夢~エミリア17歳~
翌朝エミリアは亡き両親の部屋で目覚めた。ベッドの側に椅子を置き、ディアンが座りながら寝ていた。エミリアがブランケットをかけてあげると、ディアンは目を開けた。
「エミリア起きてたんだね。おはよう。」
「おはよう。お兄様、そんな体勢で寝ると疲れが取れないわ。」
「うん。つい寝てしまったよ。どこか具合悪くないかい?」
「元気よ。でも、殴られたところが痛いわ。」
「腫れが引くまでしばらく学校は休みなさい。エミリアを襲った犯人もすぐ見つかるから安心しなさい。」
「うん。お兄様ありがとう。」
とぎこちない会話を兄妹は交わした。エミリアは兄にどんな顔を向ければいいか分からなかった。泣きはらし目が腫れてる妹を見つめながら、ディアンは犯人のことを考えていた。
―セキュリティーの厳しい王立学園に、簡単に普通のやつが忍び込めるわけがない。しかも目的は盗難ではなくエミリアを襲うこと・・・。そこまで危険を冒してまでなぜだ。エミリアが王妃になることを不満におもってるやつらか?誰だ・・・。いやでも自分の娘を王妃にさせたいなんてほとんどの貴族が思ってることだ。とりあえず犯人は見つけ次第、生きてることを後悔するくらいの地獄を味あわせてやる。―
エミリアは襲われたことを忘れようと思った。体を這った男たちの手を思い出すと震えが止まらなかったが、エミリア自身以上に傷ついた顔をし心配する兄や幼なじみたちの顔を見ると慰められた。
顔の腫れが引き痣も化粧で隠せるようになったので、それから3日後学校に復帰した。自分が襲われたことを学校の誰も知らないことに安心すると同時に、シンディーのことを思い出した。借りた服は、シャイルが保険医を通し返していてくれたので、エミリアがシンディーに会う機会がなかった。
その週の週末の休みに、エミリアはシンディーにこっそり会いに行った。執事のセバスにマクベス家のことを調べさせると、主に国外からの輸入品を取り扱っていて繁盛しているとのことだった。
エミリアが店に入ると、店番をしていたシンディーに似た女性が驚いた顔をした。自己紹介をしシンディーを呼んでくれるよう頼むと、どたどたという大きな音とともにシンディーが現れた。シンディーは驚きながらも、自分の部屋に通してくれた。
シンディーの部屋はエミリアの部屋の半分にも満たなかった。だが、エミリアは大きな本棚に目を奪われた。本棚には入りきらないくらい多くの医学書が並んであった。エミリアが質問しようした時、シンディーに似ている女性が紅茶とお菓子を持って入ってきた。
その女性は、シンディーの母と教えてくれた。エミリアが突然の訪問の非礼を詫びると、訪ねてきた訳を特に聞かずに、『ゆっくりしてらして。』とにっこりと笑い出て行った。
「素敵なお母様ね。」
「ありがとうございます。普段は怒ると怖いのですが。あの・・・。今日は一体・・・。」
「突然来てごめんなさい。この間は助けてくれてありがとう。あなたがいなかったら私は今頃こうしていられてないわ。どうお礼をすればいいのか。」
「いいえ。お元気そうで安心しました。お礼なんていりません。」
「それでも何かさせて頂戴?」
「いいえ。私が今こうして学園に通えているのもエミリア様のおかげなのです。」
「え?私あなたに何かしてあげた覚えはないわ。」
「いいえ。私はエミリア様と同じ高等部二年です。私達庶民は、小学校六年間中学校三年間と教育を受けた後、一部を除いてほぼ働きに出ます。そして、私は運良く王立学園に入学する事ができました。ですが、入学した私を待ち受けていたのは身分の壁でした。貴族の方たちは何かと特待生クラスに嫌がらせをしてきました。職員室のある塔に用事があり帰ろうとした時でした、ある令嬢達に声をかけられ空き教室に連れて行かれました。暴言を吐かれ叩かれそうになった時、エミリア様が教室に入ってこられました。」
「私が?」
「はい。覚えてらっしゃらないかもしれません。ですが、『何をしてらっしゃるの?同じ貴族として恥ずかしいわ。民に納税させる代わりに、貴族は生活を保証する義務があるのよ。』と仰ってください救われました。特待生クラスには他にも助けていただいた者が大勢います。ですから、お役に立てて少しでも恩返し出来ればいいのです。」
「あなたは、本当に優しい人ね。ありがとう。」
「とんでもございません。」
「あの。気になっていたのだけど、本棚に並んでる本。医学書が多いのだけれど?」
「はい。あの私将来医者になりたいのです。そして多くの命を救いたいのです。」
「医者?」
「はい。人のために役立ちたいのです。昔から母がボランティア活動に熱心でして。その影響ですね。」
「ボランティア?」
「はい。孤児院を訪問したり、重い病を抱えている子供に会いに行ったり、街中のゴミ拾いをしたりなどするのです。」
「あなたもあなたの家族も立派だわ。素晴らしいわ。私そんなこと考えたことなかったもの。」
「とんでもないです。」
「ねぇ。シンディー?私も孤児院に行きたいわ!」
「え!何を仰るのですか!」
「ねぇシンディーお願いよ。私あなたの話ももっと聞きたいわ。また来てもいい?来週また同じ時間に来るわ!その時孤児院に案内して。ね?約束よ!」
エミリアは戸惑うシンディーの返事も聞かずに、軽やかな足取りで帰っていった。




