重み~エミリア17歳~
翌週エミリアは、はやく週末になるよう願って過ごした。ふと思い出しては笑みを浮かべるエミリアに、リーリアは『何かいいことでもあったの?』と聞きたがった。でも、エミリアは『秘密です。』と言いアルフォンスにもディアンにさえ教えようとしなかった。
週末になりエミリアがシンディーに会いに行くと、シンディーは困った顔をし孤児院に行くことを反対した。未来の王妃であるエミリアに、もしものことがあれば大変だからだ。
どちらも譲らずしばらく平行線の状態が続いていた。しばらくして、シンディーの母が様子を見に部屋にやってきた。2人の意見を聞くと、『エミリーちゃん変装しましょう。服はシンディーのに着替えるといいわ。』とにっこり笑って言った。『お母さん!エミリア様にエミリーちゃんだなんて!』と慌てるシンディーに、エミリアは『嬉しいわ。あなたもエミリーちゃんと呼んで。』とはにかみながら言った。
『もう。今回だけですよ・・・。』としぶしぶ言いながらシンディーは服を借してくれた。ぽっちゃりしているシンディーの服はエミリアには少し大きかった。それを見た戻ってきたシンディーの母は大きな声で笑った。
「エミリーちゃんは服を変えても、美貌と品性はどうしても隠し切れないわ。これはうちの店で扱っているウィッグなのだけど、ちょっとかぶってみてくれる?」
そう言うと茶色い髪の鬘を渡してくる。かぶったエミリアを見て、シンディーは『エミリア様は何でも似合いますね・・・。』と驚きながら言った。『シンディー、エミリーと呼んで。あなたがエミリア様と言うとばれてしまうわ!』とエミリアは笑いながら言った。
その後、2人は仲の良い庶民同士の友達のように手を繋ぎながら王都を歩いていた。途中で、子どもたちに文房具と駄菓子を買うシンディーをエミリアは眩しく思った。
―なんて素敵な人なんだろう。家族でもない他人のために何かをしてあげるって、誰にも出来ることではないわ。―
孤児院に着くと、『シンディー!』と言いながら、たくさんの子供達が駆けてきた。院長はエミリアを見るととても驚き『貴方様は・・・もしや・・・。』と言った。エミリアが口に指を当て『内緒にしてください。』と小さくささやき、『初めましてシンディーの友達エミリーです。今日は仲良くしてね。』と子供たちに言うのを見ると小さく頷いた。
孤児院の子たちは、皆心にどこかしら傷を抱えているようだった。院長たちやシンディーに甘え親の愛を求めていた。そんな親がいない子供たちに、エミリアはどこか自分の姿を重ねていた。
子供たちは美しく優しいエミリアを取り合い、エミリアに抱っこをねだった。抱き上げた時に感じる人の温もりに、両親やデュークを思い出しエミリアの目からは涙がこぼれた。
『重かった?』と心配そうに聞く子供たちに、エミリアは首を振って笑った。
「母達にね、昔よく抱きしめてもらったことを思い出したの。」
『そうなの?いいなぁ。僕はお母さん死んじゃったから。』
「そうなのね。私のお母さんも死んじゃったのよ。」
『じゃあ、エミリーのお母さんと僕のお母さんは天国で友達になってるかもね!』
子供たちの純粋さや優しさに触れ、エミリアは心が暖かくなるのを感じずにはいられなかった。
孤児院からの帰り道、シンディーがエミリアに心配そうに言った。
「お疲れではないですか?」
「ううん。すごく癒やされたわ。みんないい子たちね。」
「はい。エミリア様はどこに行っても人気者ですね。」
「そんなことないわ。シンディーはあなたは素晴らしい人だわ。医者になるという夢も素晴らしいわ。私なんて・・・。何の役にも立たないわ。」
「エミリア様。それは違います。」
「え?」
「私にはこのような些細なことしか出来ません。ですが、エミリア様は違います。王妃は国を動かすことが出来ます。私と違い政治を自ら行うことが出来ます。運良く私は恵まれていますが、貧しく犯罪に手を染めてしまうものも王都だけでも大勢います。私はそんな人が一人で少なくなれば良いと思っています。私はエミリア様を信じています。エミリア様とアルフォンス殿下ならば、今よりもっと良い国を作ることが出来ると思うのです。」
「シンディー・・・。」
「図々しいことを言ってすいません。ですが、役立たないなどと仰らないでください。」
「ありがとうシンディー・・・。」
―私、今よりもっともっと努力して、素晴らしい王妃になるわ。この国をもっと良くしてみせるわ。―
その時初めて、エミリアは自分の使命を感じた。そして、今までの自分の考えが恥ずかしく感じた。
―婚約者に選ばれたのは私なのだから、誰かと比べるのではなく自分が出来る最大限のことをしよう。―
夕日に照らされた2つの影法師が伸びていた。




