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矛盾

日も暮れたためリーリアが帰っていったあと、ターニャが屋敷を訪ねてきた。


「ターニャ!どうしたの?」と驚くエミリアに、ターニャは


「倒れたって聞いたけど、エミリア大丈夫?」と心配そうな顔して聞いた。


「大丈夫よ。でも、どうして知っているの?」


「仕事終わりにあなたに会いに寄ったの。もしいなかったら帰ろうと思ったのだけど、いてよかったわ。あなたが倒れたことはさっきアンに聞いたのよ。」


「そうだったの。ターニャ会いたかった!来てくれてありがとう。」


「ふふ。そろそろ私に会いたくなるだろうと思って会いに来たのよ。」


「ふふ。ありがとう。」


「ところで王女様はどう?」とエミリアの隣に座る。


「うん。始めは不安だったけど、すごく優しくていい人よ。今日も私が起きるまで手を握ってくれていたの。」


「そうなんだ。あっちの王子とは?」


「うん・・・。視察に付いて行ったきり会ってないわ。」


「そう。視察はどうだった?」


「うーん。」とエミリアは俯いて困ったように笑う。


「あっちの王子とは話したの?」


「うん・・・。二人で話す機会があって。」


「二人きりで?」


「うん・・・。夜中に眠れなくて散策に出たの。そうしたら殿下もちょうどいらして・・・。」


「すごい偶然ね。どんな話をしたの?」


そうターニャに聞かれ、エミリアは一人あの夜を思い浮かべる。


―どんな話をしたのだろうか・・・。どう言葉にすればいいのだろうか・・・。―


「分かんない・・・。」エミリアは泣きそうな顔で答える。


「そっか。そうだ!夜ご飯ごちそうになって帰っていい?今日リベラルト様は?」


「もちろんよ!リバー様は多分お仕事だと思う・・・。」


「ちぇ。残念・・・。」とターニャは唇をとがらせる。


エミリアは、話を変えてくれるターニャの優しさが嬉しかった。ターニャは決してエミリアの核心に触れようとはしない。だが、かつてのアルフォンスのように何でも話してしまいたくなる、包み込んでくれる暖かさがあった。


「ねぇ。ターニャ。」


「なぁに?」


「今日ね、頭を打ったの。」


「え。大丈夫?」


「うん。それでね、私事故当時の記憶がないって言ってたでしょ?」


「うん言ってたわね。そこだけないって。」


「今日ね、頭を打ったとき思い出したの。」


「えぇ!それで?」そう言い、ターニャはエミリアの手を両手で握りしめる。


「それでね。私、あの日リーリア様に誘われて出かけたの。そして暴漢にあったの。」


「うん。」


「でも・・・。」とエミリアはその続きを言っていいのか躊躇う。


「エミリア。言いたくないなら言わなくてもいいわよ。でも、あなたがどんな話をしても私は絶対誰にも言わないわ。」


「ターニャ・・・。でも、アルは、ううん殿下は、私とリーリア様が殿下に会いに出かけたって言ったの。」


「どういうこと?エミリアの記憶では王女様に誘われたのに、王女はエミリアと王子に会いに出かけたって言ったってこと?」


「うん・・・。」


「それって、王女が嘘ついてるってこと?」


「そんなはずないのに・・・。私の記憶がおかしいのかな?」


「もう一度話を整理してみよう?詳しく話して。」とターニャは真剣な顔で言う。


「あの日、確か冬休み最後の日で・・・。出かける用事なんてなかったの。午後にリーリア様が訪ねてきたわ。それで私を展望台に誘ったの。展望台は王宮の行く途中にあるの。」


「うん。」


「私は、リーリア様が思い詰めた顔しているのが気になって出かけたわ。展望台に着いてしばらくしてから、後ろが突然騒がしくなったの。それで振り返ると暴漢がいて・・・。私を二度襲おうとした人が腕をつかんだの。」


「二度襲われた?」


「一度目は、学園で空き教室で襲われそうになったの。二回目はリーリア様のお茶会の帰りに宮殿で腕を掴まれて。それで、展望台では私をどこかに連れ去ろうとしたの。」


「うん。」


「私を殿下の婚約者からおろすために誰かに頼まれているって言ってた。殺しはしないと言ってたけど・・・。その、多分純潔を失わせるのが目的だったと思う。」


「なんてことを・・・。」ターニャは絶句している。


「それで、私必死に抵抗したの。確か肩に噛みついたわ・・・。それで相手が怒って、私を殴りつけたの。」


「・・・。」


「ターニャごめんなさい。こんな話聞かせてしまって。」ターニャの顔を見て、エミリアは話さなければ良かったと思った。いくらたくましいターニャだって女性だ。こんな話聞いて怖くないはずがない。


「ううん。いいのよ。私はいいの。あなたの方がずっと辛いのに・・・。どうか話してちょうだい。」と、ターニャは目に涙を溜めて言う。


「ターニャ・・・。」


「本当に大丈夫よ。話してちょうだい?」


「えっと・・・。そう・・・肩に噛みついて殴られて・・・。それで吹っ飛ばされてそのまま崖から落ちたの・・・。それで目が覚めたら四か月経っていた・・・。」


「エミリア・・・。」


「どうして急に思い出したんだろう?」と言いエミリアも泣き出す。


「それで、王子が言うには王女は王子に会いに出かけたと言っているのね?」


「うん・・・。」


「他の人は?」


「みんな『忘れなさい。』って言って事故の話をするのを避けるの。私もだから事故のことは考えないようにしてきたの。」


「そっか・・・。アンは?」


「アンはその時出かけてて・・・。よく知らないらしいの。戻ってきたら私が事故にあっていたって。」


「そう・・・。」


「ターニャ、私の記憶間違っているよね?だってリーリア様が嘘つくはずないもの。」


「ねぇ。王子に聞いてみたら?」


「殿下に?」


「うん。詳細を聞いた方がいいわ。だってまるで王女があなたを故意に怪我させたとしか思えないもの。」


「殿下と会うわけにはいかないわ。元婚約者だもの。リーリア様は嫌がるわ。」


「エミリア・・・。それなら他にあちらの使者で誰か知り合いはいないの?」


「シャイルなら幼馴染だけど・・・。」


「シャイル・・・。あぁ。殿下の側近のイケメンね。うんいいじゃない。いつ帰国するんだっけ?」


「三日後よ。」


「あなたの明日の予定は?」


「ないわ・・・。今日倒れてしまったから、リーリア様が明日休みなさいって。」


「早速手紙を出して明日会うべきだわ。ね?今すぐ出しなさい。」


「ターニャ・・・。」


「明日一緒に着いて行こうか?仕事休んでもいいわよ。」


「ううん。大丈夫。」


そう言うと、エミリアはシャイルに『明日二人きりで話す時間を作ってほしい。』と手紙を出した。シャイルからは、ターニャが夕食を食べ帰宅した夜遅くに返事が来た。『明日は予定が詰まっている。エミリアが良ければ、一緒に昼食をとりながら話すのはどうか?』と言う内容だった。エミリアは承諾の手紙を出すと、ベットに入った。


―自分の記憶がおかしいに決まっている。―


何度もそう思い、頭に浮かぶリーリアへの不信感を打ち消した。エミリアは、不安から中々寝付くことは出来なかった。

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