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新しい家族~エミリア17歳~ 

季節はすっかり秋になっていて、シンディーの家に毎週通うようになって一ヶ月経った。兄と幼なじみたちにはこっそり出かけたことはすぐにバレた。孤児院に出かけた日、着いてくる侍女と護衛に口止めし、ディアンには『殿下に会いに行ってくる。』と出かけたのだけれど。


要因は、ディアンが王宮に出仕し資料室に資料を取りに行った時だった。偶然、アルフォンスとシャイルが自ら資料室にやってきたのだ。


アルフォンスは中等部に入学した時点で既に予算案などに携わるようになっていた。シャイルも本来のディアン同様、どんなに優秀でも官吏試験を受けなければ資料室の出入り等決して許されないが、アルフォンスの側近という特例が国王によって認められていた。それほど、アルフォンスとシャイルは優秀だった。


『エミリアとお会いではなかったのですか?』というディアンに、アルフォンスは首をかしげた。エミリアがアルフォンスに会いに朝早く出かけて行ったと聞くと、直ちに護衛たちにエミリアの捜索を命じた。


数十分後、エミリアが襲われた時の恩人に会いに行き孤児院を訪問していると報告を受けると、そのまま護衛するよう命じ自分たちは公爵家に向かったのである。


シンディーと別れ家に帰ってきたエミリアを迎えたのは、険しい顔をしたディアンだった。『まだ犯人も捕まってないのに、どれほど危険なことか分かっているのか!』と怒鳴るディアンを、アルフォンスもシャイルも止めなかった。


だが、エミリアも譲らなかった。自分が卒業するまでの残り一年半どうしても目をつぶって欲しい。お願いだ。と。一時間近く攻防戦が続き、結局折れたのはアルフォンスだった。ディアンとシャイルは不満気だったが。


『王家の護衛も付け、必ず人通りの多い道を歩くこと。そして出かけるときは必ず、事前に自分とディアンに許可を取ること。』とアルフォンスは言い、エミリアも『必ずそうするわ。』と約束がされ、収束したのである。


当初、アルフォンスは許可しつつも、すぐに『やはり危険だ。』と言い辞めさせるつもりだった。だが、シンディーはエミリアに良い刺激をもたらしているようで、楽しそうにあった出来事を自分に話すエミリアを見ると、結局許さざるを得なかった。


シンディーと出会ってから、エミリアはリーリアとアルフォンスの政治等の話にも参加するようになった。今まで、優秀なのに傍観者を決め込んでたエミリアが参加する事によって、新たな視点からの意見も聞けたし、王妃になる覚悟を決めてくれたみたいでアルフォンスには嬉しかった。


犯人は捕まらなかったが、穏やかな時間が過ぎていたある日の事だった。夕食を食べている時、ディアンが突然「エミリア。結婚しようと思う。」と言った。


驚いてスプーンを落とすエミリアに、『フィリップ辺境伯の次女で、王立学園で同級生だったナタリーだ。』と続けた。エミリアはとても喜び、出会いなど詳しく聞きたがった。だが、ディアンは苦笑するだけで『今週末家に招待する。予定を開けておくように。』と言いそれ以上は答えなかった。


ナタリーと会う日はすぐにやってきた。ナタリーは赤みの強い金色の髪に、透き通った緑色の目をしている人だった。緊張するエミリアに『どうか、実の姉と思って!』と優しく微笑んだ。ナタリーの父と母は辺境伯領にいるようだったが、ナタリーは王都の屋敷に滞在し公爵家に足しげに通った。


結婚式は一ヶ月後と決まった。あまりの急展開に驚くエミリアに、ナタリーは笑って教えてくれた。


「初等部に入学した時からディアン様が好きで好きでたまらなかったの。私、一日も欠かさず好きって言い続けたわ。でも、ディアン様は決して振り向いてくれなかった・・・。私ね、貴族令嬢なのに剣術を嗜むのよ。それは、辺境伯という領地で生まれたのが要因でもあるわね。今は平和だけれど他国から攻められてきたら、真っ先に我がフィリップス家が戦わなければならないもの。それで、何度もディアン様に剣術で勝ったら結婚して!って言い続けたの。」


