と殿下を置いていつも逃げやがったんだ!」得体の知れないものを味見させられた過去を思い出し、シャイルは顔をゆがめた。


「いやぁ。悪かったよ。シャイルは食べたら素直にくそまずい!って言ってな。それを聞いたエミリアが半泣きになるんだよな。」


「実際食えたもんじゃなかった・・・。」


「殿下は食べるには食べるんだけど、三日間何も食べてなかったらおいしく感じる。とかフォローにならないコメントするんだよな。それで、エミリアが大体すねてトイレに閉じこもるんだよ。お前と殿下がトイレの前でエミリアに謝ってるのを、何十回見たことか。」


「兄貴とディアンは料理を処分した後に、『エミリア俺らが全部食べたよ。美味しかったよ。』とか言って、エミリアをなだめてたな。思い出したらムカついてきた。」


「はは。年の功だな。まぁ。お前と殿下はエミリアに振り回されてたよ。虫を手にもったエミリアが、お前ら追いかけまわしてるのなんて傑作だったわ。」


「兄貴が命令してたんだろう?」


「なんだ。ばれてたのか。」


「ばればれだ。俺と殿下は当時虫嫌いだったから、本当にあれは嫌だった・・・。」


「はは。あの頃のエミリアは無邪気だったな・・・。」オースティンは懐かしそうにつぶやいた。


―本当に無邪気だった。―


シャイルは、あの頃無邪気きに笑ってたエミリアをもう一度見たいと心から思った。

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