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回顧4~シャイル目線~

シャイルが中等部に上がっても、エミリアを初等部に迎えに行ったり家に遊びに行ったりし、変わらぬ関係を維持していた。中等部に上がると、周りの女子達は化粧をするようになっていて、大人の女性へ変化しようとしていた。だが、まだ化粧もしない6年生のあどけないエミリアだけが、シャイルには眩しく見えていた。どんどん美しくなっていくエミリアのことを、幼いころと同じように気軽に触れることはなぜか出来なかった。


3人の関係が変わったのは、エミリアの両親が死んだ時だった。大雨が降った翌日、その訃報を両親から聞いた。シャイルにはどうすることも出来なかった。心配し落ち着かない日々を過ごしているシャイルと対照的に、アルフォンスはエミリアに会いに遠いウェズリー公爵領に向かったと父から聞いた。シャイルは、その行動力を初めて羨ましいと思った。


しばらくしてから、葬儀を済ましたエミリアが王都に帰ってきたことを知った。エミリアは、一週間経っても学校には来なく、公爵家を訪ねても部屋から決して出て来なかった。


二週間目になると、エミリアはようやく登校してきた。一限目が終わり、休み時間にアルフォンスと会いに行くと、やつれ泣き腫らした目をしたエミリアが窓の外をぼーっと見つめていた。


その時シャイルは、エミリアがか弱い女の子だということに初めて気づいた。幼いころからよく喧嘩し、髪の掴み合いだってしてきた。よく笑い、エミリアはいつだって明るく元気だった。でも、今のエミリアはどこか消えてしまいそうだった。守ってあげたいと思った。笑わせてあげたいと思った。


王族サロンでは、そんな自分の感情をコントロールすることが出来なく、シャイルはエミリアに思うまま言葉を叩きつけた。言いたいだけ言い我に返ったシャイルは、エミリアの反応が怖くて部屋を出て行った。


―エミリアは両親を亡くして辛いのに。ひどいこと言ってしまった。謝ろう・・・。―


ようやく決心し、シャイルが部屋に戻るとエミリアは寝ていた。アルフォンスが手を握りながら愛しそうに頭を撫でているのを見て、シャイルは胸がちくりとするのを感じた。


「エム寝ちゃったよ。」


「起こすか?授業どうする?」


「ううん。寝てないみたいだし、このまま寝かせてあげよう。」


「俺らどうする?」


「シャイルは授業に戻って。僕はここにいるよ。」


そう言われると、何も言えずシャイルは授業に戻った。お昼に会いに行っても、エミリアはまだ寝ていた。


「まだ寝てるのか?」


「うん。」


「・・・。」


「シャイル。僕はこの後公務で行かなきゃならないんだ。シャイル、側にいてくれる?本当は嫌だけど、今日は特例。」


「お・・・おう。」


そう言いアルフォンスは出て行った。眠るエミリアを見て、シャイルは何故か泣きそうになった。しばらくして放課後になったので、さすがにエミリアを起こした。起きたエミリアに対して、シャイルの口から出てくる言葉は暴言だったが、エミリアはいつもの様に笑って言い返してくれた。それにシャイルの顔からも笑みがこぼれた。


その約一年後、兄のデュークが亡くなった。火葬し王都に戻ってきたエミリアは、何もなかったかのように振る舞っていた。いや、以前以上に明るく振る舞うようになっていた。そしてエミリアは、シャイルとアルフォンスにどこか壁を作るようになっていた。


エミリアは見るからに痩せていった。心配するシャイルとアルフォンスに、『私だって女の子よ。ダイエットよ。』とにっこり笑っていたが、明らかに同年代の子より細かった。少しでも太って欲しくて、アルフォンスと美味しくて高カロリーの店によく連れだした。笑って完食するエミリアを見ては、シャイルは自分自身を安心させた。


いつか消えてしまいそうで何かしてあげたくてたまらなかった。守ってあげたかった。でも、エミリアは誰の助けを必要としないで、1人で懸命に生きていた。そして、無理をしては倒れていた。それでも、必死に生きているのが分かった。シャイルは、必死に生きてるエミリアが好きだった。


だから、エミリアが自分のことを好きになることを、少しも望んでなかった。エミリアが幸せなら良かった。心から幸せになることを願っていた。








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