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親心

エミリアと王妃はかれこれ14年近い付き合いである。去年40代に突入した王妃は、どうみても30代前半にしか見えない。年々衰えるどころか美しくなっていく王妃は、エミリアのことを実の娘のようにかわいがっていてくれていた。そしてエミリアも、義母となるはずだった王妃を尊敬し慕っていた。


王妃は馬車から降りると、エミリアの下に落ちている手紙に気づいた。それを静かに拾うと優しく微笑んで言った。


「突然訪ねてきて驚いたでしょう?エミリアと話をしたくて。」


侍女が紅茶を持ってきて応接室から退出すると、俯いているエミリアに優しく問いかける。


「体は大丈夫?」


「はい。」


「この手紙は・・・。アルフォンスへのね。」封筒に書いてある宛名を王妃は見ながら言う。


「はい。申し訳ありません。」エミリアは俯きながら答える。


「エミリア。顔をあげてちょうだい。あなたは何も悪くないわ。突然ごめんなさいね。公爵家にね、昨日あなたに会い行ったの。そしたら、あなたはこちらにいると聞いたから。」


「本来なら私が伺うべきですのに、ご足労いただき申し訳ありません。」


「いいえ。内密にあなたに会いたかったからいいのよ。」


「内密にですか?」


「そう。アルフォンスにあなたの居場所が知られるのは時間の問題だから。アルフォンスより先にあなたに会いたかったの。」


「・・・。」


「エミリア。アルフォンスのことを何が何でも突っぱねてほしいの。」


「・・・。」


「残酷なことを言ってごめんなさいね。それでも、アルフォンスと貴女を結婚させるわけにはいかなくなったわ。」


「なぜですか?私がこんな体になってしまったからですか?」


「違うわ。そんなこと関係ないわ。」


「ならばどうしてですか?」


「今のアルフォンスとあなたは結婚しても絶対にうまくいかないわ。アルフォンスは全てを犠牲にしてあなたを支えようとするでしょうね。あなたはそんなアルフォンスに何をしてあげられるの?」


「・・・。」


「あなたたちの関係は愛ではない。お互いただ執着してるだけ。自分の責務を放り出してまで優先にすることが愛なのかしら?」


「そんな放り出すなんて・・・。」


「現にあなたは陛下に言われてここまで逃げてきたじゃないの。アルフォンスを何があっても支えていくという強い気持ちがあれば、決して逃げ出したりしなかったはずだわ。私は、あなたがそれでも支えてみせると言うのをずっと待ってたわ。」


「王妃様・・・。」


「エミリア。大怪我をしたあなたに酷なことを言ってるのは分かってるわ。でも、あなたは王妃教育で何を学んだの?勉学や作法それだけが王妃のすべてじゃないわ。あなたが思ってるよりずっと王妃という立場は過酷なのよ。」


「はい・・・。」


「王族とは国民の代表よ。ちょっとしたミスも許されない。強い精神力を持たないと、とてもやってけないわ。今のあなたは傷つく度にこうやって逃げ出すに決まってる。そして、アルフォンスにただ慰められるだけなの?」


「・・・。」


「そしてあなただけが原因じゃないわね。アルフォンスにも原因があるわね。仕事は想像以上によくこなしているわ。でもあの子は危険でしかない。なぜなら、国王は家族より国を優先にしなければならないわ。どんなときもね。でも、あの子はあなたを何よりも優先にしようとするでしょう。」


「・・・。」


「エミリア。あなたを皇太子妃に迎え入れるのを楽しみにしていたわ。あなたを実の娘のようにずっと思ってきたわ。」


「王妃様・・・。」


「エミリア。義母としてはあなたを娘にしたい。でも、王妃としては迎え入れるわけにはいかない。言ってる事分かるわね?」


「はい・・・。」


「ならばアルフォンスを何が何でも突っぱねて。エミリア。もう二度と私の顔なんて見たくないかもしれないけど、何か困ったことがあったらいつでも頼ってほしいの。あなたのためなら何でもするわ。いい縁談だって紹介する。だから・・・。」


「王妃様。ありがとうございます。」


「エミリア…。本当にごめんなさい・・・。」


「いいえ。おっしゃってることはすべて正しいです。どうか謝らないでください。」


「エミリア・・・。これからどうするの?いつ学園に復帰するの?」


「そうですね・・・。」


「あなたが王都に戻ってきたら連絡してちょうだい。必ず力になるわ。」


「はい。ありがとうございます。」


「それから・・・。この手紙・・・。」


「あ・・・。」


「これは私が預かるわ。」


「王妃様・・・。どうかお返しください・・・。二度と手紙なんて書きませんから。」


「いつか、アルフォンスがこの決断を理解できるようになったとき渡すわ。」


「王妃様・・・。」


「それでは、エミリア。また必ず会いましょうね。」


王妃は優しく微笑むと帰って行った。


王妃が帰ったあとエミリアは自室に一人籠っていた。


―王妃様が言ってることはすべて正しい・・・。でも、アルを突き放せるの?こんなに好きなのに・・・。―


―私自分が大嫌いだわ・・・。―


そう考えると涙を流さずにはいられなかった。


―私どこで生き方間違えたのかしら・・・。ただ、必死に生きてきただけなのに・・・。―


「アル・・・。」


エミリアのアルフォンスを呼ぶ声がただ部屋に響いた。

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