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障壁

それから、アルフォンスは時間を作っては毎日やって来た。冗談を言いエミリアをよく笑わせ、甲斐甲斐しくエミリアの世話を焼いた。シャイルも時たまやって来ては、エミリアにひねくれた言葉を吐いた。その言葉に対して、エミリアは笑いながら言い返した。そして、エミリアはどんどん元気になっていった。


ご飯を食べ元気になっていくエミリアに、医者はリハビリの許可を出した。リハビリ施設は王都にあったので、エミリアは家から通うことになった。王子の婚約者を周りはジロジロ見たが、エミリアは歩けるようになることだけを目標に必死にリハビリに励んだ。


エミリアにとって、リハビリは想像以上に辛いものだった。最初は足を少しも動かすことは出来なかった。玉のように汗は吹き出し、転んでは全身痣だらけになった。だからこそ、リハビリの姿を侍女のアン以外に見せることを拒んだ。付き添うと言ったアルフォンスや家族たちに、自分の姿を見られるくらいならリハビリはしないと言いはり、家族たちを無理矢理納得させた。


リハビリを始め数ヶ月経った頃、エミリアは杖をついて歩けるようになるくらいまで奇跡的に回復した。アルフォンスからプレゼントされた白い杖を持って、リハビリ施設にでかけたある日の事だった。


常に付き添っている侍女のアンが医師に呼び出せれ、エミリアが1人でリハビリをしている時だった。仲良くなった1人の男の子が近くに寄ってきた。その子は1ヶ月前に馬車にはねられ足を大怪我したため、施設に通いながらリハビリをしている5歳の伯爵家の男の子だった。


「エミリア様~。」


「どうしたの、ルイ?」


「エミリア様って、王子様の婚約者なんでしょ?」


「どうして知ってるの?」


「パパとママとリハビリに通う人たちが言ってた。」


「そうよ。」


「でも、エミリア様は婚約者にふさわしくないってみんな言ってるよ?」


「え・・・。どうして?」と、エミリアは何とか答える。


「足に障害が残るエミリア様を、みんな反対だって。」


「・・・。」


「エミリア様。僕が大きくなったら結婚してあげるよ?ね?」


ルイはそう言うと、母親に呼ばれ側を去って行った。


その後アンが戻ってきたので、エミリアは何事もなかったかのようにリハビリに励んだ。


帰りの馬車でアンが言った。


「お嬢様。施設に通わなくても、後は自宅で訓練が可能だそうです。庭を散歩することから始めてみません?」


「そうね・・・。」


「お嬢様、どうかされましたか?」


「ううん・・・。」


エミリアはどうしてもアンに噂のことを聞くことが出来なかった。そして、頭によぎった考えも聞く勇気はなかった。


エミリアが自宅で訓練を始めた数日後、エミリアは国王陛下に呼び出された。『アルフォンスに内密で宮殿に来てくれ。』と書かれていたので、義姉のナタリーにだけ伝えるとすぐに出かけた。


エミリアは何を言われるのかすぐさま理解した。だが、不思議と心は落ち着いていた。宮殿に着き王家の居住区に案内されると、小さいころから何度も通った応接室に国王と王妃が座っていた。


エミリアが杖を突きながら入って行くと、国王と王妃は悲しそうな顔をした。そして、エミリアが椅子に腰をかけると国王が口を開いた。


「エミリア。見舞いにも行かず悪かったな。」


「とんでもございません。」


「エミリア。今から君には残酷なことを言う。」


「はい。」


「アルフォンスのことは諦めてくれ。」


「・・・。」


「君は何にも悪く無い。だが、君とアルフォンスを結婚させる訳にはいかない。なぜだかわかるな?」


「はい・・・。」


「エミリア。私も君が幼き頃からよく知っている。どの令嬢よりも聡明で心美しく、私も王妃もアルフォンスの嫁にと今までずっと望んできた。そして、何よりもアルフォンスが君を深く愛していた。」


「・・・。」


「すまんなエミリア。私に息子はアルフォンスしかいない。アルフォンスだけが王位継承権を持っている。そのため、王妃になるには・・・。言っていることがわかるな?」


「はい・・・。」


とエミリアが答えた時だった。アルフォンスが乱暴に扉を開けながら入ってきたのだ。


「父上どういうことですか!」


「アルフォンス。突然入ってくるとは失礼です。下がりなさい。」王妃が言う。


「父上!私が宮殿にいない時間を見計らって、エミリアを呼びつけるなんて!」


「座りなさい。」と国王が言う。アルフォンスが腰掛けると、国王が続けて言う。


「アルフォンス。お前たちの結婚を認めることは出来ない。」


「父上!」


「アルフォンス。エミリアのことは諦めなさい。」


「父上!エミリアは歩けるようになりました!」


「だが、以前のようには戻らないだろう?」


「・・・。」


「アルフォンス。お前の妻は誰よりも健康でなければならない。何故なら王太子を生むからだ。お前は王家の血筋を繋げなければならない。我が国は側室制度が許されていない。貴族たちは愛人に子供を生ませることが許されるが、お前もそうするか?」


「父上!私はエミリアと結婚出来ないのなら国王になどなりません。」


「愚か者め!」国王が立ち上がり、アルフォンスを殴りつける。


「いいか!お前は2000万人の国民の命を背負っているのだ!王族は民たちから血税を取り生活していることを決して忘れるな!だからこそ、国民の手本となり尊敬される生き方をせねばならん。お前はその責務を捨てるのか?」


「・・・。」


「頭を冷やせ!馬鹿者!」


そう言うと国王は部屋を出て行った。王妃は、「エミリア。ごめんなさいね?」と悲しそうに言うと後を追っていった。


沈黙の中、エミリアは口を開いた。


「アル・・・。ごめんね?」


「・・・。」


「今まで本当にありがとう。生きてこれたのはアルのおかげよ。ゴメンね?私の不注意で事故にあって・・・。もう、会うのは今日で最後にしましょう?」


「エム!僕は君と離れることなんて出来ない!」そう言うと、アルフォンスはエミリアを抱きしめる。


「アル。陛下の言うことは全部正しいわ。うん正しい・・・。」


「エム、君が妊娠出来ないなんて決まったことじゃない!今もこうして歩けるようになったじゃないか。もし、君が妊娠出来なくてもいい。叔父の子供でも養子に取ればいいじゃないか。」


「アル・・・。アル・・・。もう辞めましょう?私ね?もう疲れたわ・・・。アル。どうかいい人見つけてね?」


―このままだとアルが駄目になってしまう・・・。―


そう言うと呆然とするアルフォンスの腕を振りほどき、エミリアは部屋から出て行った。


公爵家に帰ると、エミリアはすぐさま荷物を整理し始めた。領地に帰ろうと思ったのだ。もう、王都のどこにもいたくなかった。知り合いにも会いたくなかった。


そして夕食で、ディアンとナタリーに明日から故郷での療養をすることを告げた。最初は二人共猛反対したが、アルフォンスと婚約が破談になったことを言うと2人は悲しそうに許可してくれたのである。


早朝。エミリアは始発の高速列車で王都を旅だった。






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