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裁き

それからしばらくして、オースティンが入ってきた。エミリアを見ると、子供のころから変わらない見慣れた笑顔になった。


「エミリア~。久しぶりじゃないか!」そう言うと近寄ってきて、エミリアの髪の毛をぐしゃぐしゃにかきまわした。


それは子供のころからのオースティンがエミリアにやる挨拶で、いつもエミリアは、「オースティンやめてよ!」と笑いながら怒るのに、今回は一切反応せずされるがままになっている。自分に無反応なエミリアにオースティンはすぐに手を止めると、眉毛を下げながら髪の毛を戻し始めた。


「どうした?」とディアンが話しかける。


「おう。フォスタ国王も既にいらしていて、話し合いが長引いているんだ。エミリア。酷かもしれないが、先に犯人に会ってもらってもいいか?」とオースティンがエミリアに尋ねる。


「今?」とエミリアが聞く。


「そうだ。大丈夫か?」とオースティンが尋ねる。


エミリアはその問いに、静かに頷いた。


エミリアが頷くと、オースティンはエミリアを抱き上げ歩き始めた。エミリアは特に抵抗もせず、されるがままになっている。その後を、ディアンが着いてきているようだった。


犯人は王宮の地下牢に繋がれているようだった。移動するまでの道のりの間オースティンがエミリアに教えてくれる。


「どうして、オースティンがいるの?」エミリアが小さな声で尋ねると、「うーん。言っていいのかな・・・。まぁいいか。俺が犯人を捕まえたんだ。」とオースティンが答えた。


「オースティンが?」と言うエミリアに、「おう。」と答える。「そうなのね・・・。オースティンありがとう。」とエミリアが微笑んで言うと、「エミリアは今回確認だけすればいいからな。本当は会わせたくないんだけど、何せ証拠が足りなくて・・・。ごめんな。」と謝るオースティンに、エミリアはただ頷いた。


やがてひんやりとした暗い階段を降り終わると、鉄格子の前に降ろされた。薄暗いが、それでも中の様子は十分見える。俯いて座っていた三人の男たちは、エミリアの気配を感じると顔をあげた。


男たちはエミリアを見ると、「あっ。」と呟いた。エミリアはその男たちに十分見覚えがあった。自分が襲われたときのことを思い出したエミリアは、足に力が入らず崩れ落ちそうになる。それをとっさにディアンが支えると、「もういいだろう?」とオースティンに言った。


「エミリア。間違いないか?」とオースティンが聞く。その言葉を聞いた犯人の一人の男がエミリアが口を開く前に、「俺は違う!」と叫ぶ。「うるせぇ。」ぴしゃりとその言葉を止めたのは、エミリアを殴った男だった。エミリアは自分を二回殴った男をじっと見ていた。男はエミリアを見つめながら、「俺らがやった。」と言う。それを聞いたエミリアは、「どうしてあんなことしたの?」と尋ねた。


「あんたに関係ないだろう。金が全てだよ。」と言う。その言葉を聞いたディアンは、エミリアを抱きあげ「オースティン!」と声を荒げた。オースティンは、「あぁ。十分だ。行こう。」と言い歩き出す。歩き出そうとするディアンをエミリアは「待って!」と言い引きとめると、「あなたたちの大事な人はこんなこと望んでなかったはずよ。」と男たちに言った。男たちはそんなエミリアをただ暗い目で見ていた。ディアンはエミリアの言葉を聞くと、今度は止まらずに歩き出した。


元の部屋に戻ってくると、ディアンはゆっくりとエミリアをソファーに降ろした。エミリアは三人の視線を避けるかのように、俯き考えていた。


―何故彼らはあんなことしたのだろうか。王族の命令だからだろうか?でも、お金のためと言っていたわ。お金のためなら何でもするのかしら?私は恵まれているわ。だからお金に苦労している人の気持ちが分からない・・・。―


エミリアは罪を犯した彼らにも死ぬと悲しむ人がいるかもしれないと考え、ただ辛かった。でも、彼らの処刑は避けられないのだ。


―彼らの命と私達の命はどう違うのだろうか?悪いことをしたのなら裁かなければならないわ。それでも、私のために処刑されるなんて・・・。私はその三人の命をどう背負えばいいの?―


その考えがただエミリアの頭を占めていた。


おろしている長い髪が俯いているエミリアの顔を隠し、表情は読み取れない。だが隣に座ったディアンとナタリーも、迎えに座ったオースティンも悲しい顔でエミリアをただ見つめていた。


それから数分後。シャイルが部屋に入ってきた。オースティンがエミリアが犯人を確認したことを告げると、顔をしかめて頷き言った。「エミリア。国王陛下が呼んでいる。」と。エミリアは、青白い顔のまま杖を突き立ち上がった。そして、ディアンと二人でシャイルの後ろをついて行った。


