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一生消えない傷

「だれが望んだことですか?リーリア様じゃないですよね?誰に頼まれたんですか?」とエミリアは席を立つとリーリアの横に座り肩を揺すって言う。


「・・・。」リーリアは俯いたまま何も答えない。


「リーリア様、誰がこんなことを望んだのですか?教えてください!」とエミリアは哀願する。


「・・・。」


「見てください。」そう言うとエミリアはドレスをたくし上げる。


「私、こんな体になったんです。もう左足はほとんど動かせません。両足の太さの違いが分かりますか?右にばかり負担がいくからです。ドレスで見えない所にも崖に打ち付けられたため出来た消えない傷いくつもあるのです。一生誰かの世話にならないと生きていけない体です。私が少しでも哀れだと思うのならば、どうか教えてください。」


「・・・。」


何も言わないリーリアの顔をエミリアはしばらくじっと見つめた。


―どうして、リーリア様がアルの婚約者になったのだろうか?―


「リーリア様が望んだことですか?」エミリアは静かに聞いた。


「違う!」リーリアは顔をぱっとあげ叫んだ。


「ならばどうして、リーリア様がアルの婚約者になったのですか?」とエミリアはうつろな目で尋ねる。


「それは・・・。」リーリアは答えられず唇をかみしめる。


「そんなにアルと結婚したかったのですか?」


「・・・。」リーリアはただ体を震わせ俯く。


「私のことそこまで憎かったですか?」


「エム。違うの・・・・。」リーリアは俯いたまま答える。


「私・・・。ここ二週間近く楽しかったです。リーリア様と過ごせて・・・。私をあざ笑っていたんですか?」エミリアは呆然と聞く。


「エム。違うの。違う・・・。」リーリアは顔をあげると、涙目でエミリアを見つめた。


リーリアの涙のたまる目を見たエミリアは、理性を失い叫んだ。


「何が違うんですか!何が違うの!何が違うのよ!」


リーリアはびっくりして目を見開く。


「私を殺したいほど憎かったんでしょう?」


「違う!殺したいなんて思ったことないわ!」リーリアは大声で言い返す。


「殺すつもりではなかった。それならば、あの日私をどこに連れ去る予定だったんですか?ねぇ!純潔を失わせるのが目的だったんでしょ?王族に嫁げなくなりますもんね?」


「あ・・・。」リーリアはただ首を振る。


「ねぇリーリア様・・・。足が不自由になるのと純潔を失うのどちらが女性にとって辛いでしょうね?あなたは一生分からないでしょうね。私がどんな思いでアルと・・・。」


そう言うエミリアの目からは涙があふれだす。


「私がどんな思いで・・・・。愛している人に、あんなひどいことを言わなければならなかったのか・・・。二度と走って追いかけられない気持ちが分かる?ねぇ。私が一体どんな思いで生きてきたと・・・。起きたときに二度と歩けないと言われた気持ちを考えたことはあるの?」


エミリアは泣き叫んだ。リーリアはただ泣きながらエミリアを見つめるだけだった。


―どうしたらこの人に苦しみを与えられるだろうか?―


エミリアは理性を失った頭で、リーリアを睨みつけながらただそれだけを考える。ふと横目に紅茶の入ったカップが目に入った。


―この場で死んでやろうか。私が死ねば一生悔いるだろうか?―


エミリアはそう考えた瞬間、カップをテーブルに打ちつけた。ガシャンと音が鳴り破片が飛び散る。


「エム!」リーリアが叫んだ。


エミリアは飛び散った破片を手でぎゅっと握ると、首にそれを持っていく。すぐに何をするのか理解したリーリアは、エミリアに飛びかかると腕を押さえつけようとする。


「離して!死んでやるわ!あなたには一生後悔して生きて行ってもらうわ!」エミリアはただ泣き叫ぶ。


「エム。お願い。こんなことやめて!」リーリアも泣きながら叫ぶ。


その時物音に気付いた侍女が戸を開け二人の様子を見ると、キャーと叫んだ。そして、エミリアを押さえつけようとする。


「離して!触らないで!死んでやる!」とエミリアはただ狂ったように叫んだ。


どれくらい時間が経ったのだろうか。エミリアは侍女が呼んだ護衛に羽交い絞めされていた。だが破片を手から決して離そうとせず、手からは血が滴り落ちドレスを血で染めていた。


「エム。お願い。落ち着いて。破片を離して!」リーリアは必死にエミリアに語り掛けるが、エミリアには届かなかった。


しばらくして、護衛の手が緩んだのがエミリアは分かった。すぐに破片を首に持っていこうとする。だが、その破片を握る手はすぐさま誰かに掴まれた。


「離して!」エミリアは手を振る。だがエミリアの手はびくともしなかった。


「エム。離すんだ。この破片を離すんだ。」


「離して!」と叫ぶエミリアを誰かが抱きしめる。


エミリアはその温もりで誰か分かると力を抜いた。力が抜けたのが分かると、アルフォンスは一度体を離しエミリアに優しく話しかける。


「エム。右手をゆっくり開いてごらん?」


だがエミリアの右手はがっちりと握りしめていてぴくりとも動かない。


「アル・・・。」エミリアは泣きながら血が滴る右手をじっと見つめた。


「エム。ゆっくり息を吐くんだ。」アルフォンスはそう言うと、エミリアの握りしめられた右手を。親指からゆっくりとほどいていく。中指までほどくと、素早く破片を抜いた。


「エム。怪我をしているよ。医師に診てもらおう?傷が残ったら大変だ。」アルフォンスは優しく話しかける。


「いや・・・。残ってもいい。一つくらい消えない傷が増えても、今更何も変わらないわ。」


「じゃあ消毒してもらおう?化膿するよ?」


「どうでもいい・・・。」エミリアは泣きながら言う。


「エム、何があったの?どうして破片を握ろうとしたの?」アルフォンスは優しく聞く。


「リーリア様が。私の足を・・・。私に・・・。」エミリアは必死に言おうとするが、言おうとすればするほど泣きじゃくった。


「エム。ゆっくり深呼吸して。」


「アル・・・。息が・・・吸えない。」エミリアは過呼吸を起こしていた。


「エム。大丈夫だよ。まず、息を吐くんだ。」アルフォンスは背中をさすりながら言う。


エミリアは必死に首を振り息を吐けないことを伝える。めまいがして目を開けていられず、また呼吸が出来ないため胸がひどく痛む。このまま死ぬのかなとエミリアは思った。そして、ようやく死ねると思った。意識が遠のいていくのが自分でも分かった。どうせ死ぬならアルの腕の中で死にたいと思い、エミリアは必死に自分の背中をさすってくれていて、何か耳元で言っているアルフォンスに抱きついた。そして、次の瞬間意識を失った。








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