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命の灯火~シャイル目線~

冬休みが終わる前日、シャイルはいつも通りアルフォンスを手伝っていた。


―くっそ。俺をこき使いやがって。俺はまだ学生だぞ!くそ王子!エミリア今からでも遅くない。こいつだけはやめろ。お前は気付いてないけど、腹黒でねちっこいやつだぞ!―


と心の中で毒づいていると、アルフォンスが「シャイル。どうかした?」とにっこり笑って言う。なんでもないと強く首を振りながらもまた毒づく。


―ここ一ヶ月、常に機嫌がいいのも怖いんだよ!エミリアが来ると俺に今すぐ出てかないと殺すぞって顔するし、今にもエミリアを襲いそうな顔してるし。あーエミリア、こいつと結婚するのはやっぱり考えなおした方が・・・―


「シャイル?」とまたにっこり笑って言いつつも、アルフォンスの眼の奥は今度は笑ってなかった。


「ナンデモナイデス。そういえば、今日はエミリア来ないのか?お前ら、最近ほぼ毎日会ってるじゃねーか。まぁ、明日から学校だし、どーせ会えるけどよ。」


「今日は会えないんだ。僕は仕事忙しいし、エムも最後の休みだから義姉と一緒にいたいんだって。僕は毎日会いたいのに。冷たいと思わない?どう思うシャイル?義姉より僕だろ?」


「ソーデスネ」とシャイルは棒読みで返す。


―くっそ滅びろ!もうなんでこいつと出会ったんだろう。せめて学年がずれてれば・・・。―と考えている時だった。


「殿下!!!」と侍従が大声でノックもせずに部屋に入ってきたのだ。


「おい、お前ノックくらいしろ『エミリア様が、暴漢に襲われ重体です!』」


と告げた。アルフォンスもシャイルも、何を言っているのか理解できなくて、


「え?エミリアは今日家から出ないはずだけど?公爵家が襲われたってこと?」


「は?暴漢?」


とポカーンと聞いた。侍従は真っ青な顔でまた言った。


「エミリア様は、今日リーリア様と散策にお出かけになったらしく、その道中に暴漢に襲われたそうです。」


それを聞いた瞬間アルフォンスが怒鳴った。


「エミリアはどこにいる?」


「あ・・・。」あまりの迫力に侍従は声が出ない。


「答えろ!エミリアは今どこだ!」


エミリアは意外にもすぐそば宮殿の一室に運ばれていた。どうやら事故現場から、一番近かったらしい。王医がエミリアを診断していた。


ドアを開けて見えたエミリアは、昨日見たエミリアと別人だった。エミリアの面影が全く無かった。全身傷だらけで、顔は大きく腫れ上がっていた。唯一見覚えのあるところと言えば、頭に巻かれた包帯から少し見える血で汚れている白金の髪と、目を閉じてても分かる見慣れた長い金の睫毛だった。


シャイルは呆然とエミリアを見つめていた。何が何だか訳がわからなかった。アルフォンスが崩れ落ち、「エム・・・。」と呟くのをただ呆然と見ていた。


それからすぐにディアンが駆け込んできた。変わり果てた妹を見て、ディアンは「エミリア!」と叫んだ。暴れだしそうなディアンを王医は制すと、3人を隣の部屋に連れだした。


王医は、「今夜いっぱいでしょう。」と静かに言った。王医の助手が、言葉が出てこない3人に状況を説明してくれた。


「エミリア様はリーリア様と散策中に、軍の訓練所近くで暴漢にあわれたそうです。逃げようとし、エミリア様は崖から10メートル下に転落しました。全身の傷は、転げ落ちた時に岩や草木に打ち付けたものです。一命を取り留めたのは、雪が緩衝材になりました。ですが、頭を強く打っていて出血も多いため、今晩持つかどうか・・・。」


そう淡々と言う助手の胸ぐらをディアンが掴み叫んだ。


「お前医者だろう!妹を助けろ!」


慌ててシャイルは止めに入ろうとした。だが、ディアンの目から大粒の涙がこぼれているのを見て固まった。そして、自分の目からも涙が出ていることに、その時初めて気がついた。


ディアンとシャイルのこらえきれない嗚咽だけが、部屋の空気を支配していた時、アルフォンスが席を立ち部屋を出て行った。


泣きながらそれ追うシャイルとディアンが見たのは、静かにベッドの側の椅子に腰を掛け座るアルフォンスだった。アルフォンスの両手は、傷だらけのエミリアの手を握りしめていた。


その後3人とも一言も喋らずエミリアを見つめていた。夜になり、義姉のナタリーとオースティンが来た。ナタリーは静かに泣きながら、優しくエミリアの頭を撫でると、ディアンの右手を握って座った。オースティンはシャイルの頭をくしゃくしゃ乱暴に撫でた後、ディアンの左隣に座った。誰も何も言わなかった。だが、アルフォンス以外の四人の嗚咽がその夜響いていた。


『シャイル!クッキー食べてね?忙しいところ邪魔してごめんね?』と言うエミリアに、「うるせぇ!さっさと帰れ!」と会話した昨日にシャイルは戻りたくなった。


幼い頃からどんなに口が悪くても、いつも笑ってくれたエミリアを思い出すと、溢れる涙がどうしても止まらなかった。


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