懺悔~リーリア目線~
リーリアから真相を聞いた乳母のクララは号泣した。「なんてことを!リーリア様、嘘ですよね?」そう何度も泣きながら尋ねるクララに、リーリアはただ謝ることしか出来なかった。そしてリーリアも、人目を避けるようにエミリアと同じ高速列車でエドガー王国に降り立った。その後、すぐに宮殿に連れていかれ父と義母と対面した。
「リーリア!いったい何ごとなんだ!」エドガー王国の国王から既にことの顛末を聞いた父は、まだ信じられないようで、リーリアを見るとそう言いながら駆け寄ってきた。
「ごめんなさい。」リーリアはただ泣きながら謝る。
「お前は、エミリア嬢を襲うようマルコに指示を出したのか?」リーリアの肩を掴み何度も揺すりながら尋ねる。
「ごめんなさい・・・。」
リーリアが謝りながら頷くと、父は引っ叩いた。生まれて初めて父から叩かれ茫然とするリーリアに、父はまた叩こうと手を振り上げた。義母が、「あなた!」と言いリーリアの前に守るように立ちはだかると、父は振り上げた手を下ろした。
「リーリア何てことを・・・。そこまでするとは・・・。」父は言葉が出てこないようだった。
やがてすぐに、リーリアはエドガー王国の国王に呼ばれた。部屋には、国王・王妃・アルフォンス・宰相・大臣数人が座っている。記録係もいるようだった。リーリアを真ん中にし、父と義母も腰を下ろす。
アルフォンスが淡々と今回の真相を述べる。アルフォンスが『以上だ。』と言うと、宰相が間違いがないかリーリアに聞いた。何一つリーリアがコリン王国で言ったことと相違がなかったので、リーリアはただ俯きながら頷いた。
「大変申し訳ない。」父がそう言い頭を下げると、義母も続いて頭を下げる。
「うむ。どうしたらいいものか・・・。」国王は深いため息とともに言葉を吐き出した。
婚約はもちろん破談になることが決まったが、他国の王女であるリーリアの処罰をどうするか結論が出なかった。アルフォンスは冷めた声でリーリアを生涯幽閉し従者と手下たちを処刑するよう進言したし、それに賛成する声も実際いくつかあった。だがリーリアの父は何度も頭を下げながら必死にリーリアをかばい、それに対して国王も決めかねているようだった。
すると、とある大臣から王女の身分を剥奪し、どこか田舎へ送るのはどうかと言う意見が出た。そこで最低限度の生活は保障するが、庶民同じ生活をする。結婚などは自由にできるが、二度と貴族の社交の場には出向かないようエドガー王国から監視もつけると。
アルフォンスは強く反発したが、国王はこの件を外交問題にせず内密にする代わりにその妥協案に決めた。リーリアの父はその処罰に対し、一年に一回だけ家族と会える日を設けてくれるよう頼んだが、国王は監視からの報告される今後のリーリアの行動次第で決めようとしか言わなかった。
また詳細は後で話し合うことに決め、ひとまずリーリアは退室させられた。父は、「お前が二歳で実の母親を亡くしたのが何よりもかわいそうで、甘やかしすぎた。私が心から間違っていた。お前が王族じゃなければ、処刑されてもおかしくない大罪だ。幽閉せずに外で生活を送れるよう決断をしてくれたエドガー国王の温情に感謝し、お前は生涯反省することでエミリア嬢に償って生きなさい。」と静かに言った。義母は泣きながら、泣きもせずただ俯くリーリアの手を握りしめていた。
しばらくして、侍女が部屋に入ってきて言った。「国王陛下からリーリア王女様に伝言があります。」
「申してみよ。」父が言う。
「はい。エミリア様から王女様に伝えて欲しいと頼まれたとのことです。」
「エミリアが?」リーリアが小さな声で問う。
「はい。」
「言って。」リーリアが言う。
「はい。『あの日の約束を守らなくてごめんなさい。』とのことです。」
そう言うと、侍女は頭を下げ退出して行った。
―あの日の約束?あの日の・・・。エムと約束なんて一回しかしていない。初めて会ったあの日・・・。エム・・・。覚えていたのね・・・。―
あの日の『私応援しますね!』と言った、ずっと忘れなかった五歳のエミリアの可愛い笑顔が目に浮かんだ。
―エム・・・。覚えていてくれたのね・・・。―
リーリアは、声をあげ泣きだした。子供の頃のように、顔をぐしゃぐしゃにして泣いた。
―エム・・・。ごめんなさい。私が間違っていた。エム・・・。エム・・・。―
リーリアは何度もエミリアの名前を呼びながら、いつまでも泣き続けた。




