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読めない心~シャイル目線~

それからアルフォンスはより一層、仕事に没頭するようになった。各国の視察に自ら出向き、多忙な毎日を送っていた。社交界や夜会で聞くエミリアの噂は、大怪我をし破談になったため領地で療養しているころになっていた。誰もが憧れてやまなかったエミリアの悲運を皆悲しんでいるようだった。そして、ディアンもオースティンもシャイルも、エミリアがコリン王国にいることを誰にも話さなかった。アルフォンスにさえ告げなかったが、アルフォンスのことだから間諜から聞いているだろうとシャイルは考えていた。


それから半年後、リーリアとアルフォンスは婚約した。エミリアと破談になったアルフォンスには、国内貴族はもちろんのこと各国の王女からも大量に縁談が舞い込んでいた。その中から国王に選ぶよう催促されたアルフォンスは、王立学園での同級生を進める周囲の希望通りリーリアを選んだ。


シャイルは猛反対した。何度も何度も連日反対した。「エミリアを襲った犯人かもしれないのに!」と。だが、アルフォンスはそんなシャイルを「これだけ探しても証拠が見つからないのだから、犯人ではないだろう。」と一蹴した。


確かに証拠は一切掴めずにいた。当初フォスタ王国のごろつきを探ったが、該当する人物はエミリアの事故後どこか遠くに旅立ったと聞かされた。急いでその足取りを追ったが、途中で途絶えていて結局は見つけることが出来なかった。またエミリアがいなくなって以来、ディアンとアルフォンスは疎遠になっていた。それもあって、捜査はうやむやになってしまっていた。


婚約後、既に卒業しフォスタ王国に戻っていたリーリアは、月に一回は必ずアルフォンスに会いにエドガー王国にやってきた。多忙を極めるアルフォンスはあまり時間が取れなかったが、それでもリーリアの希望通り観劇に出かけたりと交流を深めているようだった。国王も周囲もそしてフォスタ王国も、アルフォンスとリーリアが早く結婚することを強く望んでいた。その度にアルフォンスは、「まだまだ未熟ですから。一人前の男になってから結婚したいと考えています。」と言った。そんなアルフォンスの考えに賛成したのは意外にも王妃だった。「まだアルフォンスに結婚は早いわ。」と周囲の意見を一蹴すると、リーリアに厳しく王妃教育をしていた。


ふとした瞬間に笑みが剥がれ落ち、どこか冷めた目でリーリアを見つめるアルフォンスを見て、シャイルは何をしでかすのか分からず心配になった。何故アルフォンスがリーリアを選んだのか、シャイルには理解できなかった。


婚約してちょうど一年後、熱心に各国を視察しているアルフォンスにコリン王国から招待が来た。隣国であるコリン王国は、エドガー王国にとってずっと近くて遠い国だったのだ。国交は開通していたが、王族同士の付き合いは全くなかったため、アルフォンスの功績はとても大きかった。二週間滞在することになったアルフォンスに、リーリアは自分も行きたいと駄々をこねた。婚約して一年、適齢期の21歳になっても未だ結婚出来ない状況にリーリアの不満が爆発したのだ。そんなリーリアに、アルフォンスはあっさりと「一緒に行こうか。」と言うと、「結婚前なのだから・・・。」としぶるシャイルの意見も聞かずに、連れて旅だった。


道中、シャイルはエミリアのことばかり考えていた。かれこれ一年半近く会っていない。記憶の中の美しいエミリアの笑顔を思い出しては、一人ため息を吐き続けた。


―エミリアは、エドガー王国と二度と関わりたくなくて出て行ったのだ・・・。俺には会ってくれるだろうか?こっそり王弟様に会いに行こうか?―


一人悩むシャイルの後ろでは、リーリアが自分の侍女に旅の楽しみをひたすら語っていた。そんな二人に見向きもせず、シャイルの隣に座ったアルフォンスは窓の外の景色をじっと眺めていた。


