涙~シャイル目線~
エミリアが目覚めない中、アルフォンスは多忙な中睡眠時間を削ってまで、エミリアを毎日見舞っていた。シャイルも毎日ではないが一緒に着いて行った。だが、眠っているエミリアにただ優しく話しかけるアルフォンスを見るのは辛かった。
アルフォンスは、エミリアが目を覚ますことを少しも疑ってないようだった。目をさますことを信じて、より一層職務に励んでいた。そんなアルフォンスを見て、シャイルは、どんなことがあっても必ず支えていこうと思っていた。
エミリアが眠り続けて三ヶ月半経った頃、アルフォンスと一緒に見舞いに行ったシャイルは、エミリアの顔が初めて反応し歪むのを見た。慌てて医者を呼ぶと、「良い兆しです。もうすぐ目を覚ますでしょう。」と言った。
喜ぶディアンやアルフォンスに、医者は続けて言った。
「まだ、お伝えしてないことがあります。」
「何だ?」とディアンが言う。
「実は、目覚めても障害が残る可能性が高いと思います。」
「どういうことだ?」とアルフォンスが聞く。
「お嬢様は、頭を打ち腰も強く打ち付けています。良くて下半身麻痺が残るでしょう。最悪の場合、目覚めても記憶を失い一生寝たきりかもしれません・・・。」
「何か治療法はないのですか?」とナタリーが聞く。
「リハビリ施設があります。ですが、植物状態の場合はどうすることも出来ません。」
「・・・。」
「また明日お伺いします。」医者は、静かに頭を下げると部屋を出て行った。
誰も何も言わなかった。ナタリーのすすり泣く声だけが部屋の中に響いていた。しばらくすると、ディアンが言った。
「殿下。エミリアのことは、お忘れください。」
「ディアン・・・。」
「殿下のことは幼い頃からよく知っています。苦労すると分かっている王家にエミリアを嫁がせようとしたのは、我が家への支援だけが目的ではありませんでした。エミリアが王弟との婚約を受けようとした時、エミリアを幸せに出来るのは殿下しかいないと改めて思ったのです。もう我が公爵家は、あの頃のような経営状況ではありません。一億ペイは直ちにお返しします。どうか、エミリアのことはお忘れください。」
「ディアン・・・。」
「殿下。このような事態になってしまって申し訳ありません。全て我が公爵家の不注意です。殿下の今の状況は十分に分かっています。国王陛下を始め多くの大臣から、他の令嬢を婚約者にするよう強く言われ、断っていることも知っています。エミリアがこのような状況になってしまっては、王妃になることなど出来ません。私は、エミリアがただ息をしているだけで幸せです。私達公爵家が、エミリアを一生面倒見ていきます。どうかお忘れください。」
「ディアン。頼むよ。それでも、僕はエムを・・・。」
「殿下。賢明な判断を。」そう言いディアンは頭を下げる。
「・・・。」
だが、アルフォンスは決して頷こうとはしなかった。頭を下げ続けるディアンを見て、シャイルは言った。
「ディアン。エミリアが目を覚ましてから考えよう?まだ仮定だ。また、明日来るよ。」
そう言うと、シャイルはアルフォンスの背を押し公爵家を後にしたのだった。馬車で王宮に帰ってる時、ずっと無言だったアルフォンスがシャイルに言った。
「シャイル・・・。」
「ん?」
「エムは僕の婚約者にならなければ、今頃・・・。」
「まぁ。今の状況にはなってないかもしれないだろうな。」
「・・・。」
「それも仮定の話だ。起きてしまったことは、もうどうしようもない。それより、障害が少しでも残らないことを祈ろう。」
「シャイル・・・。」
「ん?」
「シャイルは僕のこと憎くないの?」
「へ?」
「シャイルはエムが好きでしょ?僕じゃなくシャイルの婚約者になっていたら、エムは・・・。」
「はぁ・・・。らしくないな。」
「え?」
「エミリアのことは好きですよ。でも、エミリアを幸せに出来るのは殿下しかいないと思っています。お互い好きで愛し合っているのに、俺がどうのこうのって問題じゃないですよ。エミリアのことをどうするか考えましょう。周りがなんと言おうとも、俺は絶対殿下の味方でいますから。」
「ありがとう。」
シャイルは、なんだか照れくさくて聞こえないふりをして外をずっと見ていた。
2人にはやらなければならないことがたくさんあった。エミリアの犯人の足取り。周りへの説得。周りには、エミリアが目覚めてからの判断ということで無理矢理納得させた。ただ、エミリアの犯人の足取りはどうしても掴むことは出来なかった。
その二週間後。エミリアは目を覚ました。公爵家から使いが来て、アルフォンスとシャイルは駆けつけたが、エミリアは眠っていた。しばらく目を覚ますかと待ったが覚まさず、夜遅いのでディアンに促され帰宅した。
次の日シャイルが出仕すると、アルフォンスが既に公爵家に行ったと伝えられた。シャイルもすぐに公爵家に向かい、エミリアの部屋を開けるとアルフォンスがエミリアを抱きしめていた。
エミリアの「だれ?」と懐かしい声を聞くと、シャイルは安堵から崩れ落ちそうになった。アルフォンスは、エミリアを抱きしめながら泣いていた。エミリアが駄目かもしれないと言われても、1人泣かなかったアルフォンスが泣いていた。シャイルも溢れる涙を止めることが出来なかった。
エミリアは事故当時の記憶を失っていた。何故自分が寝ているのかも理解できていないようだった。そして、エミリアの言葉から瞬時に下半身麻痺が残ったことが分かった。突然歩けなくなり、パニックで暴れるエミリアをアルフォンスは泣きながら抱きしめていた。侍女が慌てて呼びに行った医者がエミリアを寝かすまで、皆ただ泣き続けていた。




