父の休日~エミリア5歳~
今日は、年に数回しかない父の休日である。週末だったので、運良くデュークもディアンも学校がなかった。
「今日は家族みんなで国立公園にでも行くことにしよう。」
突然の父の一言で、一家みんな急いで準備をして馬車に乗り込んだ。
国の宰相を勤めている父は、常に朝早く帰りも日付を超えることは決して少ない。しかし、何よりも家族を大切にする人であった。夕方に帰宅できる日は、デュークとディアンに勉強や剣を教えたり、エミリアに本の読み聞かせたり、子煩悩な父親であった。
エミリアの母は社交界をあまり好まず口数は多くなかったが、とても優しく美しい人で常に夫を立てる人であった。地方の子爵家出身で、父とは恋愛結婚なのかお見合い結婚なのかエミリアは知らなかった。
「また人形持ってきたの?邪魔だよ。」
六人掛けの馬車に、父と母が並んで座り迎えに三兄弟が座っていた。エミリアは、五歳の誕生日プレゼントで両親からもらった真っ白なクマのぬいぐるみを大切にし、常に持ち歩いていたのである。
「クマさんは私と一緒なの!私の妹だもの。」
「えぇー。クマが妹?そもそもぬいぐるみだぞ?」
と右隣りに座るディアンが笑いながら言う。
「いいの!私には弟はいるけど、妹はいないもの。」
「エミリアが我が家の末っ子じゃないか。弟なんていないよ?」
と左隣りに座るデュークが不思議そうに尋ねると、
「アルは弟みたいなものよ!」
とエミリアは言ってのけた。
「エミリア!王子殿下になんてことを!」
迎えに座る父からの叱責が飛んでくるが、
「だって、アル私より小さいし泣き虫だし、運動神経だって私のほうがいいもの。」
「エミリア、君はわかっていない。いいか?王子殿下はな『いいじゃありませんかあなた。でも、エミリア王子殿下にそのような言い方をしてはいけませんよ?将来国王陛下になるお方なのです。わかりましたか?』」
父からの説教をかばってくれた母の言葉に、若干不満はあったが素直に頷くエミリアだった。だって、アルはアルだもん。国王陛下にアルはなれるのかしら?と心の中で思いながら。
そんなこんなで気づくと国立公園に着いていた。従者が馬車を開けてくれたので、エミリアは駆け出す。
「わぁ!広い!ブランコがある!兄様たちも行きましょう!」
そう言って二人の手を引っ張るエミリアに
「エミリア、こちらで待っているわね。」
と、遊具から見える場所に父と母がレジャーシートを敷いて座るのが見えた。
「お母様~!お父様~!」
ブランコにエミリアが座り、ディアンが立ち、後ろからデュークが押してあげるのを公爵夫妻は微笑ましく見ていた。
しばらくして、お昼を食べることになり母が作ったお弁当を食べる。それから、また遊びに行こうとするエミリアに、
「ごめんねエミリア。僕少し疲れたから休むよ、ディアンと遊んでもらって。」
少し疲れた顔をしている普段から体の弱いデュークに、
「お兄さま大丈夫?」
と、エミリアが心配そうに言う。
「平気だよ。せっかく来たのにごめんね。ちょっと横になるよ。行っておいで。」
と言われて、エミリアはしぶしぶディアンと遊ぶことにしたのである。
「デュークお兄様大丈夫かな?先週も寝込んででようやく良くなったのに。」
「そうだね。兄様は体が弱いから・・・。」
ディアンが心配そうに言う。その時、ふと何かの鳴き声が聞こえてきた。
「なんだろう?なんの声だろう。ちょっと行ってみようよ!」
と遊具の裏にある雑木林に行こうとするディアンに、慌ててエミリアも続く。
「ディアンお兄さま待って!」
先に雑木林に脚を踏み入れたディアンが、何かを拾い上げる。
「お兄さまそれは何?」
「犬だ!見てエミリア!小さくてかわいいよ!」
それは、真っ黒な犬だった。
「これが犬なのね!なんてかわいいの!お父様お母様デュークお兄さま見て!」
エミリアが先に駆けていき三人に話すと、捨て犬らしいことを確認した父がディアンとエミリアがちゃんと世話をすることを条件に飼う許可をしてくれたのだ。
帰りの馬車では犬の名前を何にするかでディアンとエミリアが揉めたが、『見つけたのは僕だ!だから僕に命名権がある!』と豪語するディアンにエミリアは上手く言い返せなく、犬の名前はクロに決まったのであった。