コリン王国に降り立ったとき、大きな歓声に迎えられた。民衆に笑顔で手を振るアルフォンスとリーリアの横で、群衆の中に白金の髪を探したが結局は見つけられなかった。


王城に着き国王一家に謁見を終えると、「長旅でお疲れでしょうから、晩餐会までお休みください。」と第一王子のユルが言った。アルフォンスが、『リーリアは休むといい。王城内の各省を見学したいので案内を頼めないかい?』とユルに頼むと、ユルは二つ返事で了承してくれた。リーリアは疲れているようだったが、結局着いてくることになった。


「実は、この国の飛び級制度に興味があるんだ。」とアルフォンスが言うと、ユルは文部省の大臣に会わせてくれた。大臣はアルフォンスたちを見ると、「実は、エドガー王国出身者の女性がここで働いているのです。」と教えてくれた。「まぁ!おいくつですか?」と食いつくリーリアに、「今年20歳になる子です。」とにこやかに大臣は教えてくれた。


―まさか・・・。エミリアはもうすぐ20歳だ・・・。そんな偶然があるか・・・?―


と考えるシャイルの耳に、「それならば私の知り合いかもしれません。私の一つ下ですもの。私は高等部三年の時に王立学園に留学していたんです。会うことは可能ですか?」とリーリアが言うのが聞こえた。「もちろんです。」と言い大臣が従者に呼びに行くよう言いつけると、「どのような女性なのですか?」とリーリアが聞く。「優しく気立てもいい上に仕事熱心な女性ですよ。」と答える大臣に、「そんなに期待しないでください。」とユルが横から答えていた時だった。


不意に扉が開き、「失礼します。」という懐かしい声が聞こえ、エミリアが杖を突きながら入ってきた。シャイルは驚き言葉が出なかった。リーリアも同様失神しそうなくらい驚き言葉を失っているようだった。エミリアは真っ青な顔をしながら、茫然と突っ立っていた。


―あぁ。元気にすごしていたのか・・・。良かった。―


シャイルはほっとし体の力が抜けたときだった。リーリアが立ち上がるとエミリアに抱きついたのだ。踏ん張れず倒れるエミリアを見て、シャイルは思わず立ち上がった。一足先に駆け付けたユルが抱き起していたが、隣でピクリと立ち上がりそうになったアルフォンスをシャイルは確かに見た。


―こいつなんでこんなに冷静なんだ・・・。まさかエミリアがここで働いてるの知っていたのか?どこまで計算してるんだ?―


立ち尽くすエミリアを見ながら考えているシャイルの目に、次の瞬間信じられない光景が飛び込んできた。ユルがエミリアにべたべた触ると、髪の毛まで結び直したのである。エミリアもそのまま身を任せている。


―まさか、恋人同士なのか?―


というシャイルの疑問が残った。ちらりとアルフォンスの表情を確認したが、いつもの笑顔からは何も読み取れなかった。その後アルフォンスは会話を巧みに誘導すると、エミリアを晩餐会に招待することを決めた。シャイルは、アルフォンスが何をしたいのか分からなかった。


―初対面のふりをし、リーリアを婚約者として紹介し、当てつけか?いや、そんな幼稚な奴じゃない・・・。―


と考えては、頭を一人悩ませた。


そして大臣室からの帰り道、アルフォンスとユルの後を杖を突きながら歩くエミリアを見て、シャイルは胸が痛んだ。


-そうか・・・。それ以上は回復しなかったんだな・・・。-


その後階段も降りられないとユルから聞き、シャイルは気づけば抱き上げて降りていた。いつも倒れたエミリアをアルフォンスが抱き上げ走り去るのを見送っていたシャイルにとって、奇跡のような出来事だった。「元気ならいい。」どこか自分を納得させるために呟くシャイルに、エミリアは「ありがとう。」と笑うと去っていった。


エミリアは運動神経もよく、走るのがとても速かった。シャイルとアルフォンスでさえ中等部に上がるまで追いつけなかったのだ。長い髪をさらさらと風になびかせながら、いつもシャイルの目の前を駆けていたあの頃と変わらない白金の髪を見ると、二度と走ることのできないエミリアに強く胸が痛んだ。



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