疑惑~シャイル目線~
あの夜。エミリアが崖から落ちた夜。シャイルにとって、果てしなく長い夜だった。溶体が急変し、駄目かもしれないと何度も思った。一睡も出来なかった五人に夜が明ける前、王医が『峠を越えました。』と告げた。
胸を撫で下ろす五人に、『ただ、いつ目を覚ますか分かりません。頭を強く打ったので、最悪一生覚まさないかも知れません。』と告げた。
ディアンとナタリーは、エミリアを公爵家に連れて帰った。アルフォンスが、『宮殿で最善な治療をさせて欲しい。』とどんなに頼んでも、首を縦に振らなかった。ディアンは、『俺の血のつながった唯一の家族であり何よりも大事な妹だ。』と静かに言い連れて帰った。ナタリーはシャイル達に頭を下げると、エミリアを抱き上げ運ぶディアンの後ろを歩いて行った。オースティンは、『事件の状況を軍でも調査してみる。』と言い、アルフォンスの肩を叩くと部屋を出て行った。
静かにエミリアを送った後、アルフォンスはリーリアを執務室に呼んだ。何があったのか詳細に説明を求めた。
リーリアは、『エミリアに会いたくて公爵家に行った。しばらく話していたが、せっかくだから一緒にアルフォンスに会いに行こうという事になった。馬車に乗ってる時、展望台から景色を見たい。とエミリアが言うので、馬車を止めた。だが、その直後暴漢に襲われて、自分は何とか護衛に守られたが、エミリアが捕まり逃げようとして崖から転落した。それを見て暴漢達は逃げていった。』と泣きながら言った。
リーリアは泣きながら震えてて、シャイルはあれほど怖い目にあったのだから当然だろうと思った。ゆっくり休むよう言おうとした時、
「リーリア。エムが本当に僕に会いたいって言ったの?」とアルフォンスが何の感情も含まない声で聞いた。
リーリアは、泣きながら頷いていた。「そう。行っていいよ。今はゆっくり休むといい。」とアルフォンスが言うと、失神でも起こしそうなリーリアをリーリアの侍女達が連れて部屋を出て行った。
その後、2人になるとアルフォンスがシャイルに言った。
「ねぇ。シャイル。」
「なんだ?」
「リーリアのことどう思う?」
「どうって?」
「いや、なんでもない。エミリアを襲った犯人を何とか見つけよう。」
「おう。」
アルフォンスが怒ったり泣いたりせず、淡々と仕事を始めるのが、シャイルには不気味に感じた。
それから、三ヶ月たった。アルフォンスとシャイルは既に王立学園を卒業していた。
顔の腫れが引き、目立った傷も消えかさぶたも取れたのに、エミリアは目を覚まさなかった。エミリアは、死んだように眠り続けていた。時々、ピクリと僅かに動く指先だけが、シャイルに生きていることを教えてくれた。
また、エミリアの犯人は見つかってなかった。何の手がかりもなかった。エミリアの護衛は殺されていたし、リーリアの護衛たちもリーリアと同じことを言い犯人たちの特徴を述べた。だが、その特徴の犯人はオースティンが総力を上げ探しても、見つからなかった。
三ヶ月間ずっと、シャイルは何かが胸に突っかかっていた。何かがおかしいと思っていた。
仕事を終え、馬車で侯爵家に帰っている時だった。
―何かおかしい。何だ。何がおかしいんだ・・・?展望台に立ち寄ったエミリア。あんなに、ディアンとアルフォンスから厳しく言われているのに、いくらリーリアの護衛がいるからって侍女も連れず護衛1人で出かけるか?―
―それに、エミリアは確か義姉と過ごすと言っていた。義姉はリーリアと応接室で話した後、すぐ出かけたと言っていたよな・・・。そんなに、アルフォンスに会いたかったのか?前日に会っていて、そして次の日には会えるのに。―
―何故、リーリアは無事だったんだ?令嬢を襲うのが目的であれば、リーリアも傷一つくらいついてておかしくないはず。それに、何故エミリアの護衛だけが命を落としたんだ?それほど強いなら、リーリアの護衛が大怪我してもおかしくない・・・。―
―学校で襲われたエミリア。何故学校なんだ?セキュリティーがしっかりしていて、貴族の侍従も届け出ないと入れない・・・。あの日届け出てたのは、リーリアの侍従・・・。伯爵令嬢の侍従。公爵令嬢の侍従。あと、侯爵子息の侍従だったな。みんな、青い髪じゃなかった。―
―次は、リーリアのお茶会の廊下で襲われた。何故だ。何故、王女の住む宮に入り込めた?茶色い髪の毛・・・。染めたのか?―
―黒と青系の髪は、フォスタ王国の特徴でもある・・・。―
―・・・。・・・。―
―・・・。!まさか・・・。!―
ある考えに思い至ると、シャイルは来た道を引き返した。アルフォンスは既に宮殿に戻っていた。王室の居住区に周りが取次ぎをしようとするのを無視し、シャイルは強引に無理やり入る。アルフォンスの部屋を開けると、アルフォンスはソファーで何か資料を読んでいた。
突然入ってきたシャイルに、アルフォンスは驚いたが座るよう言った。だが、シャイルは立ったまま口を開いた。
「殿下。まさかだと思います。信じられないと思います。ですが、それしか考えられません。エミリアを襲った犯人は・・・。」
シャイルの話を聞くと、アルフォンスは静かに頷いた。
「そう。君の言うとおりだ。ただし、証拠がない。」
「気づいていたのか?」
「僕の考えに自身がなかったんだ。ただ、君が言うなら間違いない。今確信したよ。」
「これからどう動く?」
「あちらにばれて、下手に逃げられては困る。実は、・・・・。」
そうして、2人は夜が更けるまで話し合っていた。