「お兄様は、ナタリー様と戦ったのですか?」


「ううん。決して戦ってくれなかったわ。」


「どのようにして、お兄様と結婚する経緯に至ったのですか?お兄様は教えてくれなくて・・・。」


「ふふふ、あのね。高等部を卒業しても私は領地へ戻らなかったわ。だってディアンに会えなくなるもの。ディアンは滅多にしか夜会に来ないから、なかなか会えなかった・・・。そんな私に両親が来年21歳になるのだから、今年中にお見合いさせると言い出したの。」


「まぁ・・・。」


「私ね。ふふ。それでディアンの職場まで会いに行ったの。」


「えー!」


「結婚して!って言ったわ。ディアンは『まだ結婚する気はないから。』って断ったわ。」


「それでどうしたんですか?」


「結婚してくれなきゃ死んでやる!って短剣を自分の喉に突き立てたの!」


「え!!!!!!」


「そしたらね、ディアンが必死に『待て!早まるな!』って慌てだしたの。初めて見るディアンの慌てた姿は可愛かったなぁ・・・。」


「ナタリー様・・・。」


「私すごい執念でしょ?剣を離さない私を見て、ディアンが苦笑しながら言ったわ。『僕の負けだ。結婚しよう。』って。それで、私ができるだけ早くがいい!って更にわがまま言って一ヶ月後に決まったのよ。」


「壮絶ですね・・・。」


「でしょ?それでも私は幸せだわ!」


「兄もナタリー様に愛されて幸せですよ。」


「ねぇ。エミリア?私はあなたも愛しているわ。愛するディアンの大切な妹だもの。私たちは家族になるわ。実の姉のように、兄には言えないことなんでも相談してね?」


そう言い抱きしめてくれるナタリーは、エミリアにどこか母を思い出させた。


両親の部屋は、兄夫婦のための新しい寝室として改装することになった。ナタリーは違う部屋で良いと言ったが、迎え入れる花嫁には一番広くて良い部屋を使ってほしかったのだ。エミリアは実際胸が痛んだが、その痛みに気づかないふりをして、ナタリーのために色々準備を進めた。


あっという間に一ヶ月が過ぎ、ディアンは結婚した。教会で結婚式を上げた後、公爵家で晩餐会を開いた。挨拶周りをする兄夫婦をエミリアが嬉しそうに見つめていると、オースティンが隣に来た。


「お嬢様。なんだか寂しそうですね?」


「そんなことないわ。お兄様が結婚して嬉しいわ。」


「内心、兄が取られて寂しいんだろ?」


「うん・・・。嬉しいけど寂しい・・・。」


「そうだな・・・。お前にとってたった一人の家族だもんな。」


「うん・・・。」


「ディアンが急に結婚したのは、ナタリーの執念もあるけどお前に義姉を作ってあげたかったからだよ。」


「え?」


「お前、学校大変な目にあった時あっただろう?あの時、やっぱり女家族が必要だと思ったみたいだぜ?」


「え?」


「女には女にしか相談出来ないことがあるだろう?どんなに仲の良い兄でも、男には言えないことってあるだろう?」


「私って・・・。お兄様に本当に大事にされているのね・・・。」


「今頃気づいた?」


「ううん・・・。昔から知ってたわ・・・。オースティンありがとう・・・。オースティンも早く結婚しなよ!」


「うるせぇ。俺の片思いも報われねぇんだよ。もうお前でいいや。」


と言った時だった。誰かがオースティンの肩を叩いたのだ。


「なんだよ?げ・・・。殿下。」


「オースティン。エムは僕の婚約者だから諦めて。」


「はいはい。分かったからそんな怖い笑い方すんな!」


新しい家族を迎えた夜は、そうして更けていった。


その一ヶ月後。アリアンヌは雪の降らない灼熱の国キボン王国に嫁いでいった。エミリアにはアリアンヌから手紙が来た。手紙にはこう書かれていた。


―エミリア。挨拶もせずに急に旅立ってしまってごめんなさいね。まず、ディアンの結婚おめでとう。あなたに義姉が出来て嬉しいわ。エミリア。幸せになるのよ?私は必ず幸せになるわ。それから、自分の考えを胸に秘めていたら、相手に伝わることは決してないわ。他人の心の中は誰にも分からないものよ。理解しあうために、アルフォンスの考えを聞き自分の気持ちを伝えるのよ?アルフォンスとあなたの結婚式には必ず出席するわ。またの再会を祈って。アリアンヌより。―


秋に終わりを告げ、外は今年最初の雪が降り始めていた。




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