シャイルが扉を開け入るよう言った部屋は、陛下・王妃・アルフォンス・宰相と大臣が数人座っていた。久しぶりに会う国王陛下も王妃も、どこか疲れた顔をしていた。陛下はエミリアを見ると、椅子に腰を掛けるよう優しく言った。


アルフォンスが伝えたであろう話を一つ一つ確認するかのように、宰相が淡々と述べていく。そして、エミリアにどこか訂正するとこがあるか尋ねた。エミリアが全て事実だと言うと、国王も宰相も深い溜息を吐いた。


「エミリアすまなかったな。」国王陛下が言う。


「いいえ。アルフォンス殿下が外交でコリン王国滞在中に、このような形で騒ぎを起こしてしまい申し訳ありませんでした。」エミリアが深く頭を下げ言う。


「どうか頭をあげてくれ。エミリア、本当にすまなかった。君との婚約を破談にし、リーリア王女を選んでしまった私の愚行をどう詫びればいいのか・・・。」と国王が言う。


「とんでもございません。あの・・・。リーリア王女はどうなるのでしょうか?」エミリアが尋ねる。


「フォスタ国王としては、今回の件を公にしないでほしいらしい。だがもちろん公爵家には損害賠償を・・・。」と国王が言う。


「損害賠償は望んでおりません。公にしないとは?エミリアを襲うよう指示したことを公表しないと言うことですか?」ディアンが静かに尋ねる。


「他国の王族が犯した罪を、国内の法で強く断罪できないのです。何より外交問題になります。」宰相が淡々と言う。


兄のディアンが激しい怒りを耐えているのを感じ取ったエミリアは、「分かりました。」と静かな声で言った。


「エミリア。本当に申し訳なかったわ。」王妃が頭を下げる。


「いいえ。あの。一つだけお願いがあります。」エミリアが言う。


「何だ?」と国王が尋ねる。


「リーリア王女に伝言を頼めますか?」


「うむ。言ってみなさい。」


エミリアが一言述べると、国王は必ず伝えることを約束してくれた。すると次は、ディアンが口を開いた。


「陛下。私からもお願いがあります。」


「述べてみなさい。」


「どうか文官を辞めさせてください。」


「何を言うのだ!」宰相が驚き声を荒げる。その場にいる数人の大臣たちもざわつき始めている。


「理由は。」国王が冷静な声で、ディアンに問う。


「前から考えていることでした。家族との時間を大切にしながら、領地で過ごしたいとずっと思っていました。どうか今回の件を公表しない代わりに、このような無礼をお許しください。」ディアンが頭を下げる。


「君は官吏試験を首席で合格したのだぞ?その意味と使命を分かっているのか?」宰相が怒りながら言う。


「十分に承知しております。だからこそ・・・。エミリアが破談になってもずっと耐えてきました。ですが、今回はどうしても我慢になりません。我が公爵家への仕打ちがあまりにもひどすぎます。無礼であることは十分に承知しています。それでもどうかお許しください。」ディアンが頭を下げたまま言う。


「本当になんて無礼な!」と言う宰相を、国王は手をあげ制すと悲しそうに言った。


「ディアン。どうか顔をあげてくれ。代々ウェズリー公爵家と王家は深い繋がりがあり、君の祖父も父も立派に宰相を務めてくれていた。そして君も大変優秀だ。本当に申し訳ない。君の父が生きていたら、今の状況に何と言うだろうか?きっと私に失望するはずだ。ディアン。半年間君に休みを与える。君の今携わっている業務を引き継がせたら、休みに入りなさい。だが、辞任を容認することはどうしても出来ない。君はあまりにも優秀で、失うには惜しい人材だ。辞任の件は一旦保留という形で、半年後にまた話し合おう。そしてどうか王家からエミリアへの補償もさせてくれ。」


「ありがとうございます。辞任の件は、お言葉に甘えさせていただきます。ですが、補償は結構です。どうか・・・。エミリアと今後一切関わらないようお願いします。」ディアンは国王陛下の目を見ながら真剣に言う。でも実際に最後の言葉は、アルフォンスに向けた言葉だった。


「ディアン・・・。分かった。君の意思に従おう。最後にエミリア本当にすまなかった。どうか、元気に過ごしてくれ。」国王はディアンの意見に同意すると、エミリアに再度頭を下げた。


エミリアは国王の言葉に頷くと、立ち上がりその場にいる者達に頭を下げた。そして杖を突きながら出口に向かう。扉の前に来ると、最後にアルフォンスの方へ振り向いた。小さいころから大好きな青く澄んだ瞳と目が合う。苦しそうに自分を見つめるアルフォンスに、幸せになってねと言う意味を込めて微笑む。しばらくアルフォンスを見つめていたかったが、すぐにディアンがエミリアの背を押した。それに逆らわずエミリアはそのまま扉を出て行った。


―アル。今までありがとう。さようなら。―


エミリアは最後にアルフォンスを見ながら、そう心の中で呟いた。


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