行き着く先~シャイル目線~
重い空気の中、最初に口を開いたのはリーリアの侍女だった。
「いくらなんでもひどすぎます!既に終わった縁です。それに、エミリア様は王女であられるリーリア様を襲おうとしたんです!」
とシャイルに向かって訴えてきた。
「終わった縁とは?」とユルが聞く。
「・・・。」コリン王国の王子がいるとは思わず、侍女は頭を下げ口をつぐんだ。
「シャイル殿。どういうことですか?何故エミリアを、アルフォンス殿下が?初対面ではなかったのですか?」
「黙っていて大変申し訳ありません。エミリアは、アルフォンス殿下の元婚約者だったんです。」
「元婚約者・・・?ならば、エミリアが破談になったというのは・・・。」
「黙っていて申し訳ありませんでした。ユル殿下、詳細は後程説明します。リーリアと二人で話をさせていただいてもよろしいですか?」
そうシャイルは頭を下げて頼むと、ユルは何も言わず部屋を出て行った。シャイルは顔をあげると、静かに泣きながら床に座り込んでいるリーリアの側に行き尋ねた。
「リーリア王女は、お怪我はありませんか?」
リーリアは静かに首を振った。シャイルも実際に怪我はないことが分かっていた。だが、誰からも心配されないリーリアがかわいそうで、聞かずにはいられなかった。
「お怪我がなくてよかったです。」
シャイルはそう言うと、リーリアをソファーに座らせ侍女に破片を片づけるよう命じた。侍女が片づけるのを見ながら、シャイルは今までのことを後悔していた。
―アルフォンスはもちろんだが、側近の俺でさえもエミリアのことしか考えず、今この瞬間までリーリアの状態の確認すらもしなかった。そうか・・・。リーリアも好きだったのか。俺は、リーリアとは友人だったんだ。もっと向き合ってやれば良かった。疑い証拠を掴もうとするばかりで、事件の真相を尋ねようとさえしなかったな・・・。エミリアのことだけしか考えられず、ただリーリアとの友情を簡単に切り捨ててしまった・・・。―
侍女が退出すると、シャイルは口を開いた。
「リーリア。アルフォンスのこと好きだったんだな。」
リーリアは、ゆっくりとうなずく。
「全く気づかなかったよ。いつから好きだったんだ?」
「・・・。」
「俺は、エミリアのことがずっと好きだったんだ。」
「知ってた・・・。」リーリアは小さな声で言う。
「そうか・・・。」
シャイルが押し黙ると、リーリアが言った。
「どうして何も聞かないの?」
「聞いていいのか?」とシャイルが聞くと、リーリアは俯いた。
「リーリア。今まで悪かったな。」
「え?」とリーリアが顔をあげる。
「エミリアが事故にあって以来、エミリアのことしか考えられなかったんだ。友人だったのに、他国の王太子の婚約者になったお前の支えになろうとしなかった。文化だって違う。苦労しただろう?」
そう言うシャイルの目を見ながら、リーリアはまた涙を流し始めた。
「リーリア。俺、今日エミリアに告白したんだ。まぁ、あいつは告白されたなんて夢にも思ってないんだけどな。でも、告白する気なんて本当はなかった。なんでか分かるか?」
「・・・。」
「手に入れるだけが愛じゃないだろう?」
「・・・。」
「側で見守り支えることも愛だと思うんだ。」
「辛くないの?」
「そりゃ辛いときもあるさ。俺が幸せにしてあげたいと考えたこともある。でも、想い合っている二人を引き裂き手に入れたとして、最初は良くてもだんだん辛くなるだけだろ?リーリアが一番よく分かっているはずだ。」
「・・・。」
「今回に限らず本当は分かっているんだろう?あの二人を引き裂くことなんて出来ないんだよ。俺はずっと初等部のころからそれを見てきたんだ。」
「・・・。」
「リーリア。人を好きになることは自由だ。でも、その想いの行き先を間違えたら駄目だ。」
「・・・。」
「お前、エミリアのこと嫌いじゃないだろう?むしろ好きだったんだろう?」
「うん・・・。」
「お前も辛かったな。重い秘密を抱えて生きるのは辛いだろう?どうかリーリアから話してくれないか?」
「言えない・・・。」リーリアは首を振って答える。
「リーリア。アルフォンスはお前が思っているよりずっと冷酷だぞ。あいつはエミリア以外のことはどうでもいいんだ。今回お前がエミリアに襲われたと証言したとしよう。お前の侍女もそう言っている。状況から見て、皆信じるだろうな。元婚約者が現婚約者に嫉妬し襲うことは十分理由になる。でも、アルフォンスはエミリアがお前を襲っただなんて夢にも思っていない。俺も信じない。あいつは死のうとしたんだろう?」
「・・・。」
「リーリア。どうか話してくれないか。」
「・・・。」
「リーリア。ごめんな。俺はエミリアの味方なんだ。」
重い沈黙が部屋を支配していた。




