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次の日、エミリアはシャイルに会いに王城に出かけた。シャイルは侍女に話を通していてくれたようで、エミリアは二人分の昼食が用意されている一室に通された。シャイルは明後日帰国ということもあり会議もいよいよ大詰めで、約束の時間を過ぎてもなかなか現れなかった。


多くの人が昼食を食べ終わる時間になって、シャイルはようやく現れた。


「エミリア悪い。会議が長引いて。それに30分後また行かなきゃならないんだ。」とシャイルは申し訳なさそうに言った。


「ううん。急にごめんね?時間がないし食べよう?」


「おう。」そう言うとシャイルは食べ始める。


「シャイルはこっちの食事どう?」


「あぁ。濃いよな・・・。胃がもたれる。」と苦笑いしながらシャイルは答える。


「でしょ?私も最初は胃が痛んで、胃薬が手放せなかったわ。」とエミリアが笑いながら答えると、シャイルも笑う。


しばらくたわいもない話をした後、シャイルが不意に真顔になって尋ねた。


「エミリア、今日はどうした?」


「うん・・・。」


「俺もお前と話したいと思ってたからちょうど良かったけど、なにか話でもあるのか?」


「あのねシャイル・・・。」


「うん。」


「私事故にあったでしょう?あの時のこと教えてほしいの。」


「事故?急にどうした?」シャイルは予想していなかったことを聞かれたみたいで、眉間にしわをよせ言う。


「私、どうして事故にあったのか知らないから・・・。」


「でも、それはディアンやアルフォンス達が、お前が辛いことを知る必要はないって考えたからであって・・・。」


「うん。分かってるわ。でも、知りたいの。私には知る権利があるわ。」


「知る権利ってお前そんな言い方・・・。」


「うん。シャイルが私を心配してくれているのはよく分かっている。シャイルもうすぐ帰っちゃうでしょ?私はずっとこっちにいるから・・・。」


「本当に二度と帰ってこないのか?」とシャイルは優しく聞く。


「・・・。」


「戻ってこいエミリア。働きたいならこっちで働けばいい。こっちでも、女性が働ける環境を整えようと考えている。」


「エドガー王国が?」


「そうだ。だから戻ってこい。」


「シャイル・・・。そっちに私の居場所はなくなってしまったのよ。」


「居場所?お前にはディアンがいるだろう?」


「ううん。お兄様も子供もいて新たな家庭を築いたのよ。一生面倒を見てもらうわけにはいかないわ。そんな生き方したくないの。」


「一生って・・・。結婚はしないのか?」


「する気はないわ。将来はこっちの王都に小さな家を建てて、自分が働いた給料で従者を雇って生きていくつもりよ。」


「・・・。」


「私ね・・・。こんな足になった原因が知りたいの。だってアルと別れなければならなかったんだもの。」


「アルフォンスはお前と一緒になるために必死で動いていたんだぞ?」


「うん。知ってる。」


「ならどうして?」


「うーん。私がその覚悟を持てなかったのが原因だわ。アルにいつも支えてもらうばかりだったもの。それに、今はリーリア様がいるわ。」


「・・・。」


「ねぇシャイル。私はこっちで生きていくわ。だから、最後だと思って教えて。」


「最後って・・・。」


「もう二度と会うことはないわ。ううん、会ってはいけないわ。」


「それは俺ともか?」


「シャイルだって結婚するでしょう?シャイルはなんだかんだ優しいからいい父親になると思うわ。でも、子供にその口の悪さがうつらなければいいのだけどなぁ。」


「エミリア。俺と結婚するか?」


「ふふ。オースティンみたい。ふふ。ありがとう。」


「はぁ。」シャイルは深い溜息を吐いた。


「教えてシャイル。」


「分かったよ。はぁ。あの日リーリアが言うには、『エミリアと一緒にアルフォンスに会いに行こうという事になった。展望台から景色を見たいとエミリアが言うので、展望台に寄った。だがその直後暴漢に襲われて、自分は何とか護衛に守られたがエミリアが捕まり逃げようとして崖から転落した。それを見て暴漢達は逃げていった』だと。」


「リーリア様が言ったことは間違いはないの?」


「ないよ。」


「どうしてそう言い切れるの?」


「俺がリーリアから聞いたから。ってかお前顔色悪いぞ?やっぱり知らない方がよかったんじゃないか?」


「ううん。大丈夫。確かにリーリア様が、『私とアルに会いに出かけ、私が望むので途中で展望台に寄った。そして、リーリア様は護衛に守られたけど、私が逃げようとして転落した。』と言ったのね?」


「そうだ。それよりお前本当に顔色が・・・。」


「ねぇシャイル。私の護衛は亡くなったわよね?リーリア様の護衛は二人とも無事だったの?」


「そうだ。」


「後、犯人って捕まったの?」


「いや・・・。それが・・・。」とシャイルが困った顔をした時だった。


「シャイル様!お時間です。」と言い従者がシャイルを呼びに来た。


「分かった。」とシャイルが言うと、従者は部屋を出ていく。


「エミリア。大丈夫か?人を呼ぼうか?」


「ううん。大丈夫よ。忙しいのに無理を言ってごめんなさいね?」とエミリアは無理やり笑顔を作る。


「いや。俺が帰国する前にまた話そう。使いを出すわ。」


「うん。早く行って。私も帰るわ!」そう言いエミリアが立ち上がると、シャイルは躊躇いながらも部屋を出て行った。


エミリアはシャイルが出て行ったあと、また椅子に座り込んだ。


―どうして・・・。リーリア様が嘘をついたの?アルに会いに行こうなんて言ってない。リーリア様が展望台に行こうって・・・。どういうこと?―


エミリアは自分の手が震えていることに、その時初めて気づいた。


―嘘よ。でもシャイルが、嘘をつくわけがない・・・。まるで、リーリア様が私を・・・。―


―確かめよう。嘘だって言うに決まってるわ。―


エミリアはどうしたらいいのか分からなかった。正常な判断が出来なくなっていた。ただ一つだけ思い浮かぶのは、リーリアに確かめようということだけだった。


廊下に控えている侍女にリーリアに会いたいと告げると、リーリアに許可を取りに行ってくれた。運よく王城にいたようで、すぐにリーリアの部屋に案内された。


エミリアが部屋に行くと、リーリアは「エムが会いに来てくれるなんて嬉しいわ。」とにっこり笑って言う。


エミリアはリーリアの侍女がお茶をいれるのをじっと見ていた。侍女がお茶を入れ終わると、エミリアは「二人きりで話したいことがある。」と言った。


すぐさま、リーリアは人払いをしてくれた。


―こんなに優しい人が、私にひどいことをしたのだろうか?何か理由があったのだろうか?―


「エムどうしたの?顔色も悪いし・・・。何か悩みでもあるの?」と、リーリアは心配そうに言う。


「リーリア様・・・。」


「どうしたの?」


「私・・・。あの日の記憶を思い出したんです。」


「あの日?」


「あの日です・・・。展望台に行った日。」


とエミリアが言うと、リーリアの顔色がさっと変わった。


「リーリア様。さっきシャイルに会ったんです。シャイル変なこと言うんです・・・。私がリーリア様に展望台に行きたいって言ったって。」


リーリアは目を見開き、がたがた震えながらエミリアをただ見つめている。


「でも、あの日誘ったのはリーリア様ですよね・・・?どっちが嘘をついているんですか?リーリア様・・・。」


「・・・。」


「リーリア様が嘘をついたのですか?」


エミリアの声が室内にただ響いた。エミリアはどっちが嘘をついているのか本当は分かっていた。そして、リーリアの顔が全てを物語っていた。



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