回顧1~シャイル目線~
幼い頃からシャイルはひねくれていた。というか性格が悪かった。どんなに優しい言葉を吐く人間も、シャイルがひどい言葉で返せば顔を歪めてシャイルを見た。当たり前のことだが、シャイルは『ほら優しい人間なんて存在しないんだ。』と思っていた。
初等部に上がるまでシャイルは侯爵領で暮らしていたが、時たま帰ってくる王都で暮らす父はとにかく厳しかった。父が帰ってくると辛い剣術の稽古をつけられ泣く日々だった。母と兄はそんなシャイルを甘やかした。優しい母と兄に暴言を吐くことが出来ず、結局領地に住んでいる子供たちに暴言を吐き泣かせることで、シャイルはストレスを発散していた。
初等部に入学し、エドガー王国唯一の王子と同じクラスになった。身分的に同じクラスになるのは避けられないので、せめて他学年であれば・・・。と今でも思う。
入学式の次の日、休み時間に女生徒に囲まれ笑顔を振りまいているアルフォンスに、『嘘くさい笑顔だな!お前も内心こいつらブスだと思ってるんだろ!』と突っかかったことがきっかけだった。囲んでいた女子達は泣きながら逃げていった。
アルフォンスは目を丸くしてその後何故か笑った。初めての反応にびっくりしたシャイルは、思わず動揺して教室から出て行った。
―何なんだあいつ・・・。笑うなんて・・・。変なやつ。―
そんなシャイルを、アルフォンスは追いかけてきた。
「ねぇ。僕はアルフォンス。君はブルドン家のシャイルでしょ?友だちになろう!」
と言ってきたのだ。驚いたシャイルは反射的に頷いてしまった。今だに後悔している。
それから、アルフォンスはいつも一方的にシャイルに話しかけてきた。シャイルは、『へぇ。』『そう。』しか返さなかったが。
アルフオンスはよく『エム』という女の子の話をしてきた。週末会いに行ってるらしかった。
「女と遊んで何が楽しいの?」と聞くシャイルに、
「エムは女の子らしい遊びを好まないんだ。でも、僕は絵を書いたりするのが好きだから・・・。」と言う。
「ふーん。」
「ねぇ。エムがね。僕の方が歳上なのに、僕のこと弟みたいだって言うんだ。」
「へぇー。お前がなよなよしてるからじゃない?」
「僕なよなよしてる?」
「うん。」
「どうしたら、なよなよしなくなる?」
「俺の親父に鍛えてもらえば、しなくなるんじゃない?」
「えー。総司令官・・・?そっか。じゃあ今週末シャイルの家に行くね?」
「ふーん。」
シャイルはどうせ来ないだろうと思っていた。だが週末になると、本当にアルフォンスはやってきた。おかげで、シャイルも一緒に稽古するとばっちりを受けるはめになった。
小さいながら一生懸命稽古する王太子に、シャイルの父は胸を打たれたようだった。最初は週末だったのが、週に3回4回となり、遂にはほぼ毎日するようになった。おかげでシャイルも毎日軍の訓練所に通うはめになった。アルフォンスは本来の負けず嫌いの性格を発揮し、必死に稽古していた。
そんなある日だった。登校すると、明らかにアルフォンスが落ち込んでいた。らしくない姿に、シャイルから声をかけた。
「どうした?」
「うん。エムに嫌われたかも・・・。」
「なんで?」
「会いに行かなかったから・・・。」
「稽古忙しくて、そんな暇なかったもんな。正直に言えば許してくれるだろ?」
「稽古してること知られたくない。」
「へぇ。」
「ねぇ聞いてる?どうしたら許してくれるかな?」
「知らね。でも、女は手紙喜ぶんじゃねぇの?」
「そっか。手紙書こう。」
しばらくしても、手紙の返事が来ないようだった。
「エムが手紙の返事くれないんだけど。」
「へぇ。」
「どうしよう。会いに行こうかな。」
「嫌われてるんだからやめとけば?」
「やっぱり嫌われたのかな?」
「うん。」
「シャイルどうしたらいいかな?」
「強くなったら会いに行けば?そのために剣術始めたんだし。」
「そっか。そうしよう。」
という結論にそれから至ったのだった。




