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再会

「あなたは!」


「私のこと覚えている?」


白銀の髪に暗い青色の目。図書館で15才の時に会ったのが最後だ。


「リバー様!なぜここに!」


「さぁ。どうしてだろうね?」と言いにこりと笑う。


「でも・・・。ここは公爵家の者しか入れない場所です・・・。なぜここに?」


「さぁ?とりあえず立ち上がろうか。」そう言うと、エミリアの手を掴み立たせてくれる。


「あ・・・。ありがとうございます。」と、お礼を言うエミリアに杖を握らせると、「とりあえず体が冷えるし戻ろうか。」と言いエミリアのペースに合わせてゆっくりと歩き出す。


「私のこと覚えてたなんて光栄だよ。」とリバーが言う。


「もちろんです。命の恩人ですし、三年ほど前もリバー様に図書館で色々教えていただいて・・・。お礼も出来ず、ずっと気にかかっていました。」


「お礼なんて必要ないよ。実はね、君の父上に世話になったんだ。」


「父ですか?」


「そうだよ。私の恩人なんだ。」


「え・・・。どういう関係だったの『リベラルト様!』」


エミリアが言いかけたとき、前から見たことのない従者らしき人物と叔父がかけてくるのが見えた。


「え・・・。リベラルト様・・・?リベラルト様・・・って確か・・・。」


唖然とするエミリアに、リベラルトはニコリと笑う。


「あなた様は・・・。コリン王国王弟様なのですか・・・?」


何も言わずにただリベラルトは微笑んだ。


それから、エミリアは叔父たちと一緒に城に戻った。従者はエミリアがいることに驚くとすぐに、「ご無礼をお許しくださいエミリア様。リベラルト様の従者をしております。ルトーと申します。」と名乗った。


叔父はリベラルトとエミリアを応接室に案内すると、リベラルトに『エミリア嬢と二人で話がしたい。』と言われ、エミリアの顔色を伺いつつも出て行った。


「別に隠してたわけじゃないんだ。リバーって言うのは私の略称でね。何かと便利で、諸外国ではいつも名乗ることにしているんだ。」


「あ・・・。王弟様と知らずに今までご無礼を・・・。申し訳ありません。」


「謝る必要はない。知らなくて当たり前だ。それに君と直接会ったのも二回だけだ。」と微笑みながら言う。


「あの・・・。何故こちらにいらっしゃるのですか?」


「私はね、コリン王国の外交官として各国を回ってるんだ。君の叔父とは貿易取引をしていてね。いつもこちらの城に滞在させてもらってるんだ。」


「取引ですか?なぜ・・・?」


「婚約を断ったのに?って言いたい?」


「・・・。」エミリアは何も言えずに俯く。


「そんなつもりじゃなかったんだ。ただ君の力になってあげたかったんだ。」


「どうしてですか・・・?」


「先ほども言った通り、君の父上は私の命の恩人なんだ。賢い君なら歴史に詳しいと思うけど、コリン王国は30年前まで内乱が耐えなくてね。兄と王位を争そうのを避けさせるため、私は生まれてすぐエドガー王国に秘密裏に留学させられたんだ。だが、宮殿で育てるわけにはいかない。そこで、当時のエドガー王国の国王が最も信頼していて宰相だった君の祖父が僕を預かっていたんだ。」


「じゃあ、リベラルト様はこの城で育ったんですか?」


「リバーと呼んでくれ。君の言った通り私はこの城でひっそりと育った。君の祖父は私にわが子のように愛情を注いでくれし、私自身も君の父と叔父と血のつながった兄弟だと疑ってなかった。」


「そんな・・・。」


「でも、成長するにつれていろんな疑問が沸いてきた。まずはこの髪だ。白銀なんてこの国にそうそういない。」


「そうですね・・・。」


「だから身分がばれないように、ずっと髪を染めていたんだ。」


「あの・・・。こちらには何歳までいらしたんですか?」


「15歳の時だ。それまで私は王立学園に通っていた。」


「そうでしたか・・・。あの、なぜ父を恩人だと?」


「実の弟以上にかわいがってくれたんだ。実の家族の顔さえ知らないことが孤独でね。反抗期が凄まじくてね。今では笑い話だが、あの頃は毎日街に繰り出しては喧嘩に明け暮れていたんだ。」


「まぁ・・・。」


「ある日大勢に囲まれてしまってね・・・。ぼこぼこにされていたんだ。殺されると思ったとき、君の父上が助けにきてくれてね・・・。」


「父がですか?」


「君の父上は頭も良いが、剣の達人でもあったんだよ。それから、荒れ狂う私を本当によく面倒をみてくれてね・・・。見捨てられてもおかしくないのにね。」


「そうでしたか・・・。」


「私が国に帰っても君の父上と手紙などよくやり取りしていた。20年前までコリン王国とエドガー王国は、あまり交流が盛んじゃなくてね。それを盛んにさせたのも宰相になった君の父上の手腕のおかげだ。」


「父上の?」


「君の父上が宰相になって変わったんだ。私もよく外交官としてこの国に出向いていたんだ。君が幼いころ助けただろう?あれも出向いていた時だった。」


「あ・・・。でもあの時母はお礼もできなかったって・・・。」


「実は君の母上は私の顔を知らないし、私も会いに行ったことがないんだ。」


「何故ですか?」


「どうしてだろうね?君の父上は結婚をいつの間にかしていてね。知らされなかったことに一人で腹を立てていたからかもしれない・・・。結局挨拶さえ出来なかった。」


「・・・。」


「君の父上が亡くなったこと、一週間知らなかったんだ・・・。当時外交官としてここから遠いキボン王国にいてね・・・。コリン王国に戻ってきて、事実を知ったときには・・・。」リベラルトの目には涙が溜まっている。


「そうでしたか・・・。」エミリアは静かに答える。


「君の父上に恩返しをすることが出来なかった・・・。あんなに世話になったのにね。だから、君たち兄妹のことはこっそり毎年見守ってたんだ。」


「あ・・・。それで以前助けてくれたのですか?」


「いや、あれはほんの些細なことだ。君が毎年やつれていくのが心配でね、つい声をかけてしまったんだ。」


「あの・・・。なぜ婚約を?」


「どうしてだろう・・・。君を幸せにしてあげたいと思ったんだ。必死に生きている君を。だが、君と結婚したかったわけじゃない。私に妻子はいないが、君のことは娘みたいに思ってるんだ。だから、どこか生き急いでいる君を側で助けてあげたいと思ったんだ。婚約という手段を取ったことは反省する。だけど、君が私の養子になることを君の兄上が許可するわけがないし、側にいるためにはそれしかな思いつかなかったんだ・・・。」


「・・・。」


「結局君は王子の婚約者になったけどね。」


「・・・はい・・・。」


「そんな困った顔しないでくれ。君のことはよく君の父上から聞いていてね。」


「父にですか?」


「うん。君の父上は、君のことがかわいくて仕方なかったみたいだよ。」


「私・・・。私・・・。12歳の時に父が死んでしまい、父のこと全然知らないのです。兄とはそういう話を出来なくて・・・。」


「そうだね。君の父上は自分にも他人にも厳しいが、とても愛情深い人だよ。どうしても女の子が欲しかったみたいでね、君が生まれたときは本当に喜んでいたよ。君のことをね『お転婆だけど本当に賢くて心が綺麗なんだ。将来どんなに素敵な女性になるだろう?』っていっつも自慢してたよ。」


―おとうさま・・・。―エミリアの目から涙が流れる。


「エミリア嬢。破談になったんだろう?」


エミリアは何も言わずうなずく。


「私と一緒に来ないか?」


「え?」


「この国では生き辛いだろう?この国は代々賢王を輩出している。そして、エドガー王立学園は世界でもトップクラスの教育機関で、各国の王族や貴族もこぞって留学する。だが、保守的で排他的だと思わないか?」


「保守的で排他的ですか?」


「そうだ。例えば、女性は皆嫁ぎ子を産むことを自分の役目だと思っている。」


「はい。私もそう思っています。」


「それは違う。わが国では女性や他国出身者で大臣を勤めている者もいる。」


「女性が大臣ですか?」


「そうだ。結婚し子供を産むことが女性の生き方じゃないと私は思う。君は大けがをしたことで王子の婚約者を降ろされた。だが、君は難関な王立学園でもトップを取り続けている位優秀だ。もっと色んな生き方があるのを見るべきだと思う。だからこそ我が国に来ないか?」


「・・・。」


「色んな話を急にしすぎてしまったね?私は今日中に帰るけど、ゆっくり考えるといい。時間はたっぷりある。いつでも連絡しておいで。信用できないかもしれないが、必ず君の力になろう。」


そう告げると、リベラルトは立ち上がり部屋を出て行った。


―女性の大臣・・・。もっと別な生き方・・・。このままいくと、アルが他の人と結婚するのを見守り続けるだけだわ・・・。そんなの耐えられない・・・。―


―アル・・・。会いたい・・・。他の人と結婚なんてしてほしくない。アル・・・。―


エミリアはアルフォンスを思うと胸がはりさけそうだった。でも、どうしても結婚出来ない理由があった。


事故以来、エミリアには月のものが来なくなっていた。そのことは侍女のアンしか知らない。そのことをどうしても誰にも伝えたくなかった。





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